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プーチンの戦争

2023.07.11 公開 ツイート

中国が台湾・日本に攻めてきたら、アメリカは「派兵なき代理戦争」に徹するのか 中川浩一

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まって、まもなく1年半がたちます。いまだに終わりの見えない戦争の現状とこれからの展開、そして日本が向き合わざるをえないシビアな現実とは……。安倍晋三元総理の通訳をつとめた元外務省交渉官・中川浩一さんによる注目の新刊『プーチンの戦争』から内容の一部をご紹介します。

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ウクライナ戦争は「代理戦争」

今回のロシア・ウクライナ戦争は、軍事大国、ロシアとアメリカの代理戦争です。

(写真:iStock.com/a-poselenov)

代理戦争とは、一国(アメリカ)が直接戦争をすることなく、助け合う関係にある国(ウクライナ)と他陣営の国(ロシア)とを戦わせる戦争で、自らが戦争に訴えた場合と同じ効果をあげることができます。

代理戦争の利点は、(1)自国が戦場でない分、自国の損害は非常に少ない、(2)新兵器・新戦術がテストできる、(3)相手の戦略・戦術が読み取れる、などがあります。

欧米、とくにアメリカはウクライナに、ロシアとの戦争を有利に運ばせるために、衛星情報を使って得られるロシア軍の兵士や戦車、戦闘機の配置や動きなどの情報を事細かくオンタイムで提供。高機動ロケット砲システム「ハイマース」を供与するなど、ロシアの軍事情勢を見ながらウクライナ戦争を繊細に操っている構図があります。

代理戦争とはいえ、戦争当事国のウクライナにもメリットはあります。

ブダペスト覚書で核を放棄したウクライナが今、単独で、力で攻め入るロシアと戦いを続けていられるのは、米欧の情報提供と武器供与があるからです。

 

もし今後、中国が台湾や日本に攻め込む事態となったら、ウクライナで味をしめたアメリカが選択するのはウクライナのような「派兵なき代理戦争」で、表に立たされ、戦場となるのは台湾と日本です。

ウクライナで流れているのは、ウクライナ人の血と戦争を仕掛けたロシア人の血です。アメリカ兵の血は一滴も流れていません

日本とアメリカとの間には日米同盟があり、同盟ほど強くありませんが台湾とアメリカとの間には台湾関係法があります。

台湾関係法は、1979年の米中国交正常化に伴う米台断交後に、台湾との同盟関係を維持するためにアメリカ議会が制定した国内法で、アメリカの台湾に対する基本政策について規定しています。

台湾関係法第2条B項に、「平和的手段以外によって台湾の将来を決定しようとする試みは、ボイコット、封鎖を含みいかなるものであれ、西太平洋地域の平和と安全に対する脅威であり、合衆国の重大関心事と考える」との記述があり、アメリカは台湾を国家と同様に扱い、防衛兵器を供与できるとしています。

これに対して「一つの中国」を掲げる中国は、内政干渉にあたると強く非難しています。

アメリカ人の血は一滴も流さない?

また、2022年12月23日、アメリカの台湾の防衛体制強化および国際的地位の向上を目指した「台湾政策法」は、上下両院を通過後、バイデン大統領が署名して成立。 2023年度国防権限法に組み込まれました。

国防権限法ではまず、「アメリカによる有効な対処の前に、中国が台湾に侵攻し支配する」ことが「既成事実化」するのを阻止することを政策目標として謳っています。

そのために、5年間で最大100億ドルの台湾軍事支援予算が確保され、さらに台湾からの武器購入要請には優先的かつ速やかに応じることも規定されました。

また、即応性を高めるための米台合同軍事演習の実施も盛り込まれ、アメリカ政府職員5~10人程度を毎年台湾に派遣することや、国際機関への台湾参加を促進することなどの外交措置も規定されています。

(写真:iStock.com/Tanaonte)

これらを読むと、まさに台湾を守るためのアメリカの指針であり、「台湾の民主主義は、アメリカのインド太平洋戦略の心臓であり続ける」という米上院のメネンデス外交委員長の言葉を実感します。

しかし、日本と台湾の間には、このような両国間の安全保障の枠組みはありません。

なお、台湾関係法は、台湾の安全保障のためのアメリカの法律ですが、米軍の介入は義務ではなくオプション(選択権)で、アメリカによる台湾の防衛を保障するものではありません

アメリカの台湾有事への軍事介入を確約しない台湾関係法は、「戦略的曖昧さ」と呼ばれ、その曖昧さゆえに、中国を混乱させ、軍事的圧力になると同時に、台湾や日本を不安にさせています。

 

実際には、台湾総統選挙が行われる2024年1月から、習近平氏が3期目の満期を迎える前年の2026年春ごろまでの間が、台湾有事が起きる可能性が最も高いとされています。

日米同盟は、アメリカの台湾関係法よりもはるかに強固な軍事同盟であるとはいえ、ウクライナで世界に示した「米兵の血を流さない戦争」に味をしめたアメリカが、日本に攻め入ると思われる中国、ロシア、北朝鮮との戦争でもその手法を使わない保証はどこにもありません。

その場合、台湾も日本も、戦争の当事国となった場合に流れるのは、台湾人の血であり、日本人の血であり、アメリカはウクライナにしたように「派兵なき代理戦争」に徹するのではないか

そんな不安が、台湾人や日本人の間に広がっているのも無理はありません。

関連書籍

中川浩一『プーチンの戦争』

日米同盟があるので大丈夫……などと思っていませんか。 その理屈が通らないのは、ウクライナを見ると明らかです。 私たち一人一人が、その現実に目を背けず、向き合うことでしか、この危機を乗り越える道はありません。

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プーチンの戦争

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まって、まもなく1年半がたちます。いまだに終わりの見えない戦争の現状とこれからの展開、そして日本が向き合わざるをえないシビアな現実とは……。安倍晋三元総理の通訳をつとめた元外務省交渉官・中川浩一さんによる注目の新刊『プーチンの戦争』から内容の一部をご紹介します。

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中川浩一

1969年、京都府生まれ。慶應義塾大学卒業後、1994年外務省入省。1995年~1998年、エジプトでアラビア語研修。1998年~2001年、在イスラエル日本大使館、対パレスチナ日本政府代表事務所(ガザ)、アラファトPLO議長の通訳を務める。2001年~2004年、条約局国際協定課、2004年~2008年、中東アフリカ局中東第2課、在イラク日本大使館、2001年~2008年、天皇陛下、総理大臣のアラビア語通訳官(小泉総理、安倍総理〈第1次〉)。2008年~2011年、在アメリカ合衆国日本大使館、2012年~2015年、在エジプト日本大使館、総合外交政策局政策企画室首席事務官、大臣官房報道課首席事務官、地球規模課題審議官組織地球規模課題分野別交渉官を経て2020年7月、外務省退職。2020年8月から国内シンクタンク主席研究員、ビジネスコンサルタント。著書に『総理通訳の外国語勉強法』(講談社)。

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