今日は少し毛色を変えて、実際に形になった、テレビ用語で言う「通った企画」の話をしようと思う。
テレビの企画を通す流れを簡単に説明すると、
テレビ局から企画募集の案内が出る→テレビ局員や制作会社のディレクターから放送作家に声がかかる→二人三脚で企画をこしらえる→提出
というものだ。
時間と手間をかけて一つひとつの企画を練るのに、何千通と集まった企画書の中から通過するのは、10通も満たない。とんでもない倍率である。
そんな無謀な挑戦を突破する為に、普段、どのような会議をしているのか?
こればかりは作家とディレクターの相性が大きい。サクッとお茶がてらに話した企画が通ることもあれば、一年以上企画会議を続けているのに一本も通らないこともざらにある。
例えば、汐留にあるテレビ局のKディレクターは、企画を持ち寄る前に「何か企画をください」ではなく、「まず、番組に大切だと思う◯箇条をそれぞれ持ち寄りましょう」と言ってくれる。
「他で通らなかった企画でもいいのでください!」と言ってくる人もたまにいるが、それで通った試しがない。
Kディレクターとの打ち合わせで提出した、僕の「◯箇条資料」がこちら。
自分が視聴者となり、フラットな目で「どんな番組に惹きつけられているのか?」の軸を探すこと。
ここを省いていると、通ったとしても途中で軸がブレてしまい、「何がしたい番組なのか」が分からなくなってしまう。番組名は明かせないが、実際にそうなっている番組が多いことはたしかだ。
ディレクターと放送作家が、「この番組にどんな軸を据えるのか?」をベースにキャッチボールすることで、良い企画が生まれていく。
ただ、この「軸」は流動的なものでもある。
この資料を作ったときは、上記のことがテレビに大切だと思っていた。
今日は過去に作って実現した企画もご紹介しようと思う。
『ものまねトラベラー! 勝手にただいま』(TBS)
この企画が生まれたのは、2021年の2月。
日本テレビの『新・日本男児と中居』という中居正広さんの番組に「第七世代作家」というくくりで出演させて頂いた際に知り合った、吉仲ディレクターと考えた企画だ。
この吉仲ディレクター、番組の打ち合わせのときから「こちらの意見を否定しない、丁寧な人だな」と思っていたが、出演後のケアも含めて気持ちいい人だったこともあり、番組外での付き合いが続いていた。
その流れで一回「企画打ちしませんか?」となり、僕が出した最初の企画が『ものまねトラベラー! 勝手にただいま』(こういった良い出会いの場合、無意識だが、企画にこめる熱量も変わっている......ような気がする)。
この企画は、フジテレビで『ザ・細かすぎて伝わらないモノマネ』をお手伝いさせていただいたときに着想を得たものだ。
オーディションでモノマネ芸人のみなさんの話を聞いていると、普段からモノマネをするタレントさんのことを徹底的に研究している様子が垣間見えた。「この方たち、ウィキペディアよりもタレントのことを知っている!」という発見だった。
「彼らがその知識をもっと存分に披露できる番組を企画できないかな?」と考えているときにもう一つ気付いたのが、「モノマネ芸人がスタジオ外に出ている映像をあまり見たことがない」ということだった。
それなら、モノマネ芸人を使った旅番組とかやれるんじゃない?
そこからロジックを組み立てていくことで、企画意図に辿り着いた。
実際オンエアでは、チョコプラ松尾さんで、IKKOさんの母校を訪れたり、
神奈月さんが、石原良純さんの出身地・逗子に帰省しPR旅をしたり、
みかんさんが、土屋アンナさんの実家へ突撃訪問したり、
川島明さんになりきったJPさんが、川島さんの飲み仲間の芸人たちと語ったり!
様々な毛色のパターンを作った。
しかし、結果は惨敗。二回目に繋がらない結果になってしまった。
理由は、
・企画書に書いていたような人気芸能人たちが中々キャスティングできないパッケージの番組だったこと
・毛色を変えたつもりだったが、ロケパターンが視聴者に同じ印象に映ってしまったこと
要は、レギュラー化をイメージできなかった「細い企画」だったということだ。
相当な倍率の中で企画を通してOAできても、その大半(5割~6割)は特番一本で終わってしまう悲しい現実がある。ただ、特番を一本打つことで生まれてくる学び(僕は「お土産」と呼んでいる)も、たしかにある。
企画のエピソードは大量にあるので、また後日。
レギュラー化できる太い企画を探して、今日も書く。
放送作家・澤井直人の「今日も書く。」
バラエティ番組を中心に“第7世代放送作家”として活躍する澤井直人氏が、作家の日常のリアルな裏側を綴ります。