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プーチンの戦争

2023.07.18 公開 ツイート

安倍元総理が死ぬまで「ガラケー」を使い続けていた深い理由 中川浩一

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まって、まもなく1年半がたちます。いまだに終わりの見えない戦争の現状とこれからの展開、そして日本が向き合わざるをえないシビアな現実とは……。安倍晋三元総理の通訳をつとめた元外務省交渉官・中川浩一さんによる注目の新刊『プーチンの戦争』から内容の一部をご紹介します。

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スマホは戦場で命を落とすツール

安倍晋三元総理は生前、総理時代から一貫してガラケーを使い続けていました。

(写真:iStock.com/Wako Megumi)

死去する当日朝も、羽田空港から伊丹空港に向けて出発する前の航空機の座席で、新聞を広げてガラケーを使う姿が目撃されています。そのガラケーには、当然ながら盗聴されないよう、通信を暗号化したアプリが入っていました

ガラケーとは、日本で開発されたボタン式の携帯電話のことで、「ガラパゴス携帯」を略して「ガラケー」。太平洋の赤道直下にあり、どの大陸にも接した歴史がなく、独自の進化を遂げた動物たちが多く棲んでいるガラパゴス諸島が由来になっており、日本で独自に開発され、発展してきた携帯電話です。

安倍氏はなぜ、機能も限られ、見た目も古い前時代的なガラケーをわざわざ、使い続けてきたのか

いち早くFacebookを始めるなどIT関係に明るいと思われていたため、てっきりスマホを使っているものと思い込んでいたのが、ガラケーを使っていて驚く人も多かったとか。

 

今やガラケーを使っているとスマホを使いこなせない“情報弱者”扱いされることもあるなか、安倍氏は政治家として、機密情報を守るためにあえてガラケーを使っていたのです。

なぜなら、スマホよりもガラケーの方がセキュリティが高いからです。総理大臣はじめ政治家の携帯にある情報は、いかなる情報もすべて国家機密です。

アメリカのオバマ元大統領は情報漏洩を防ぐため、iPhoneやアンドロイド端末ではなく、ブラックベリーと呼ばれる古いスマホを製造元に依頼してカスタマイズし、セキュリティを高めた上で使っていました。安全性を高めるために多くの機能が制限され、通話ぐらいしかできなかったそうです。

ウクライナ戦争においては、ウクライナ・ロシア両国とも兵士はスマホを持って戦場に出ます。

戦場に出たら最後、いつ帰還できるかわからない兵士にとって、祖国に残した妻子や恋人や両親とつながる唯一の手段がスマホなのです。

 

しかし、そのスマホは、ときに、自らの命を落とす危険なツールとなります

ウクライナに軍事侵攻したロシア兵のスマホでの会話を、アメリカの情報機関が受信し、その情報をウクライナ軍に伝え、戦況に多大な影響を与えています。

また、戦場では、通話の傍受だけでなく、ドローンで得たスマホの位置情報も“武器”として使用されます

2023年1月1日、ウクライナ東部ドネツク州の州都に隣接するマキイウカで行われた、高機動ロケット砲システム「ハイマース」によるウクライナ軍の攻撃で、ロシア軍兵士89人が死亡しました。

スマホの使用を禁止されていたにもかかわらず、頻繁に使用したことが原因で、兵士の位置が割り出され攻撃を受けたものと、ロシア軍も認めています。

情報機関で働く人は使わないLINE

無料の通話アプリLINEの国内利用者数は2022年12月の時点で9400万人で、利用率は国内でのスマホ・ケータイ所有者のうち8割をこえ、他を圧倒しています。

しかし、LINEには安全保障上のリスク、個人情報の管理問題が根深く存在しているとの懸念があり、それは今も完全に払拭されているとはいえません。

(写真:iStock.com/solarseven)

LINE側から利用者に十分な説明がないまま、業務委託先の中国企業が個人情報にアクセスできる状態になっていたことが新聞で報じられましたが、さらに利用者が投稿した画像・動画データを韓国内のサーバーに保管していたことが明らかになり、LINEのずさんな運営が問題になっています。

情報機関で働く人は、業務ではLINEなど民間の情報ツールを信用せず、使いません

プライベートでLINEなど民間の情報ツールを使用する場合は、情報が漏れることが前提で、漏れても支障がないものに限って使用する。あるいは使用者が誰かわからないようにしています。

 

LINEは便利だからと、日常的に使用している国会議員もいるようですが、国の機密情報がダダ漏れで、その情報を外国の情報機関が入手している可能性が大いにあります。国会議員がLINEを使用している時点ですでに、その議員は、国の安全保障に影響を及ぼしています。

国会議員に限らず、一般の人でも、LINEやSNSなどに中国の社会や政治体制などを批判した内容を書くと、その情報は中国のビッグデータに記録されるといわれています。

その人が中国や中国の友好国へ仕事や観光で訪れた場合、空港やトランジットで、いきなり拘束される恐れがあります。

LINEを使う限り、あなたの個人情報は、あなたの知らないところで筒抜けとなり、拡散され、悪用される懸念があります。

関連書籍

中川浩一『プーチンの戦争』

日米同盟があるので大丈夫……などと思っていませんか。 その理屈が通らないのは、ウクライナを見ると明らかです。 私たち一人一人が、その現実に目を背けず、向き合うことでしか、この危機を乗り越える道はありません。

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プーチンの戦争

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まって、まもなく1年半がたちます。いまだに終わりの見えない戦争の現状とこれからの展開、そして日本が向き合わざるをえないシビアな現実とは……。安倍晋三元総理の通訳をつとめた元外務省交渉官・中川浩一さんによる注目の新刊『プーチンの戦争』から内容の一部をご紹介します。

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中川浩一

1969年、京都府生まれ。慶應義塾大学卒業後、1994年外務省入省。1995年~1998年、エジプトでアラビア語研修。1998年~2001年、在イスラエル日本大使館、対パレスチナ日本政府代表事務所(ガザ)、アラファトPLO議長の通訳を務める。2001年~2004年、条約局国際協定課、2004年~2008年、中東アフリカ局中東第2課、在イラク日本大使館、2001年~2008年、天皇陛下、総理大臣のアラビア語通訳官(小泉総理、安倍総理〈第1次〉)。2008年~2011年、在アメリカ合衆国日本大使館、2012年~2015年、在エジプト日本大使館、総合外交政策局政策企画室首席事務官、大臣官房報道課首席事務官、地球規模課題審議官組織地球規模課題分野別交渉官を経て2020年7月、外務省退職。2020年8月から国内シンクタンク主席研究員、ビジネスコンサルタント。著書に『総理通訳の外国語勉強法』(講談社)。

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