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ある日、逗子へアジフライを食べに ~おとなのこたび~

2026.06.25 公開 ポスト

日々の悩みも旅がさらっと流してくれる――こたび対談、その2大平一枝/秀島史香

3月発売以来、多くの方に読んで頂いている旅エッセイ『ある日、逗子へアジフライを食べに』。この度、著者の大平一枝さんとラジオDJ・ナレーターの秀島史香さんの対談が東京・下北沢の書店B&Bで行われました。以前から親交のあるお二人が、それぞれの旅エピソード、仕事と旅の類似点など、さまざまに語り合い、大いに盛り上がりました。前編に続き、後編です。

*   *   *

アルコールでは流しきれない後悔も、旅はさっと流してくれる

大平 秀島さんは、よくおひとりでぱっとお出かけになりますよね。

秀島 行きますね。びっくりするくらいの身軽さで(笑) 休みも不定期なものですから、「あ、明日収録ないんだ」となると、どこかに行きたくなる。湯河原もそういう感じで行きました。

大平 そうそう、最初にお目に掛かった時に聞いたんですよね。「ラジオであんなこと話してしまった……」と眠れなくなったりしないですか? って。時々ですが、私も生放送に出演する機会があって、でもものすごく苦手で。学生の頃からトップランナーで来た秀島さんには、そういうことありませんかって。そうしたら、ありますあります、でもふっと思いついた時に旅に出て流しちゃいますと。それがすごく印象的でした。

 

秀島 本の中でも書いて下さっていましたよね。「大平さんがあの時のやり取りを文章にして下さった!」と思いました。箱根方面にね、いい日帰り温泉があるんですよ。川沿いにありまして、静かで。

大平 撮影禁止とも書いてありましたね。

秀島 生きていたら色々起きるじゃないですか。仕事でも「言わなきゃよかったな」ということの連続ですし。でもその失敗を、ずっと愛でているのもしんどくなってくる。となると、いかにこう綺麗なもので、できる限り早めに流すといいますか。

大平 そうですね。お酒で流しちゃうときもありますが、根本的に消えない実感があって。でも、場所を変える、自分の置く場所を変えるってすごく素敵だなと。私も後日、ロマンスカーで箱根のそちらを訪れたのですが、新幹線って乗ったら皆さんすぐパソコン開けたりするじゃないですか。ロマンスカーは柿の種とかの匂いがしてきて(笑) 早い早い!

秀島 あはは(笑)

大平 乗った途端、プシュ、プシュ、プシュって。もう宴の始まり。車窓も大きいですし、五感が満たされる、かけがえのない時間になりました。

心に残った「こたび」たち

大平 ここでちょっと、それぞれ心に残ったこたびをご紹介したいと思います。まずは私からですね。

大平 こちらは茅ヶ崎にある開高健記念館です。ご自宅で、書斎もそのまま残されていますけど、書きかけの原稿があったり、座椅子に毛皮の上着のようなものが掛かったままになっていて。生き生きしてる感じです。

大平 次は、先ほどもご紹介した「まるわ食堂」ですね。

秀島 サイクリストのお客さんも多いですよね。シャキーンとしたヘルメットを脱ぎながら、「どれにしようかな~」って選んでいる姿もなかなかで。

大平 道路を挟んで向こう全部が海なんですよね。

秀島 これは巨大なかき揚げですか?

大平 そうです、うどんですね。四国には割と出かけているんですが、あまりの美味しさに、今まで食べていたうどんってなんだったんだろうって。

大平 その帰りの徳島ですね。女友達3人と、まったく予定も立てずに行きました。猪熊弦一郎の美術館に行こうと話していたんですが、休館中で。行き当たりばったり最高ですね(笑)

大平 これは高知のオーガニックマーケットです。有機農産物市の先駆けらしいのですが、ファーマーズマーケットみたいに洒落てなくて。ぜひ行って頂きたいです。

秀島「土佐の日曜市」って書いてありますね。

大平 そうですそうです。

大平 私、路地が好きで。ここはハノイなんですが。路地って吸い込まれる何かがあるというか、行ったら何かありますよね。

秀島 ありますね。

大平 この先はですね、忘れもしないんですが、個人のお住まいでした、半屋外の。まさかの台所に繋がっちゃう。すぐ引き返しました。

大平 これもベトナムですね。こちらは焼き物で有名なハッチャン村です。

大平 これは世田谷線ですね。都電もそうですが、昭和から続く暮らしがそのまま残されているような気がして。そういう線路沿いを歩くのが大好きなんです。

秀島 この路地も誘ってきますねえ!

大平 門前仲町なんですが、この「たんぽぽ」入りたくなりますよね。

秀島 私は「りんご」も気になります。これでもし高かったりしても、それはそれでいいですよね。

大平 自分の勘で入って、仮にちょっとお高かったりしても、それはもうりんごの思い出(笑)

秀島 つぎは私ですね。先ほど世田谷線の話が出ましたが、江ノ電に似てるなと。

大平 江ノ電も大好きです。

秀島 本当に可愛らしくてガタゴト走ってる電車ですが。沿線を歩いていると楽しい発見がいっぱいあるんですよね。その中でも、江ノ島駅の改札を出て頂くと、車止めの上にこの銀色の小鳥ちゃんたちが。奥が売店になっているんですけど、そこにお勤めだった女性が、冬に小鳥ちゃんたちが寒そうだから、お洋服を作って着せてあげましょうと始めて、もう長年続いているという。

大平 秀島さん、けっこう撮ってらっしゃいますよね。

秀島 そうなんです。今はボランティアの方々に受け継がれて、皆さん手編みで「お衣装」を作られて、毎月お着換えしているんですよ。着せている場面も夢が壊れるということなのかな、そっと人知れずなさっていて。

今は色んな国の方がいらっしゃいますから、「キュート!」って写真を撮られているのを横から見ています。「毎月着替えてるんですよ」とお伝えしたい! と思いながら(笑)

秀島 次は、私がそっとシェアしたい場所です。こちらも同じく江の島なんですが。

大平 あ、ここ分かりました!

秀島 灯台があるんですよ。湘南港って、最初の東京オリンピックの時にヨットの競技場に選ばれて整備されたという場所で、ヨットハーバーがありまして。江の島では皆さん神社を目指すと思うんですが、そちらじゃなく。割と静かなんですよ。

大平 穴場ですよね。

秀島 人がいないんです。釣り人の皆さんにはおなじみの防波堤なんですけれど。良い感じのベンチがあって。「良いベンチがある場所は、本当にいいところだね」って、以前、ラジオ番組でご一緒した藤井フミヤさんもおっしゃっていました。たまに、若い女性が座って本を読んでいたり。静かな場所に行きたいなーと思った時は、ぜひ湘南港灯台を目指してみてください。

秀島 駅弁が私大好きでして。旅に出ると、名物だったり人気の駅弁を買い求めるんです。母の実家が岡山県で、先日仕事で行く機会がありまして。これは「祭ずし」のチャンス! だと。岡山の皆さんにはおなじみだと思うんですが、かつて池田の殿様という方が岡山を統治していて、江戸時代に一汁一菜のお触れを出したんですね。そのときに「ほんなら一皿に載せりゃええがー」って色んなおかずを一皿に(笑)

大平 これは下がすし飯ということですか?

秀島 そうです。しかも1200円なんですよ! 私が行ったときには完売していました。

秀島 こちら同じく岡山駅の前で、いつか大平さんと一緒に行きたいなと。奉還町という商店街にあるお酒屋さんなのですが、角打ちをやってるんですって。旅先では商店街巡りをするのが一つのお約束になっています。生放送の前だったので、外から見るだけでしたが。

大平 生放送の前にお散歩をされるんですね。

秀島 しますね。その土地の空気を自分の中に入れると、こう何か沁み込んでくるものがありますよね。

大平 あー、分かります。

秀島 これは台湾の九?(きゅうふん)です。坂道や石段に灯る赤い提灯でおなじみの。台湾は以前ひとりで行ったのですが、この時は家族で行きました。夫と中学3年生になる娘と。15歳の眼差しで見る台湾というのも、なかなか面白かったですね。

秀島 こちらは同じく台湾の本屋さんです。旅先の本屋さんに行くのがとても好きなので。日本の作家の本も多くて、帯にも「本屋大賞受賞!」みたいなことが漢字でそのまま書かれていたりするんです。

秀島 最後はサービスカットです(笑) 大平さんへのアンサーソングですね。

大平 おお!

秀島 これはですね、地元湘南に腰越(こしごえ)という場所があって、漁港なんですよ。漁業協同組合さんが朝獲れのお魚をですね、パン粉に付けてフライにして。

大平 揚げてくれる! すごい! 穴場ですね。

秀島 「腰越漁港 朝どれフライ販売所」という、わりとそのまんまの名前がついているんですけれども。今日は中くらいの大きさのアジだよー、とか、竜田揚げにしたよー、とか。

大平 いやー美味しそう。

秀島 潔いんですよ。フライしかないという。ごはんも欲しくなるじゃないですか。安心してください。白いパックごはんがあります。チン! って。

大平 あ、チンが聞こえてくるんだ(笑)これもこたびですね。

秀島 まさに!

関連書籍

大平一枝『ある日、逗子へアジフライを食べに』

旅先での目当てはひとつかふたつ。夕方には帰路につき、翌日に疲れを残さない。でも一瞬で非日常にトリップできる小さな冒険――それを「こたび」としてみた。静岡へのふらっと日帰り旅から、美容目的の横浜ひとりホテル、女友達とのウイスキーを巡る京都旅まで。気ままだからこそ、思わぬ出会いや発見がある。身も心も解放される大人の旅エッセイ。

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ある日、逗子へアジフライを食べに ~おとなのこたび~

早朝の喫茶店や、思い立って日帰りで出かけた海のまち、器を求めて少し遠くまで足を延ばした日曜日。「いつも」のちょっと外に出かけることは、人生を豊かにしてくれる。そんな記憶を綴った珠玉の旅エッセイ。

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大平一枝

文筆家。長野県生まれ。大量生産、大量消費の社会からこぼれ落ちるもの・こと・価値観をテーマに各誌紙に執筆。著書に「東京の台所」シリーズや『人生フルーツサンド』『こんなふうに、暮らしと人を書いてきた』『そこに定食屋があるかぎり』など。「東京の台所2」(朝日新聞デジタル&w)、「自分の味の見つけかた」(ウェブ平凡)、「遠回りの読書」(サンデー毎日)など各種媒体での連載多数。

HP:https://kurashi-no-gara.com/

秀島史香

ラジオDJ、ナレーター。10代をニューヨークで過ごし、40代には夫と娘とともにベルギーで1年間暮らすなど、海外での生活経験も持つ。現在FMヨコハマ『SHONAN by the Sea』などのラジオ番組の他、テレビ東京『二軒目どうする? ~ツマミのハナシ~』『昼めし旅』、 JAL機内放送、ファミリーマート店内放送に出演中。映画、テレビ、CM、アニメ、プラネタリウムなどのナレーション、EXILEの楽曲『Ti Amo』に参加するなど多岐にわたり活動中。ニッポン放送『文豪ROCK! ~眠らせない読み聴かせ宮沢賢治編』で令和元年度(第74回)文化庁芸術祭ラジオ部門・放送個人賞受賞。
著書に『いい空気を一瞬でつくる 誰とでも会話がはずむ42の法則』『なぜか聴きたくなる人の話し方』(共に朝日新聞出版)。
ライフワークは国内外を問わず各地を訪ねる旅。旅先では、その土地のおいしいものと、地元の人との何気ないおしゃべりが楽しみ。最近印象に残っている旅は、湯河原、松本、岡山、台湾。

X @tsubuyakifumika
Instagram @hideshimafumika

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