
『ベローチェ指数』を使うNISA民
8月に入り、日経平均株価は史上最高値を更新し続けている。去年2024年に初めて40000円台を突破したかと思えば、今年2025年は「トランプ関税ショック」による一時的な大幅下落があったものの、この原稿を書いている8月16日現在は、既に43000円を超えている。
ところで、私は知る人ぞ知るカフェ・ベローチェの超ヘビーユーザーだ。平均して1日1~2回はベローチェに来店している。控えめに言っても年間365回以上、なんなら500回は行っているかもしれない。
今年1月からスタートしたベローチェ公式アプリのポイント数は、もちろん最上位のプラチナランク。ベローチェ年間来店回数、日本一の可能性すらある。
なぜ、それほどベローチェに通うのかといえば、原稿の執筆がもっともはかどる場所だからだ。特に私が行きつけの支店は、テーブルのサイズ、エアコンの温度、客層、騒音レベルに至るまで、すべてがちょうどいい。この原稿を書いている今も、もちろんベローチェの店内にいる。自分の部屋よりも、はるかに長い時間を、私はベローチェで過ごしているのだ。
といっても、私はコーヒーが特別好きなわけではない。ベローチェの椅子に座る権利を得るために、もっとも安価なブレンドコーヒーを飲み続けているに過ぎない。しかし、いつしかこの味がなじみ、私にとってのコーヒーの基準となった。他の喫茶店で高価なコーヒーを飲むと、だいたいは酸味が強くて違和感を覚える。つまり、私の舌が、ベローチェ仕様に調整されたわけである。
ゆえに注文するのは、ほとんどいつもコーヒー1杯。ベローチェが唐突に冷やし中華を始めたときも、猫ブームに乗っかって、いきなり黒猫キャラのオリジナルグッズを販売し始めた今も、ただ黙ってコーヒーだけを頼み続けている。
さて、ベローチェにまつわる私のライフヒストリーと、日経平均の史上最高値連続更新がどう関係するのか不思議に思う人もいるだろう。話はここからだ。
私は長年ベローチェへ通ううちに、ある重大な事実に気づいてしまったのである。
そう、ベローチェのコーヒーの値段が、日経平均と連動しているということに。
ここで、近年のベローチェにおけるコーヒーの値上がりについて振り返ってみよう。
1986年の創業当時、ベローチェは1杯150円という格安価格を売りにしたチェーン店だった。正確な時期は定かではないが、おそらく創業から20年間ほどは、価格も据え置きだったのではないか。ところが、2008年ごろに160円へと値上げされ、その後2016年まで段階的に200円へと引き上げられていった。ここまでは、よくあるゆるやかな値上げだ。
しかし、2019年以降は加速度的に値上げしていく。2019年には210円、2020年には231円、2022年には250円、2023年には280円、そして2024年には300円の大台を突破。さらに今年2025年には、1月に320円、6月には350円と、半年間で2度の値上げを行ったのである。
一方、日経平均はバブル崩壊後から長期的な下落を続け、2008年のリーマンショックで底を打ったのち、数年間の停滞を経て、2013年ごろからようやく上昇に転じた。そして2020年以降、ベローチェの値上げペースと呼応するかのように上がっていく。
特に象徴的なのは2023年だ。従来は10~20円刻みだったベローチェの値上げが、突如30円に跳ね上がると、申し合わせたかのように日経平均も急上昇を開始。そして2024年3月4日に日経平均が初の40000円台に到達すると、ベローチェのコーヒーもまた300円の大台に乗ったのである。
私がこの「連動」に気づいたのは、今年に入ってからだ。ゆえに、ベローチェのレジカウンターで、今年2度目の「価格改定に関するお知らせ」を目にしたときは、思わず心の中で「よっしゃ!」とガッツポーズをとった。
1月に20円上がったばかりなのに、6月にさらに30円も値上げ。つまり、今年だけで50円もの値上げである。これは、ただ事ではない。日経平均は、間違いなく跳ね上がる!
かくして、予想は的中した。
ベローチェのコーヒーが350円に値上げされたのは、今年6月12日。翌13日金曜日には、イスラエルがイランを攻撃し、「戦争が始まる」と世界が騒然となった。この日、アナリストの誰もが「日経平均は下落する」と予想したにもかかわらず、翌週月曜、なんと一時500円超の上昇を見せたのである。
各メディアが「理由がわからない」と困惑するなか、「ベローチェ指数」を使っていた私だけが、「ほらね!!」と膝を打った。
そして8月現在、日経平均は7日41000円超え、12日は42000円超え、13日は43000円超えと、連日のように史上最高値を更新し続けている。
なんせ今年のベローチェは、上半期だけで既に50円も値上げしているのだ。それぐらいの飛躍は驚くことじゃない。
1杯400円に達するころには、当然、日経平均も50000円の大台に乗っていることだろう。
ここで、「コーヒーの値段なんて、どこも上がってるだろ!」と反論する人もいるかもしれない。確かにその通りだ。だが、ここまでトチ狂った値上げを繰り返しているのは、主要チェーンの中でベローチェただ一つなのである。
何しろ、コロナ禍前の2019年までは210円だったものが、今や350円だ。かつてはドトールコーヒーショップより安かったのに、そのドトールが280円にとどまり、高いと思っていたサンマルクカフェと並んでいるのである。しかも、量は一切変わっていない。今のベローチェを見て、誰が「格安コーヒー店」と呼ぶだろう。
つまり何が言いたいかというと、「ベローチェ指数」を使っている限り、ベローチェの値上げは喜ばしいということなのである。そうまでしてベローチェを愛する私を、誰が責められようか。しがないNISA民としては、一杯1000円を夢見て、せっせと積み立てるしかないのである。
これを読んで、荒唐無稽だと感じたそこのアナタ。世の中にはこうした「指数」がいくつもあることを忘れてはならない。
たとえば、ストリッパーが貰うチップの額で、景気の先行きを予測する「ストリッパー指数」。口紅の売れ行きが伸びると景気後退の兆しだとされる「口紅指数」。さらには、女性のスカート丈が短いほど景気が良いとされる「ヘムライン指数」まで存在する。
と考えれば、毎日ベローチェに通う私が「ベローチェ指数」で景気を予測することは、決して的外れではない。むしろ、きわめて理にかなった経済指標なのだ。
ちなみに念のため付け加えておくと、ベローチェは上場していない。
インフレに向かう昨今、マネーリテラシーはますます必要になっていく。闇バイトが横行し、かつては「遊ぶ金ほしさに」だった窃盗事件も「生活苦」が主流となる時代だ。
今年4月には、千葉県内の病院で看護師のアベマリア容疑者(40代)が、男性の財布から現金3000円を盗み逮捕された。「お金がなかったので生活費として使おうと思っていた」と容疑を認めているという。
常習の可能性があるとはいえ、たった3000円で顔出し実名報道だ。神のご加護はなかったのか。あまりに気の毒なので、ここでは漢字名を伏せた。
アベマリアが窃盗で捕まる時代なのである。氷河期世代、給料据え置き、物価上昇、土地は高騰。唯一の希望は新NISA!
というわけで、「ベローチェ指数」が役に立つことを願う。
それが、人間

写真家・ノンフィクション作家のインベカヲリ★さんの新連載『それが、人間』がスタートします。大小様々なニュースや身近な出来事、現象から、「なぜ」を考察。