
一日一冊読んでいるという“本読み”のアルパカ内田さんが、幻冬舎の刊行作品の中から「今売りたい本」を選んでレビュー。さらに“POP職人”としての腕を振るって、手描きPOPも作るコーナー。
今月のオススメはこちらです!
また、幻冬舎営業部の人気者・コグマ部長が新刊の中からセレクトする、アルパカ内田さんへの「オススメ返し」もあわせてお楽しみください!
【元カリスマ書店員でPOP職人のブックジャーナリスト
アルパカ内田さんが今、売りたい本】
第46回 標野凪『独り言の多い博物館』

古びたレンガの建物「別れの博物館」。
そこには、人々の大切な記憶の欠片が陳列されています。
自分の過去とお別れするために、
新しい一歩を踏み出すために、
今日もさまざまな想いを抱えた人々が、
大切なものを預けようと博物館を訪れます。
あなたは、何を預けますか?
ご来館、お待ちしております。
みなさん、こんにちは。ひとりよりもことりが好きなアルパカ内田です。
なんと美しく透明感あふれる物語なのだろう。古びたレンガ造りの「別れの博物館」はタダならぬ場所。そこに収集された陳列品は名もなき者たちの記憶の欠片である。依頼人の様々な事情から集まった物言わぬ品々。そこから運命の日々が、まるで走馬灯のように浮かび上がってくる。
自分ならば何を預けてみようか。価値を決めるのは自分自身で、思い出の品を考える行為は人生の棚卸し。止まっていた時計の針が動き出し、いつしか眼前の風景が変化する。まるで生き物のような不思議な博物館に魅了されていた。
舞台は風光明媚な海に囲まれた場所。色彩豊かな情景描写にも心を奪われる。行間から漂う奥深い余韻も存分に味わってほしい。少しずつ読み進めては、目を閉じて映像を脳内で再生しながら読むことをお勧めしたい。
ミステリアスにしてファンタジック。抑制された筆致と、静謐なイメージで物語は進んでいくが、メッセージ性のある雄弁さも魅力的だ。人間の根源にあるもっともピュアな感情をものの見事に掬い取っているのである。決して派手ではないが標野文学には、人として生きていくために必要な「核」があるのだ。
全編に吹き渡る優しく温かく愛おしい風。そして柔らかな光を全身に浴びながら、次第に魂が満たされていく。この作品は現実世界の霧を晴らしてくれる。まさに迷える心をいつでも癒してくれる処方箋のような存在。大らかな包容力が感じられる素晴らしき一冊だ。

アルパカ通信 幻冬舎部

元カリスマ書店員で、POP職人でもある、ブックジャーナリストのアルパカ内田さんが、幻冬舎の新刊の中から、「ぜひ売りたい!」作品をピックアップ。
書評とともに、自作の手描きPOPも公開。
幻冬舎営業部のコグマ部長からの「オススメ返し」もお楽しみください!
- バックナンバー
-
- 伊東潤『鋼鉄の城塞ヤマトブジシンスイス』...
- 標野凪『独り言の多い博物館』- 思い出の...
- 瀧羽麻子『妻はりんごを食べない』/河井あ...
- 岡本雄矢『僕の悲しみで君は跳んでくれ』/...
- 恩田陸『珈琲怪談』/賀十つばさ『ドゥリト...
- 久坂部羊『絵馬と脅迫状』/越尾圭『ぼくが...
- 井上荒野『しずかなパレード』/真下みこと...
- 柳広司『パンとペンの事件簿』/天野節子『...
- 増山実『あの夏のクライフ同盟』/町田康『...
- 南杏子『いのちの波止場』/森沢明夫『桜が...
- 鯨井あめ『白紙を歩く』/岩井圭也『夜更け...
- 辻堂ゆめ『ダブルマザー』/中山七里『作家...
- 下村敦史『全員犯人、だけど被害者、しかも...
- 浜口倫太郎『コイモドリ時をかける文学恋愛...
- 水野梓『金融破綻列島』/柴田哲孝『暗殺』...
- 真梨幸子『教祖の作りかた』/村木嵐『まい...
- 新川帆立『女の国会』/宮田愛萌『あやふや...
- 門井慶喜『ゆうびんの父』/黒木亮『マネー...
- ヤマモトショウ『そしてレコードはまわる』...
- 岡本雄矢『センチメンタルに効くクスリ ト...
- もっと見る