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衰えません、死ぬまでは。

2025.07.04 公開 ポスト

第28話 懸垂ショック 後半

体脂肪率が…減った!?宮田珠己

2、3回くらいならできると思っていた懸垂が1度もできなくて、ちゃんとジムに通おう!と、何度目かの心を入れ替えた宮田さん。

*   *   *

ところで、せっかくフィットネスジムに来たので、体組成を測定してくれる体重計で、その後体脂肪率や内臓脂肪がどうなったか調べてみた。

運動生理学を学んでいる娘から、体重計で測る体脂肪率は一切当てにならない、食事前と食事後で全然違う数値が出るし、運動前、運動後でも違うどころか、排便前、排便後でも数値はコロッと変わる、足の裏が湿っているか乾いているかも大きな変動因子になる、などと散々言い聞かされているので、参考数値として見た。

 

すると体脂肪率は18.5%で、5カ月前に測ったときとほぼ変わらなかった。まあ、1カ月サボってしまったしな、そんなものか、と思っていたら、思わぬ数値に変動があった。

(写真:宮田珠己)

内臓脂肪レベル 4.0

あれ?

これはたしか以前測ったときは、9.0とか9.5とか、そんな数字ではなかったか。

改善されている。それも大幅に。

あくまで当てにならない体重計による計測であり、厳密にはMRIで調べないと正確なことはわからないそうだが、それでも前回とこれだけはっきり数値が違うのは、何がしかの変化があったと考えてもいいのではあるまいか。

ずっと懸案だった内臓脂肪が減った?

体脂肪率は変わらないのに、内臓脂肪が減ったというのは、どういうわけだろう。その分、皮下脂肪が増えたのだろうか。

仮に脂肪の総量は変わらなくても、内臓から皮下へとそれが移動したのだとしたら、喜ばしい傾向である。

私は痩せているのに、なんとなく下腹部が前に出ていることを気にしていたが、この数値を踏まえてよく見ると、少し凹んだような気がしなくもない。

たぶん筋トレではなく、毎日の脂質&糖質制限メニューが日常化してきたおかげと思うが、何であれ、うれしいことに変わりはない。

ここまでやってきてわかったのは、体脂肪率だの、中性脂肪だの、内臓脂肪だのに、散歩や筋トレはほぼ関係なさそうということだ。筋トレももっともっと本格的にやればまた違ってくるのだろうが、そんなものより食事の内容のほうが重要である。

(写真:宮田珠己)

私の食事は、この1年で大幅に変わった。なによりバターを食べなくなった。これまではバターひと箱が半月ぐらいでなくなっていたのである。それが今では、バターケースの中に数カ月前の断片がまだ残っているほど。

バター大好きの私がこれほど我慢できているのは、息子からのプレッシャーのせいであるが、なければないで何とかなるものだ。

そして牛肉や豚肉もあまり食べなくなった。ゼロではないが、肉の9割が鶏、それに魚という超ヘルシー食で、白ご飯もこれまでは必ずおかわりしていたのが、おかわりしなくなり、代わりにブロッコリーだのキャベツなどを食べる日々。

その点では息子に感謝していると同時に、慣れればべつにどうということはなく、今後も続けていけそうである。

となると、問題は筋肉。

中性脂肪、内臓脂肪は減ったが、筋肉が増えない。

今回の体組成測定でも、上半身の筋肉が足りないという結果が出た。

懸垂も一回もできなかった。

顔を真っ赤にして、うーん、て気張っているのに、傍からみればぶらさがったままビクともしないのは、実に滑稽な景色だったはず。

悔しい。懸垂ができる体に戻りたい。

人間、懸垂が1回ぐらいはできないと死ぬ確率が高まるのである。たとえば、海や川へ遊びに行ったとき、泳げるか泳げないかは、下手をすればその人の生命に直結する大問題であることは明らかだろう。同じように、ビルの屋上や崖の上などの高い場所へ遊びに行ったとき、懸垂できるかできないかは、命にかかわる問題になる。

(写真:宮田珠己)

うっかり落ちそうになって、なんとか縁にぶらさがることができたとしよう。だが懸垂できない場合、そこでゲームオーバーである。そこから自力で上にあがれないと死ぬ可能性はとても高い。ぶらさがったまま救助を待つのは限界がある。

あるいは恋人が敵に拉致され、ヘリコプターで連れ去られようとする瞬間、ヘリの足に飛びついて助けようとしても、懸垂ができないとヘリにぶらさがったままどこまでも飛んでいくはめになるのである。懸垂はエージェントに必須の能力なのだ。

というわけで、エージェントではないけども、懸垂ができるようになるまで、ちゃんと鍛えようと考えはじめている自分がいた。

筋トレを始めた頃は、ジムに行くのは気が重かったが、今は苦手意識も薄れ、自然体で通える気がする。行った以上1時間半ぐらいは鍛えなきゃと負担に思っていたのはもう過去の話。たった30分、それどころかほんの15分でもやった気になり、大手を振って帰れるぐらいなめらかな私だ。もはや苦手意識はない。

さて、懸垂するにあたって気になるのは、ぶらさがったまま全然動かないでも筋肉は鍛えられるか、という点だ。何しろ傍目にはナナフシかナマケモノレベルで微動だにしないのである。微動だにしないものが、そのうち勝手に動き出すなんてことがあるだろうか。

実は、いいマシンがあった。台座にひざまずいたまま頭上のバーにつかまると、台座が下から押し上げてくれる懸垂補助マシン。さすがフィットネス業界、顧客のニーズをちゃんとわかっている。

ちょっとズルしてる感はあるものの、それを使用して懸垂トレーニングを開始する。そのうちまた挫けるかもしれないが、この半年をふりかえってみれば、まあほんの少しずつではあるものの、筋トレが生活に馴染んできている。1カ月サボったけど、なんだかんだで内臓脂肪も減ったし、もしかしたら、知らず知らず私の世界は変わってきているのかもしれない。

(連載は「小説幻冬」でも掲載中です。次号もお楽しみに!)

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衰えません、死ぬまでは。

旅好きで世界中、日本中をてくてく歩いてきた還暦前の中年(もと陸上部!)が、老いを感じ、なんだか悶々。まじめに老化と向き合おうと一念発起。……したものの、自分でやろうと決めた筋トレも、始めてみれば愚痴ばかり。
怠け者作家が、老化にささやかな反抗を続ける日々を綴るエッセイ。

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宮田珠己

旅と石ころと変な生きものを愛し、いかに仕事をサボって楽しく過ごすかを追究している作家兼エッセイスト。その作風は、読めば仕事のやる気がゼロになると、働きたくない人たちの間で高く評価されている。著書は『ときどき意味もなくずんずん歩く』『ニッポン47都道府県 正直観光案内』『いい感じの石ころを拾いに』『四次元温泉日記』『だいたい四国八十八ヶ所』『のぞく図鑑 穴 気になるコレクション』『明日ロト7が私を救う』『路上のセンス・オブ・ワンダーと遥かなるそこらへんの旅』など、ユルくて変な本ばかり多数。東洋奇譚をもとにした初の小説『アーサー・マンデヴィルの不合理な冒険』で、新境地を開いた。

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