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生まれたくなんかなかったのに

2026.06.23 公開 ポスト

「猫がいるから、この世界は少しましになる」人生を続ける理由としての猫小島和男(哲学者)

生まれたくなかった。でも、生まれてしまった。その感情から始まる哲学――反出生主義を研究する小島和男氏による新書『生まれたくなんかなかったのに それでも生きるための哲学』が5月27日に発売になりました。「生まれたくなかったのに、なぜ生きるのか」を問う本書より、「第4章 猫が先に死ぬのが辛い」の3回目をお届けします(第1回第2回)。

ジュードとさびこ

何度も話に出すが、今、私は2匹の猫と暮らしている。ジュードとさびこだ。

2匹とも保護猫で、さくらねこだ。正確な年齢は分からないが、4歳くらいだと思う。4歳ということにしている。とても良い猫たちである。

ジュードは甘えん坊で、いつも私のそばにいたがる。仕事をしていると膝の上に乗ってくる。パソコンのキーボードの上に座り込むこともある。邪魔だが、可愛いので許してしまう。さびこは少しツンデレで、気が向いたときだけ甘えてくる。普段はクールな顔をしているが、たまに急に甘えてくる。そのギャップがたまらない。性格は違うが、2匹とも可愛い。

いずれ、この2匹とも別れの日が来る。考えたくないが、それは避けられない事実だ。10年後か、15年後か、あるいはもっと早いかもしれない。そのとき、私はまた胸が引き裂かれるような思いをするだろう。トラちゃんのときのように、泣けないかもしれない。あるいは、号泣するかもしれない。どちらにせよ、辛いことは間違いない。

猫は神

猫は神だと、私は思っている。別に宗教的な意味ではない。ただ、猫と過ごす時間は、私にとって神聖な時間だということだ。

猫は、見返りを求めない。いや、エサは求めるが、それ以外のことは求めない。いや、撫でも求めるか。とにかく、人間関係のような複雑な駆け引きがない。猫は、ただそこにいる。ただ、一緒にいてくれる。それだけで、私は救われる。

人間は、他者との関係の中で傷つくことが多い。職場の人間関係、友人関係、恋人関係、家族関係。どの関係にも、摩擦がある。誤解がある。裏切りがある。期待と失望がある。人間同士の関係は、どうしても複雑になる。

しかし、猫との関係は単純だ。私は猫を愛し、猫は私に懐く。それだけだ。猫は私を裏切らない。猫は私に嘘うそをつかない。猫は私を傷つけようとしない。もちろん、爪で引っかかれることはあるが、それは悪意ではない、多分。

猫と過ごす時間は、人間関係の複雑さから解放される時間だ。何も考えず、ただ猫を撫でる。猫が喉を鳴らす。それだけで、幸せな気持ちになれる。これを神聖と呼ばずして、何と呼ぶのか。だから、私はこれからも猫と暮らすだろう。先に死ぬと分かっていても。死別が辛いとわかっていても。保護猫がいる限り、私は猫と暮らし続ける。それが、私なりの「生きる理由」の一つでもある。

生まれてこないほうが良かったと思っている私だが、猫と過ごす時間があるから、今日も生きている。猫がいるから、明日も生きようと思える。

矛盾しているだろうか。生まれてこないほうが良かったと言いながら、猫と暮らすことに喜びを感じているのは。

しかし、矛盾とも言い切れないだろう。始める価値と続ける価値は違う。始めないほうが良かったとしても、始まってしまった以上、続ける理由を見つけることはできる。

猫は、私にとってその人生を続ける理由の一つだ。猫がいるから、この世界は少しだけましになる。猫がいるから、生きることの苦痛が少しだけ和らぐ。

猫が先に死ぬのが辛い。でも、一緒に過ごせることは、もっと大きな喜びだ。

だから、猫と暮らす。

* * *

続きは、小島和男著『生まれたくなんかなかったのに それでも生きるための哲学』をご覧ください。

関連書籍

小島和男『生まれたくなんかなかったのに それでも生きるための哲学』

生まれたくなかった。でも、生まれてしまった。 その感情から始まる哲学がある――反出生主義だ。 苦しみは、生まれたことに伴って生じる。 食べていくための労働、結婚しないことへの不安、孤独の居心地の悪さ、そして避けられない老いと病。生きづらさは、甘えや怠けのせいではない。望んでもいないのに、不完全な制度と社会のもとに生まれ落ちたからなのだ。 問題は社会であって、個人ではない。その構造を見抜くことで、自らの苦痛を減らす道筋が見えてくる。 反出生主義の哲学者による、自分を守るための人生論。

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生まれたくなんかなかったのに

2026年5月27日発売『生まれたくなんかなかったのに』(小島和男著)について

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小島和男 哲学者

学習院大学文学部哲学科教授。1976年生まれ。博士(哲学)。専門は、古代ギリシア哲学、反出生主義、うどん。日本うどん学会理事を務め、研究対象の貴賤の無さを語る。著書に『プラトンの描いたソクラテス』(晃洋書房、2008年)、『反出生主義入門』(青土社、2024年)、翻訳書に『生まれてこないほうが良かった』(デイヴィッド・ベネター、田村宜義との共訳、すずさわ書店、2017年、新訂版2024年)などがある。

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