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いつまで自分でせいいっぱい?

2026.06.19 公開 ポスト

#105

今日もどこかの誰かへ佐津川愛美

書籍が完成し、出版される。

そんな前夜。ありがたくて、嬉しくて、きっと少し照れくさくて、むず痒いような気持ちになるのだろうと思っていた。けれど実際は、思っていたよりずっと晴れやかだ。
長年、文章を書いてきた。

書き終えたと思ったら、すぐに次の締切がやってくる。そんな生活をもう何年も続けている。毎回締切に焦るし、何も出てこなくて苦しむ日もある。逆に、書く手が止まらない日もある。

毎回いろいろあるけれど、それでも書き続けてきた。

 

だからだろうか。一冊の本になった今も、「私なんかが」という気持ちより、「よく書き続けたな」という気持ちの方が大きい。頑張ってきたことが、カタチになったという達成感は、自分の仕事としては、初めてに近い感覚だ。

私はなぜ、こんなにも文章を書くのだろう。

不思議なもので、「ドラマを観ています」と言ってもらうより、「エッセイを読んでいます」と言ってもらう方が嬉しい自分がいる。

私は俳優だ。職業を聞かれれば、迷わずそう答える。

文章を書くことを仕事にしているという感覚もあまりない。仕事でずっと書いてきたけど。まごうことなき俳優であると思っている。

それなのに、「ドラマ観ています」より、「エッセイ読んでいます」の方がなぜだか嬉しい。そこには感想がなくてもいい。「読んだ」その一言だけで嬉しくなる。どうしてなのだろう。読んでもらえることが嬉しいのは。

と、考えてみることにした。

私は今関わっている人たちも、会ったことのない人たちも、どこかで同じ時代を生きる仲間だと思っている。大袈裟かもしれないけれど、本当にそう思う。

だから文章を書く時も、誰か特定の人に向けているというより、その仲間たちがふと読んでくれる機会があるかもしれない。くらいの気持ちで、日記を書いているような感覚がある。押し付けたくないから、手紙ではなく、日記なんだと思う。でもちょっと仲間に向けているから、読んでもらえると嬉しいのかもしれない。

共感してほしいとは、あまり思っていない。もちろん「わかる」と思ってもらえたら嬉しい。ただ、その「わかる」がその人に寄り添えるものなら嬉しいというだけだ。

 

中学生の頃、夏休みに突然出会った深夜ラジオを聴くのが日課だった。眠れない夜も、なんとなく寂しい夜も、ラジオをつけると誰かの声が聞こえた。くすっと笑わせてくれたり、ジーンとさせてくれたり。

待ち合わせをしているわけじゃない。直接会えるわけでもない。それでも、いつでも迎えてくれる場所のように感じていた。

映画館が好きなのも少し似ている。暗い客席に座る。隣に誰がいるのかも知らない。でも、同じ時間を共有している。それだけで少し安心する。いつでも、どこでも、誰とでも、1人でも、映画館は受け入れてくれる。

私の文章も、そんな場所になれたらいい。何かを教えたいわけじゃない。正しい答えを伝えたいわけでもない。ただ、「こういう人間もいる」「こういう考え方もある」それだけのことだ。

編集長がある時こんなことを言ってくれた。「佐津川さんは、日常の中で何かを見つけるのが得意ですよね」私は少し驚いた。

でも言われてみれば、私は特別な出来事よりも、日常を書いていることが多い。日常から生まれた気持ち、日常から生み出した気持ち、その子たちを常に綴っている。

新幹線の中で考えたこと。散歩をしながら感じたこと。誰かとの何気ない会話。街で見たもの。そういう小さな出来事ばかりだ。

忙しなくて、慌ただしくて、いつも何かに追われている私の日々。だけど私にとっては、それが人生そのものでもある。

特別な日だけが人生じゃない。ほとんどの時間は日常だ。だから私は日常を書いているのかもしれない。

目立たなくてもいい。大きな出来事じゃなくてもいい。今日を生きている人がいる。悩みながら働いている人がいる。家族を想っている人がいる。一人でご飯を食べている人がいる。

そんな誰かと、どこかで繋がれたら、ちょっと嬉しい。誰かを変えるためではなく。誰かに共感してほしいからでもなく。

ただ同じ時代を生きる仲間に向けて、「私は今日、こんなことを考えていたよ」

そんな日記を、今日もどこかの誰かに向けて書いている。私が文章を書いている理由は、きっとひとつだ。

「一人じゃないよ」と伝えたいのだと思う。

頑張れでもなく、大丈夫でもなく、こうしなさいでもない。ただ、「私はここにいるよ。」「あなたもそこにいるでしょ?」そんな気持ちで、今日も文章を書いている。

【喜】

 今日はちょっと特別な夜なので、お手紙を書きます。

もしこんな私の言葉たちを受け取ってくれたあなたが居てくれるのなら、私もすくわれます。

これからも、どこかで、一緒に生きていきませんか?

拝啓、ここまで読んでくれたあなたさまへ。

関連書籍

佐津川愛美『今日も、自分を生きる練習』

映画『蝉しぐれ』でスクリーンデビュー以来、数々の作品で印象的な役を演じてきた佐津川愛美さん。本書は、30代後半を迎えた佐津川さんが、「演じる」ことと「生きる」ことのあいだで揺れながら、自分自身の輪郭を見つめ直した軌跡を綴った一冊です。映画という仕事場、一人旅での出会い、2年間のホテル暮らし、俳優以外への挑戦――。悩み、迷い、揺らぐ気持ちをまっすぐに見つめる誠実な言葉が胸を打つ、共感必至の初エッセイ。

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いつまで自分でせいいっぱい?

自分と向き合ったり向き合えなかったり、ここまで頑張って生きてきた。30歳を過ぎてだいぶ楽にはなったけど、いまだに自分との付き合い方に悩む日もある。なるべく自分に優しくと思い始めた、役者、独身、女、一人が好き、でも人も好きな、リアルな日常を綴る。

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佐津川愛美

1988年8月20日生まれ、静岡県出身。女優。
Instagram http://instagram.com/aimi_satsukawa

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