
不思議なお菓子を食べた。
貝や魚の形の白くて小さな最中。中にはオレンジ色に近いカスタードクリームがつまっている。「半生?」と心配になるくらいクリームがとろり濃厚。アヴェイロの郷土菓子「オヴォシュ・モーレシュ・デ・アヴェイロ」である。
運河の街、アヴェイロ。
観光客が主にすることは、運河沿いに並ぶアール・ヌーボー様式のカラフルな街並の写真撮影と、その周辺の土産物店での買い物。それから、モリセイロと呼ばれる小舟に乗っての運河観光。
限られた自由時間。
優先順位の一位はトイレである。ツアー旅行はトイレの時間が決まっているわけで、次の観光地までの配分を考慮し、おのおの責任を持つしかない。アヴェイロ観光では公衆トイレがなかったので、カフェでトイレを済ませる時間を考えると船に乗る余裕まではなく、ただし、不思議なお菓子を食べることはできたのだった。
ポルトガルのお菓子といえばコンフェイト。日本でいうところの金平糖。いわずもかな金平糖はポルトガルから伝わったものである。
コインブラの洋菓子店で、今でも伝統的なコンフェイトが作られいると聞いて買ってみた。白、黄、ピンク。見た目はおなじみ金平糖。よく見ると日本のより透明感がなく、マットな感じ?
食べて驚く。ほろほろとやわらかい。落雁に近いだろうか。織田信長が食べたのもこのほろほろコンフェイトだったのかもしれない。
リスボン、ポルトにつづく第三の都市コインブラは学生の街でもある。
「人口の五分の一が学生と言われています」
とガイドさん。
コインブラ大学にあるジョアニナ図書館は1724年に建てられた由緒ある図書館で、館内は金泥細工と呼ばれる金ぴか装飾。まるでどこかの宮殿のよう。高い吹き抜けの天井まである本棚は、30万冊以上の蔵書でびっしり埋め尽くされている。2013年に世界遺産に登録され、今では多くの観光客が訪れる観光スポットのひとつ。
写真撮影は禁止。むしろ、ほっとする。ゆっくり見てよいのだ。窓から射す光りで本を読む当時の学生たちを想像して楽しんだ。
コインブラ大学の学生たちは黒いマントがトレードマークで、決まりじゃないから羽織っていない学生も多いとガイドさんが言っていたとおり、大学内でもほとんど見かけなかった。土産物店が並ぶ繁華街のほうが出会える確率が高く、「写真を撮らせてあげるかわりにポストカード買って!」みたいなバイト感覚の子たちもいてちゃっかりしている。
街にはモンデゴ川という大きな川が流れていた。橋の上から見る学生の街コインブラ。わたしの中では金平糖の街でもあった。
つづく
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ハレの日も、そうじゃない日も。
イラストレーターの益田ミリさんが、何気ない日常の中にささやかな幸せや発見を見つけて綴る「うかうか手帖」。