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だいたい人間関係で悩まされる #なんで僕に聞くんだろう。

2023.01.29 公開 ツイート

宗教に依存する母に苦しむ相談者~「毒親って、子どものコントロールがめちゃくちゃ上手い」 幡野広志

写真家・幡野広志さんの人生相談。webメディアcakesで”一番読まれた”人気連載だった「なんで僕に聞くんだろう」の書籍、完結版が発売になりました。タイトルはだいたい人間関係で悩まされる #なんで僕に聞くんだろう。cakesのサービス終了で読めなくなった記事がたっぷり収録されています。
幡野さんの、愉快で、鋭くて、優しい言葉と一緒に、写真もたっぷり楽しめる一冊です。

さっそく、内容を一部公開。
1つ目の人生相談は、宗教に依存している母のもとで育ち、やめたいけどやめるのも怖い…という方からの相談です。

*   *   *

呪いの言葉に毒される前に、呪いの仕組みを知っておいてください

Q

宗教と家族についての悩みです。幡野さんはどうお考えになるか、知りたくて、投稿させていただきました。筆力がなく、心の絡(から)まりをご説明するのに前置きが長くなってしまい、すみません。

私の母は、私が生まれる前から宗教に入っています。

父は全く宗教を信じてはいませんでしたが、母と家族でいるために渋々入っていました。

ふたりは傷つけあって、結局父は亡くなりました。

息を吸うように宗教を教えられて、私はずっと母の味方でした。父と仲良く話せば、母に、あんたは父の味方なのかとなじられました。幼い頃はそれが怖く、大きくなってからは、アルコール漬けで目をぎらぎらさせながら私が一番傷つくことを選んで言う父親が怖く、ほとんど父とは話しませんでした。

父が死んでから、母は、父が死んだのは自分のせいではないかという考えにとらわれ、毎日私に、「私のせいだろうか、そうじゃないよね?」と聞くようになりました。その頃未成年だった私は、母の心が壊れるのが怖く、違うよ、悪いのは父の方だった、と、毎日母に言い聞かせました。

するとある日、母は少し明るい顔で、宗教の方で相性を見てもらったら、父は母を破壊し、私が父を破壊するという相性だったと報告してきました。「あんたが私を守ってくれたんだね、腑(ふ)に落ちて、心が軽くなった」、と言いました。ああ、この人は罪の意識から逃れるために、私が父を殺したと思いたいのだろうか、私が毎日かけた言葉には、何の意味もなかったんだ、と冷静に思う一方で、自分の父への態度を思い返すと、母が言う、その相性というのもあながち間違ってはいないのではないかとも思い、怖くなりました。私は自分を守りたい一心で、父のことは何も考えず、母の味方になったので。

そんな毎日で、このまま母といると、自分の人生を生きられない、ずっと依存されて、無自覚に傷つけられて生きていくなんて嫌だと本気で思い、家を出ました。離れることで徐々に自由を勝ち取りながら、母の好きだったところを思い出すこともありました。

けれど今、また選択をしなくてはならないなと思っています。結婚を考えるような恋人ができました。派手なところはないけれど、日常のちいさな嬉しさを共有できるような人です。

けれど母に話すと、その恋人と私の相性は、父と私の相性と全く同じで、私が恋人を破壊してしまうから決して結婚してはいけないと言われました。

ばかばかしい、また私を支配するつもりかと思う一方で、やはり、幼いころから教え込まれた宗教の威力や、徐々に暗い目付きの、酒を飲む塊(かたまり)みたいになっていった父を思いだし、もしかすると本当に恋人とはこれ以上深い関係になるべきではないのではと思ってしまう自分もいます。

離れたい一方で、教え込まれた宗教から離れれば、なにか良くないことが起こるのではないか、なんて、本気で思っている部分がまだ私の中にあります。

冷静に物事を考えようとする自分と、幼いころから植え付けられた宗教が元になった論理的には説明できない怖れに左右される自分がいて、身動きがとれなくなってしまいました。

(サブレ)

しあわせになれますよ!! とか、救われますよ!! ってのが宗教のキャッチコピーみたいなもんだから、宗教で不幸になって苦しめられていたら本末転倒だよね。ぼくは信仰している特定の宗教ってないんですよ、でも無宗教かといえばそうではなくて、ゆるふわ仏教徒なんですよ。

死んだらきっとお寺で葬儀をして、お坊さんがお経を唱えてるときに、参列者は前の人の所作を真似してお焼香をするとおもうんですよね。お焼香ってトップバッターがいちばん緊張するよね。

結婚式では牧師なのか神父なのかも不明な、たぶん真相は英語講師の副業アルバイトにアーメンって誓っているぐらいだから、本当にただのゆるふわ仏教徒なの。意識低めな仏教徒だから、自分の宗派を知らないし、宗派の違いもわからないし、意識低め仏教徒葬儀パックとかあると助かるんだよなぁ。

ゆいいつの希望は、二人一組で熱々の骨を箸(はし)で拾って壺に入れる、参加者がいちばん緊張するアレを、トングに替えてほしいんだよね。トングってコンビニで肉まんをつかむやつね。できれば先端がシリコン製のなるべく短いトングにして、滑らないようにしてほしいんだよね。色は白と黒の葬式トーンでいいから。

あの世への「橋わたし」を「箸わたし」ってかけているのだとおもうけど、そこはダジャレじゃなくていいし、ダジャレにしてはみんな緊張しまくりだよね。力を抜いてゆるくふわっと骨をつかんでほしい。 悲しみにくれる妻と、まだ箸が苦手であろう息子が緊張しながら、ぼくの骨を長めの菜箸でつかむなんて、こっちが緊張しちゃってあの世から見てられないよ。なぜかノド仏だけさらされちゃうし、アレって誰得なの? 元狩猟者として注目してほしい骨は両顎のハマり方と背骨のカーブですよ、どんだけ芸術的なんだ。

そんな意識低めな仏教徒だけど、どんな宗教であれ、信じている人がいるものを否定するつもりはまったくないんですよ。必要な人がいるのに、自分が不要だからといって排除するのは間違いだとおもってるからです。自分が不要なものを排除したり、倒産や廃業に無関心でいると、世界はどんどん狭いものになっていきますよね。

自分にとって不要なものが世の中にたくさん溢れているから、知らない世界と可能性が広がって、それに救われる人がたくさんいて、人の心も経済も豊かになっていくのだとおもいます。ぼくはアイドルのコンサートに行かないし、アイドルが解散しても困らないけど、だからといって不要だとはおもわないもん。

そしてもう一つなるべく否定したくないのが人の死に方です。あなたのいいまわしから想像する亡くなり方(明記しませんが)をしているのであれば、ぼくはあなたのお父さんの死自体を否定したくありません。 でも、あなたの立場と、相性なるものをみてくれた宗教の人の立場を考えれば、「お父さんが悪かった、あなたは悪くない」といってしまう気持ちはとても理解できます。そもそもお母さんが亡くなっていた可能性だってあったし、アルコール漬けで子どもがいちばん傷つくことを選んでいうお父さんってけっこうな粕酒(さけかす)です。

宗教の人は、あなたは夫から苦しめられていて、お子さんに救われたんですよ、というお母さんとあなたの両方を救うようなニュアンスで話したのだとおもうんです。あなたがお父さんを殺したという意味ではないとおもうんです。というかそうじゃなかったらアホでしょう、向いてないよ宗教。

これはお母さんの解釈と、それを聞いたあなたの解釈に相違があるとおもうんです。

あなたは自分でどうおもってるかわからないけど、夫婦間の紛争を有利に進めるために恐怖心を利用して子どもを味方につけるお母さんと、アルコールで攻撃してくる酒粕お父さんとの間で、板挟みのような状況でしたよね。本当は逃げたかったけど自分が逃げたら家族が崩壊するっておもっていたんじゃない?

子どもがいるのに夫婦どっちかが死ぬまで長期間ずーっと紛争しているなんて最悪だよ。いちばんの被害者は子どもであって、それを紛争している親は気づかなくて、紛争の傷すらも子どもに癒してもらおうとしたり、ストレスをぶつけて発散したり、少年兵のように攻撃に加担させたりするんだよね。

よくおもうことなんだけど、毒親って子どものコントロールがめちゃくちゃ上手いんだよね。ポイズン大学の毒親学科で勉強したのか? ってぐらい上手いし、手法もよく似てる。これって親になった人間が危機や不安を感じたときに、自分の身を守るための生存本能の一部なのかなぁ。

あなたが子どものときに望んでいて、あなたに必要だったのは、子どもが子どもでいることを許される家庭環境ですよ。お母さんから離れることができて本当によかったね。離れるって大切なことで、離れることで余裕ができて視野も広がってお母さんの好きなところも見えるでしょ。だからね、ずっと離れてなね。

もしもぼくがあなたのお母さんからこの相談を受けて、娘の結婚を止めたいなんてことまで書いてあったら、ぼくはみんなを救う宗教者でも、病んだ人を救う医療者でもなく、命を奪う技術を持った元狩猟者ですから、「お母さんが原因でお父さんが亡くなり、さらに子どもの人生をいま破壊しようとしている」とはっきりいってしまうでしょうね。

大蛇に襲われる子どもを助けるときに、大蛇を殺すのが最適解だとおもっちゃうんです。

そもそも宗教の人がやっているという「相性」ってものなんだけど、これって神さまのお告げで相性を明示しているわけでも、何かがみえているわけでもなくて、お母さんの話を聞いて、なんて答えればお母さんの心を救えるかを考えて答えているだけだよ。

これは人生相談と似ている側面があって、相手と会話をして相手がなにを望んでいるかを考えて、それを答えるなんて、人生相談と宗教の初歩なんですよ。結婚式っぽくいうとファーストステップです。

「恋人と私の相性は、父と私の相性と全く同じで、私が恋人を破壊してしまうから決して結婚してはいけないと言われました」ってあるけど、これはあなたのしあわせを考えてじゃなくて、お母さんの望んでいることをいってるだけですよ。神さまがいってるわけじゃないし、そもそも本当に宗教家の方がいったのかどうかも疑わしい。

ただこれ真偽はどうでもよくて、けっこうな呪いです。いまは恋人との関係が良好だからバカバカしくもおもえるけど、実際にトラブルが起きたときに、真っ先にこの呪いが頭に浮かぶとおもうよ。そしてほれみたことかってお母さんが水を得た魚状態になるからね。これもきっとポイズン大学で学んだことなんだとおもうけど。

あなたはどんどん弱って、お母さんはどんどん強くなる、とても有効的でコスパのいい呪いなの。そして結婚すれば、短期間のケンカやトラブルなんかが絶対に起きるんだわ。いつか起こりうることを予言して、相手の行動に制限をかけるってバカバカしいけど、やられた側は効果てきめんなんだよね。

防御するのは難しいけど、せめてこの呪いの仕組みを知っていてください。呪いのコツって、不安に陥れることなんですよ。失敗を予測して不安にさせて、実際に子どもが失敗したときに責め立てる親ってめちゃくちゃ多いんだわ。

防御は難しいけど、反撃は簡単です。もしもお母さんの攻撃に本当に困って悩んだら、自殺という言葉を出してみてください。攻撃が強い人ってあんがい防御は弱いの。あなたのお母さんの場合はそれでまず止まります。

あなたもこれまでの経験から、彼と夫婦になることが不安なんでしょう。相手を不幸にしてしまうとか考えてしまって、不安から逃げたいんでしょう。本当は結婚をしたいのに、はじまってもいないうちから不安を感じて逃げていたら人生の損なんです。結婚したら逃げられないってことはなくて、離婚して別れればいいだけです。あなたの親の人生を、これからあなたが繰り返すわけじゃないよ。

ぼくは本業が写真家なので、写真を見ると撮影者の人柄や性格みたいなものってなんとなくわかるんですよ。これは特殊な能力でもなんでもなくて、きっと書家の方が字を見れば人がわかるってのと似たようなことなんだとおもいます。

写真や字だとわかりにくいけど、異性に対する言動や、車の運転や、お金やお酒との付き合い方でも、人柄ってあらわれますよね。これはなんとなくわかるじゃないですか。

どんなものにも、人柄ってあらわれるんですよね。読んでる本とかみている映画とか、スマホにインストールしてるアプリとか、きっとバッグのなかや机の上の状態にも人柄ってあらわれるし、わかるとおもうんです。

宗教を信仰しているお母さんや、幼いころから宗教を教え込まれたあなたが、宗教的な視点で彼を評価するのは、彼がおなじ宗教を信仰してある程度の価値観を共有しないかぎり無意味ですよ。だって価値観が全然違うんだから。だからといって無理に入信させちゃダメだよ!

彼への評価は、あなたと共有できる価値観で判断したほうがいいですよ。つまりそれってあなたが感じる日常のちいさな嬉しさの共有であって、その積み重ねで結婚を考えるような恋人になったわけですよね。

宗教じゃなくて自分の目を信じて、逃げたければ離婚すればいいのよ。

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だいたい人間関係で悩まされる #なんで僕に聞くんだろう。

「自分がしあわせになることが、いちばんみんなをしあわせにするんですよ」
「他人から嫌われるよりずっとつらいのが、自分で自分を嫌うことです」
「敵意は敵意で返ってくるけど、好意は好意で返ってきます」…など、心に刺さる幡野さんの言葉が満載の一冊!

ガンになった写真家に、なぜかみんな、他ではできない相談をする。でも、幡野さんは、簡単に慰めない、安易に共感しない。でも真実を捉え、時に耳の痛い言葉を、時に誰よりも温かい言葉を、”心の的のど真ん中”に、放り込んでくる。
この鋭さは何?この痛みは何?この居心地の良さは何?この希望は何?……
甘いだけの人生相談なんて、もう要らない。
背中を”本当に”押してくれる、唯一無二の人生相談です。

=====
Q「信者の母のもとで育ち、宗教から離れたいが、怖い」
Q「自分の性について、パートナーにカミングアウトすべきか」
Q「風呂で亡くなった母は、事故死なのか自死なのか」
Q「57歳、無職、独身。お金が無くなったら死ぬしかない」
Q「おもしろい人になりたい」
Q「貧乏から抜け出せない」 
など、31の悩みに対して、あなたのためだけに、手加減ゼロで弾き出される言葉とは――?

webメディア「cakes」のサービス終了で読めなくなった人気連載を収録。cakesでアクセス1位を記録した人気連載の書籍化、完結版!

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幡野広志 写真家

1983年、東京生まれ。写真家。2004年、日本写真芸術専門学校をあっさり中退。2010年から広告写真家に師事。2011年、独立し結婚する。2016年に長男が誕生。2017年、多発性骨髄腫を発病し、現在に至る。近年では、ワークショップ「いい写真は誰でも撮れる」、ラジオ「写真家のひとりごと。」(stand.fm)など、写真についての誤解を解き、写真のハードルを下げるための活動も精力的に実施している。著書に『ぼくが子どものころ、ほしかった親になる。』(PHP研究所)、『写真集』(ほぼ日)、『ぼくたちが選べなかったことを、選びなおすために。』(ポプラ社)、『なんで僕に聞くんだろう』『他人の悩みはひとごと、自分の悩みはおおごと。』『だいたい人間関係で悩まされる』(以上、幻冬舎)、『ラブレター』(ネコノス)がある。

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