私は今、2025年の最後の舞台作品の昼公演と夜公演の間にこの原稿を書いている。
舞台上では出演者たちが夜公演に向けてウォーミングアップをしている。セリフを返したり段取りを確認したりと各々が本番に向けて準備をしている。
私はこの光景が大好きだ。私は彼らが戦に向かう戦士のように見える。セリフを反復して何度も言っているのが刀を研ぐように見え、相手役とセリフを合わせているのが手合わせをして間合いを測っているように感じる。本番直前になると各々が息を整えてジッと集中する。
舞台に立ち観客に作品を届ける者たちをとてもカッコいいなと思って眺めている。
私は上演中には作品をより良くするための行動は何もない。客席でみんなの勇姿を眺めていることしかできない。上演中の演出家はとても無力だ。
稽古期間に数多のディスカッションをして、役者と共に作りあげた役やシーンはどんどん私の手から離れて舞台上で生きる彼らのものとなっていく。少し寂しいが、それでいいのだ。いつまでも私の手中にあってはいけないと私は考えている。作品を観客に届ける作業は役者陣に頼るしかないのだから。
私は毎公演本番10分前に「今日もよろしくお願いします」と役者の楽屋で挨拶をする。
すると、とある役者に「黙って見てろ」と言われる。そして他の役者が「何もできないんだから任せとけ」と乗っかる。もちろん冗談であり信頼関係があるからこその戯れだ。
私はその心強い言葉を受けて客席で黙って見る。そして、生々しく生きる役者たちの怪演を見て、とても良い座組みでお芝居をできているなと幸せを感じる。
いつだって私の作品は役者に助けられている。
今年も多くの作品で役者に助けられた。それは良い芝居をしてくれるとか役を深く掘り下げて作ってくれるとかの演じることに関する部分だけではない。
私はアテガキといって、役者が持っているであろう空気や性格などを想像して役を当て書くスタイルで執筆することが多い。その書き方をしている時に役者に助けられると感じるのだ。
物語の展開や役の葛藤が思い浮かばずに煮詰まったとき、頭の中にしっかりと浮かんでいる役者が刺激や新たな発想の糸口を与えてくれる。
執筆中にとある役が葛藤し言動に迷ったとき、その役を演じる役者が苦悶の表情を浮かべているのを想像する。すると、不思議と次の行動へ繋がるキッカケが思い浮かぶのだ。
その役を演じる役者から感じたことのある空気や話したことのある価値観が役とリンクして物語が進む。会ったことのない役者に関してはどうしても想像の域は超えられないが、なるべく他の作品の映像を観たり、インタビューなどの演じていない状態の映像を観て、その役者の持っている空気を感じて執筆に取り掛かるようにしている。そうすれば、知っている役者と同様に執筆に煮詰まったときの助けになってくれる。
そして脱稿し、稽古が始まると私の想像以上の表情やパワーで演じられる。その度に私の頭の中だけで巻き起こっていた物語がいかにチープであったのかを感じさせられる。
役者という生き物には頭が上がらないなと感じる日々である。様々な人に助けを借り、なんとか絞り出して作品を創らせていただいている。
人だけでなく、物にも助けられている。
延々と叩き続けられ、私の頭の中の出来事を多くの文字にしてくれたパソコンがいよいよエンターキーの反応が悪くなってきた。
買い替えなければならない。
さよなら、私のマック。
来年からは新たな相棒と創作をします。
私は演劇に沼っている

脚本家、演出家として活動中の私オム(わたしおむ)。昨年末に行われた「演劇ドラフトグランプリ2023」では、脚本・演出を担当した「こいの壕」が優勝し、いま注目を集めている演劇人の一人である。
21歳で大阪から上京し、ふとしたきっかけで足を踏み入れた演劇の世界にどっぷりハマってしまった私オムが、執筆と舞台稽古漬けの日々を綴る新連載スタート!
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