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いつまで自分でせいいっぱい?

2025.06.04 公開 ポスト

#82

ビジネス街のお昼どき。佐津川愛美

朝からミーティングを終え、いつもの病院へ。どちらも思ったよりも早く終わった。お支払い用の新札を用意出来ていなかったので、銀行に行かなければと思っていたところ、コンビニで一応引き出してみたらキレイな新札だった。ありがとう神さま。ありがとうセブンイレブンさま。銀行にも行かなくてよくなったので、急に時間が出来た。

時刻は12時少しすぎ。次の仕事への移動までは1時間。なんとなく吸い込まれるように地下に潜った。そこは人で溢れかえっていた。そうか。お昼どきか。ここはビジネス街だった。あまりの人に圧倒されて、キョロキョロとお店と人を見ながら地下街を歩いた。

 

日本料理屋さんは空いていて、トンカツ屋さんの前には行列が出来ていた。私は少し心配になった。おそらく1時間のお昼休憩。たった1時間。その限られた時間で「並ぶ」ということを選ぶ人が多いことに驚いた。さくっと済ませる人、しっかり定食を食べる人。それぞれのお昼の過ごし方を、ひょっこり覗き見して歩いた。

そうか、私も1時間だ。タイムリミットは1時間。みんなと同じくらいの時間を持っている。なんとなく勝手に、会社員の気分で紛れてみることにした。

そう考えてみんなを見るととても面白くて、ここでどのお店を選ぶかで感じることは大きく変わるぞと謎のプレッシャーをゲーム感覚で採用した。

1周しても決められず、更に1周半歩いて、結局カレー屋さんに入った。2人がけのテーブルは少なく、1人で座るカウンターテーブルの多いさくっとなお店。普段は絶対頼まないカツカレーが何故か気になって注文してみた。 

出てきたボリュームに後悔した。まず、お皿が大きい。普通にしたのにごはんは大盛りに見える。そしてたっぷりかかったカレーのルー。思わず「お昼からこれは無理かも、、」と思ったけれど、お隣のサラリーマンは勿論、反対隣のOLさん風の女性も、戸惑うことなくスプーンを口に運んでいた。

よしっ!私も。と食べ始めると意外とするするお腹に入っていった。午後からも頑張って働くために、しっかり食べるという選択が、かっこいいもののように思えた。

普段の私は、仕事が不規則であることが20年以上当たり前だ。朝4時起きが続く日があれば、ロケ場所の関係で徹夜で撮影する日もあれば、お昼まで眠っていても大丈夫な日もある。撮影が終われば普通の日に2週間海外に行けるときだってある。そんなときは食べたいときに食べ、眠りたいときに寝る。自由でありすぎる。ビジネス街に居る人たちの決まった生活に、憧れすら覚える。自分にはわからない感覚すぎて、しっかりとしたサイクルを保っている人たちの、日々の捉え方がよく気になるのだ。

この日、同じ空間で、同じ時間に、恐らく同じくらいのタイムリミットを持って、誰かと一緒にごはんを食べた。それだけで、不思議と自分もその憧れの一部になれているような気になった。

たった1時間。ここでチャージして、また午後から新しく働く。みんなそれを普通にやっている。私の忙しないモードは続いているが、だからこそ、この突然出来た1時間が私を応援してくれているように感じ取れた。

私はカツカレーを食べた。

普段は選ばないカツカレーを。共に戦いたい気持ちになったのかもしれない。

さて。また働きに。

よかったぁ。大丈夫。私も同じ時間を生きている。

【喜】名古屋出張。どんどん世界が広がる。
たのしい嬉しい!

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いつまで自分でせいいっぱい?

自分と向き合ったり向き合えなかったり、ここまで頑張って生きてきた。30歳を過ぎてだいぶ楽にはなったけど、いまだに自分との付き合い方に悩む日もある。なるべく自分に優しくと思い始めた、役者、独身、女、一人が好き、でも人も好きな、リアルな日常を綴る。

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佐津川愛美

1988年8月20日生まれ、静岡県出身。女優。
Instagram http://instagram.com/aimi_satsukawa

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