
人気放送作家の澤井直人さん。
『大悟の芸人領収書』『だれかtoなかい』『ザ・細かすぎて伝わらないモノマネ』など、人気番組を数多く手がける30代の若手実力派です。
次々とヒット企画を生み出す澤井さんが、番組づくりの裏側で何を大切にし、どのように企画を形にしているのか。今回のコラムでは、その根底にある「人」を見つめる視点と、『ザキヤマがウチのごはんを食べにくる~』誕生の舞台裏を綴ってくださいました。
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「もし、他で通らなかった企画とかあれば送ってもらえませんか?」。
放送作家なら、一度は言われたことのある台詞だろう。
「一緒に、企画考えませんか?」と言って頂けると素直に喜べるのに、「もし、他で通らなかった企画とかあれば送ってもらえませんか?」は、あまりにも雑すぎるのではないだろうか。
これまで企画を通してくれたディレクター・プロデューサーは何人もいたが、どの人にも共通していたのが、“澤井直人と”企画を作りたいと思ってくれていたことだった。そういう人にはPCの中に日頃から貯めている一軍の案を優先的に見てほしいと思うのが人間だろう。
そう思わせてくれたのは、ある一人のプロデューサーだった。
去年届いたある一通のメール。
それは、NHKのチーフプロデューサー・池田さんからのメールだった。
すでに放送が決まっている番組へのお誘いのご連絡。
「あの番組やられていましたよね?」
「エンドロールで澤井さんの名前を見ましたのでご連絡しました!」
これが、よくいただくご連絡。(もちろん有難いことですよ)
でも、池田さんは初めてお会いした時、
「澤井さんの作られた番組は、“人”をテーマにされている番組が多いですね。」
そう言ってくださった。そんな言葉をかけて頂いたのは、初めてだった。私が番組づくりのときに“根底”に置いている核を理解してくださっている気がした。
そんなご縁もあり、『JOYNTPOPS』という、音楽番組に入らせていただくことになった。
『JOYNTPOPS』が進行している最中、新企画の募集があり、池田さんから「一緒に企画を出しませんか?」と言って頂いた。
その企画が実を結び、『ザキヤマがウチのごはんを食べにくる~』(NHK)という番組になった。
初回放送日:2025年3月29日
「最高の料理人は、シュフ(主婦・主夫)である」を合言葉に、どんな相手でも面白く絡める“コミュニケーションの帝王”アンタッチャブル山崎弘也が全国各地の家庭にお邪魔して手料理を食す「絶品本格グルメ旅」。さらには、料理を入り口にして今を生きる家族の絆をも発見する「感動のヒューマンドキュタリー」。
実はこの企画……フーディーブームによって飽和状態になった、地上波のグルメ番組へのアンチテーゼでもあった。
世の中のほとんどの家庭は、外食でご飯を食べる時間よりも、家でご飯を食べる時間の方が圧倒的に多い。東京での単身赴任生活ですっかり外食が当たり前になってしまった私だが、田舎に帰ると、母や祖母はいつも手間を惜しまず手料理を用意し、家族そろって食卓を囲むことを大切にしている。
所ジョージさんがご出演された『情熱大陸』の回で、特に印象に残っている言葉がある。
「収録が終わったら絶対家に帰って妻の手料理を食べるんだよ。理由? 妻のご飯が、一番美味しいから。」
当たり前だが、あの所さんがそうおっしゃっていたのが衝撃だった。
日本の食卓を覗いてみると、そこには家族の数だけ献立が存在する。家庭の一皿から、家族の形がしっかり見えてくる。企画会議のときも、そんな話を池田さんと話して企画の輪郭が一気に見えた。
制作前に、池田さんと2人きりで食事をさせていただいた夜があった。話題は自然と“ドキュメンタリー”の話になっていた。
「ドキュメンタリーの撮影というのは、ロケが終わってからが、はじまりなんですよね。」
そうおっしゃっている池田さんを見て、改めて、人を大切にされておられるテレビマンだなと感じた。幸せなお酒が飲めた夜だと記憶している。
以前、ある番組でバクシーシ山下監督とご一緒させていただいた時、
監督も同じようなことを話されていたことを思い出した。
「撮影しOAも終わった後に、取材者に絶対に会いに行くんです」「何度も何度も会いに行く」
ドキュメンタリーの撮影というのは、“人に寄り添う”ということだと学んだ。
そんな、僕にとって大切な番組をキックオフするにあたって制作をお願いしたのは、杣俊輔(そましゅんすけ)さん率いる映像制作会社のバリサンさん。
杣さんとは、日本テレビで私が企画・構成した「ネタドラ」という特番で知り合い、現在は『大悟の芸人領収書』の演出の一人として番組を支えて頂いている。
杣さんには自分の結婚式で流す余興VTRをつくって頂いた。学生時代に奥さんと埋めたタイムカプセルを兵庫まで内緒で掘り起こしにいくという、それはそれは壮大なVTRだった。
赤字覚悟で、テレビで使う編集の箱まで使って最後の最後まで映像をこだわって作って頂いた。杣さんの愛のある番組づくりのおかげで、家族や友達たち、そしてなにより妻は本当に感動して、式が終わった後も何度も何度もその映像を見返していた。
この世界に関わらず、仕事を拗らせてしまう一番の理由は“人間関係”だと思う。
“チームの座組みで番組の95%が決まってしまう。”
当たり前のことなのかもしれないが、最近になってそれを強く感じるようになった。
はじめから人と人との相性を加味してチームを形成することが、これからの時代、最も大切になってくるのではないだろうか。
『ザキヤマがウチのごはんを食べにくる~』のロケ当日。
早朝6時にスクランブル交差点集合ということもあり、行きのバスの中、一瞬目を瞑った。気づいたら夢の中にいた。はっと目を覚ますと、後ろの席から声が聞こえてきた。演出の杣さんとディレクターの杉浦さんが、画のこだわりをバスの中でぶつけ合っていたのだ。
ロケが始まる直前まで一分一秒たりとも妥協しない、プロの仕業を目の当たりにした。
そのとき、ロケバスの窓から見えた隅田川の煌めいた水面がいまなお記憶にくっきりと残っている。

放送作家・澤井直人の「今日も書く。」

バラエティ番組を中心に“第7世代放送作家”として活躍する澤井直人氏が、作家の日常のリアルな裏側を綴ります。