
ほんの少しずつ、そう、少~しずつ、筋トレが生活になじんできた、という宮田さん。このたび、散歩の”類稀なる効能”に気づきました!
* * *
先日わけあって1週間あまり実家に帰った。
実家には、だいぶボケてきた母と、独身の弟が住んでいる。
母は耳もかなり遠くなっており、できれば補聴器をつけてほしいのだが、本人は、聞こえなくても不便じゃないと強弁していて、いっこうに話は進まないでいた。しかしデイサービスに通うようになって、多くの人と接する機会ができたので、ここはやはり補聴器があったほうが日々楽しいはず、と補聴器作戦を進めるつもりで、帰省したのだった。
が、今話したいのは、補聴器のことではない。
私の実家は関西の某市の高台にあり、駅からバスで15分ほどかかる。そのバスも昼間は1時間に1本という少なさで、交通の便は結構悪い。弟が車を持っているが、それ以外に車はなく、私が帰省しても乗れる車はない。そうなると帰省中、日々の外出にとても苦労するわけである。
普段から散歩を愛好している私のことであるから、近所のスーパーに行って買い物をするぐらいのことは、雨でも降らない限り、たいして苦ではないのだが、問題は、この高台が周囲の町と隔絶しているということだ。

いわゆる造成ニュータウンで、家はたくさん建ち並んでいるわりに、家以外のものはほとんどない。坂を延々下って駅に出れば、そこからあちこちへ出かけられるものの、それ以外は背後の山を貫くトンネルでしか、他所へ行くことはできない。トンネルの先は山であり、集落もなく、どこかの町に出るまでには車で何十分も走らなければならない。
となると、実家から散歩に出ようとした場合、とりあえず駅方面へ下っていくことになる。駅までの距離は約3キロで、往復6キロ。それだけで結構な散歩になるが、それができるのは1回だけなのである。
というのも、私は同じ道を歩くと、途端にやる気をなくす性格であり、今日は昨日と必ず違う道を歩くというマイルールがあるのである。駅まで行けば、そこからは平地になり、道もたくさんあるから、バラエティ豊かな散歩道が約束されるが、往復の6キロは同じだ。6キロも同じ道を毎日歩くのは、いくら散歩好きの私でも苦痛でしかない。
そんなわけで帰省中1回しか散歩に出かけなかった。また同じ道を歩くと思うと、どうしても腰があがらなかったのである。
そうして1週間あまり、なんとか母を耳鼻科に連れて行ったりして、補聴器をつくる準備を整え、東京の自宅に戻った。
ようやく散歩ができる、そう浮足立ったのも束の間、歩き出して愕然となった。
足が重いのである。
散歩が億劫になるぐらい、はっきりと重い。
重いだけではなく、何もないところでコケそうになる。これまでもそういうことはあったけども、その頻度が格段に増した。

これはどういうことだろう。たった1週間散歩しなかっただけなのに、こんなにも衰えるというのか。
思えば、コロナのパンデミック下で散歩を始めて以来、1週間も休んだことはなかった。仕事の都合や猛暑や雨で数日歩かなかったことはあるが、それでも必ず3、4日に一度は、10000歩以上歩いてきた。
そうして私は今ようやく気づいたのだ。散歩の類稀なる効能に。
ドカドカ散歩しまくっていたおかげで、私はこれまで平気で歩き回れていたのであった。散歩していなければもっとはっきり老化していた。
1週間散歩しなかっただけで足が重くなったのが、その証拠だ。
正直、恐怖を覚えた。これは、歩かないと大変なことになる。
気を引き締め直し、帰宅から3日間ドカドカ歩いた。1日10キロ近く歩いたと思う。
そうすると、またあらたな気づきを得た。
3日間思う存分歩いたら、再び足が軽くなったのである。
散歩は、役に立っていた。それも、ものすごく。
全然健脚になった気がしないと思っていたけど、ちゃんと鍛えられていたのだった。というか衰えを食い止めてくれていた。
私は散歩が好きで、歩かない日も含めて1日平均にすると、だいたい7000歩ぐらい歩いている計算だ。これは楽しみであるから、用事がなければ毎日もっと歩いてもいいぐらいだが、その継続が今の私を成り立たせている。もし、たとえばお金が有り余っていて、海辺のリゾートや温泉なんかで豪遊でもしていたら、私の足はみるみる衰えていただろう。
そして私は思った。
このことは、これからの生き方にある示唆を与えてくれていないだろうか。

暮らしにも同じことが言えるにちがいない。
私は還暦を過ぎたが、未だ同じ仕事を続けていて、休みたいとは思っておらず、ずっとこのまま仕事ができればと思っている。働くことで頭も回転し、多少記憶力の衰えはあっても、最低限の能力はキープできているわけで、もし今リタイアしてしまったら、衰えは加速するだろう。
衰えないために脳トレだの筋トレだのをやる人もあるが、トレーニングと思うときつくなるのは世の常である。散歩は続くのに筋トレはサボりがちになるのが、いい例だ。
やりたいことを仕事にしてきたのは幸運だった。仕事をするのが苦痛でない。
であれば、死ぬまで、というか、肉体的に働けなくなるまで働くだけだ。
それが自分を健康に保ち、心を充足させる一番の方法なのだ。なにか新しい老後対策をたてようとか、今までやってこなかったことをしようとか、敢えて考える理由はないのである。
もちろん今の仕事に充実感を得られない人は、さっさと引退して新しいことを始めたほうがいいだろう。でもそれはきっとリゾートでのんびり暮らすことなんかじゃなくて、没頭できる何かに取り組むことだ。取り組み続けることが、衰えを遅らせるのだ。
(後半へつづく)
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衰えません、死ぬまでは。

旅好きで世界中、日本中をてくてく歩いてきた還暦前の中年(もと陸上部!)が、老いを感じ、なんだか悶々。まじめに老化と向き合おうと一念発起。……したものの、自分でやろうと決めた筋トレも、始めてみれば愚痴ばかり。
怠け者作家が、老化にささやかな反抗を続ける日々を綴るエッセイ。
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