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だいたい人間関係で悩まされる #なんで僕に聞くんだろう。

2023.02.08 公開 ツイート

自分をつまらない人だと悩む相談者~「周囲のおもしろさに気がつける人が、おもしろい人だとおもいます」 幡野広志

写真家・幡野広志さんの人生相談。webメディアcakesで”一番読まれた”人気連載だった「なんで僕に聞くんだろう」の書籍、完結版が発売になりました。タイトルは『だいたい人間関係で悩まされる #なんで僕に聞くんだろう。cakesのサービス終了で読めなくなった記事がたっぷり収録されています。
幡野さんの、愉快で、鋭くて、優しい言葉と一緒に、写真もたっぷり楽しめる一冊です。

さっそく、内容を一部公開。今回は、自分のことを「つまらない人」と思っている21歳女性から。

*   *   *

「おもしろい人」になるには?

幡野さん、はじめまして。

私の悩みは、自分がつまらないことです。

私の思う面白い人は、夢中に自分の好きなものを語る事が出来る人です。

ですが、私は何かに夢中になった経験がなく、自分を構成している部品が何なのか分かりません。

面白い人は、とても輝いて見えます。そんな人が、羨(うらや)ましくて、眩(まぶ)しくて、心が苦しくなります。そして何より、限られた時間を過ごすなら、面白い人と過ごしたいです。

ですが、中々面白い人と仲良くなる事ができません。

自分がつまらないからだと思います。

そこで幡野さんに教えてほしいのです。

幡野さんの考える面白い人はどんな人ですか?

面白い人になるにはどうすればいいですか?

私には夢があります。

自分は面白い人だと自信を持って、幡野さんとカフェでお喋りすることです。

よろしくお願いします。

(きゃん21 歳女性)

A

こないだ大阪に行ったんですよ、大阪に行くとぼくはいつもお土産に悩むんです。大阪って何を買えばいいんですかね。551はちょっと飽きてしまったし、八ツ橋とか赤福も売ってるけど、それは京都と伊勢やねんってつっこまれそうだし。大阪って日本一お土産に悩みます。

新大阪駅のお土産屋さんでプラプラしていたら、売り子のおじさんに「これ、新発売で大阪限定なんですよ」って声をかけられたんです。語尾の「よ」は大阪のイントネーションです、上にあがります。

ぼくが冷めた東京人らしく何もしゃべらず見ていても「めっちゃ美味しいんですわ」とひたすらおじさんのトークが続きます。もうこれでいいやとおもい、「じゃあ、一箱ください」とお願いすると「ありがとうございます! ぼくしあわせでーす!!」とおじさんにいわれました。 ぼくはクスリとも笑わなかったんですけど、おじさんがつまらないわけじゃなくて、他人に干渉しない街Tokyoで生まれ育って、自分が冷めたピザみたいなつまらない人間になってしまったんだと痛感しつつ、他人を笑わせる街Osakaで生まれなくて良かったと安堵(あんど)して、売り子のおじさんのトークどころじゃなかったんです。

おもしろい人ってどんな人ですかね。売り子のおじさんからすれば、ぼくはつまんない人だったとおもいます。というかこういうとき、どういう反応をすればいいんだろう。

ぼくはおもしろさって、お金と似ているなっておもっているんです。おもしろい人って、ようはお金持ちみたいなものです。おもしろい人の周りにはたくさん人が集まってきて、おもしろい人は、さらにおもしろい人になります。お金持ちがいろんな人と出会って、どんどんお金持ちになる構図に似ています。

でもそのおもしろさは、狭い範囲でしか通用しないおもしろさかもしれないから、ジャンルや地域が変わるだけで、つまらない人になるかもしれないんです。おなじ理屈で、狭い範囲でつまらない人になっている人だって、他の場所ではおもしろい人かもしれないですよね。

貝貨(ばいか)っていうんだけど、大昔は貝が通貨だったんですって。だから貨とか財とか買とか、お金と関係する漢字には貝って字が使われてるそうです、知らんけど。きっと貝貨の価値だって、海沿いと内陸部と山の奥地では違ったとおもうんです。きっと珊瑚(さんご)とか昆布とかの価値だって、キノコや薪(まき)の価値だって、地域で違ったんだとおもうんです、知らんけど。

「私の思う面白い人は、夢中に自分の好きなものを語る事が出来る人です」、これはまさにそうなんだけど、相手の顔色や反応を読めないと、口をふさぎたくなるほどつまらない人になるから要注意ね。

ペラペラと早口で、相手がすでに関心を失っているのにずーっと夢中で自分の好きなものを語っちゃう人っています。自分の話だけをし続けてしまう人とも、相手の話を奪ってしまう会話ドロボウとも、お茶をしたいとはちょっとおもわないよね。

相手をゲラゲラ笑わせる人がおもしろい人ってわけでもないし、自分ではなく相手のおもしろさを引き出す人だっているし、ぼくはキャバクラとかホストクラブをおもしろいとおもったことがないけど、おもしろいとおもうお客さんがいるから成り立っています。

ぼくは芸術をおもしろいって感じるけど、退屈って感じる人だってたくさんいるよね。おもしろさって価値があることなんです。でも誰にとって価値があるかわかりません。

白状してしまうけど、ぼくは自分がおもしろい人だとおもっていたんだよね。経歴だって人生だってそれなりにおもしろいし、原稿を書いたってインタビューを受けたって反響はいいし、いろんな人と食事に行くけどみんなよく笑ってくれるし。

でも、大阪のお土産屋さんで自分がどこでも通用するわけじゃないって、改めて痛感しました。ありがとう売り子のおじさん。

だからきみも自分がつまらないって自覚するのはいいのだけど、自信を失わなくていいよ。もしかしたらきみは山の奥にいるキノコかもしれないしね。この連載に価値を感じている人にとっては、ここに相談して答えてもらったというだけで、おもしろいことなんだよ。

「幡野さんの考える面白い人はどんな人ですか?」、この質問に答えるなら、周囲のおもしろさに気がつける人が、おもしろい人だとおもいます。出来事だったり、人物だったり、作品だったり、住んでいる街や旅先だったり。広い範囲のおもしろさに気づける人ほど、ぼくはおもしろい人だとおもいます。

価値に気づけるということです。貝の美しさに気づいた人は見る目があったんです。きっとお金持ちになったんだろうね。

「清兵衛(せいべえ)と瓢箪(ひょうたん)」という志賀直哉さんの作品があるんだけど、清兵衛という子どもが勉強もせずひょうたんを作り、そんな清兵衛に激怒した教師がひょうたんを没収し、それを学校の用務員のおじさんが内緒で骨董屋に持ち込んだら、用務員の月収の何倍もの金額で買い取られるんです。

教師に注意された清兵衛のお父さんも怒って、家にあったたくさんの清兵衛のひょうたんを壊して捨ててしまうの。価値に気づける人と、価値に気づけない人の話なんだけど、価値に気づけるって本当に大切なことなんだよ。価値がわからないなら、せめて子どものことを過小評価しないことです。

「私は何かに夢中になった経験がなく、自分を構成している部品が何なのか分かりません」ってとこがぼくは引っかかるんだよね。夢中になったアニメとかマンガとか、音楽とかアイドルとかなんでもいいんだけど、本当に何もない?

そういわれると本当はあるでしょ、でも「こんなくだらないものを……」って自分で自分をディスってない? きみが制作した作品でもないのに。もしそうだとしたらきみは確かにつまらない人なんだよ。おもしろさに気づけているのに、それをわざわざつまらないって判断している理由をよく考えてみてほしいの。

きみぐらいの年の子にあるあるだったりするんだけど、きみはいままで興味を持つべきものや好きになるべきものを、親に押し付けられたり、きみが好きになったものを親からディスられた経験はない?

ファミレスで食べたいものをちゃんと自分で選んだ? テレビ番組だったり、部活動やファッションだったり、進学する学校を自分で選んだ? もしかして親がほとんど決めてきてない? もしくは友達や先生に好きなものをバカにされたとか、どちらにしてもそういう経験があるんじゃないかな。

とくに女の子の場合、親が決めてしまうってことがよくあるのよ。それでちょうど21歳前後で、だいたい就活のタイミングで自分の好きなものがわからないとか「自分を構成している部品が何なのか分かりません」みたいなことをいっちゃうの。

もしも親がきみのことをなんでも決めてきたのであれば、これから仕事のことや恋愛のこととか結婚のこととか、育児のこととか一生決めてくるからね。それって清兵衛の親と一緒で、子どもの価値や可能性に気づけない人なの。

自分のことがわからない人は、それが楽だとすらおもってしまうの。自分がわからないというのは、自分で考える力がないということなんだ。親や誰かを変えることはとても難しくて、変わるのは自分しかないんだ。

おもしろい人になる第一歩は肯定をすること、とりあえず否定はしない。自分の好きな作品も、きみの周囲で起きる出来事もとりあえず全部肯定して笑うの。そうするだけでまずは、きみはいい人になれるの。

きみはきっと好きなものがあるはず、でもそれを堂々と好きといえないだけだよ。だから堂々と夢中で好きなものを語れる人に憧れるんじゃない。

自分はおもしろいってきみが自信を持つには、たぶん何年もかかるとおもうの。何年もかかるけど必ずいつか自信は持てるよ。でもたぶんぼくは死んでるから、自信を持たなくてもいいからお茶でもしましょう。お茶よりもきみが好きなご飯を食べに行きましょう。 好きな料理を語るって、好きなものが目の前にある状態でそれを一緒に食べるから、会話のハードルが低くなって楽だよ。鉄板焼きとか天ぷらとかお寿司のカウンターとかなら調理の様子も見えるからさらに楽です。お金はこの原稿料からだすので遠慮なく。

おもしろさなんて、だいたい自分の半径10メートルぐらいにころがってるものだよ。きみが人のおもしろさに気づけるように、きみのおもしろさも誰かが気づいてくれるから、たくさんいろんな人と会って会話をしてね。おもしろさは今日から稼いで、コツコツ貯金していけばいいよ。

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だいたい人間関係で悩まされる #なんで僕に聞くんだろう。

「自分がしあわせになることが、いちばんみんなをしあわせにするんですよ」
「他人から嫌われるよりずっとつらいのが、自分で自分を嫌うことです」
「敵意は敵意で返ってくるけど、好意は好意で返ってきます」…など、心に刺さる幡野さんの言葉が満載の一冊!

ガンになった写真家に、なぜかみんな、他ではできない相談をする。でも、幡野さんは、簡単に慰めない、安易に共感しない。でも真実を捉え、時に耳の痛い言葉を、時に誰よりも温かい言葉を、”心の的のど真ん中”に、放り込んでくる。
この鋭さは何?この痛みは何?この居心地の良さは何?この希望は何?……
甘いだけの人生相談なんて、もう要らない。
背中を”本当に”押してくれる、唯一無二の人生相談です。

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Q「信者の母のもとで育ち、宗教から離れたいが、怖い」
Q「自分の性について、パートナーにカミングアウトすべきか」
Q「風呂で亡くなった母は、事故死なのか自死なのか」
Q「57歳、無職、独身。お金が無くなったら死ぬしかない」
Q「おもしろい人になりたい」
Q「貧乏から抜け出せない」 
など、31の悩みに対して、あなたのためだけに、手加減ゼロで弾き出される言葉とは――?

webメディア「cakes」のサービス終了で読めなくなった人気連載を収録。cakesでアクセス1位を記録した人気連載の書籍化、完結版!

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幡野広志 写真家

1983年、東京生まれ。写真家。2004年、日本写真芸術専門学校をあっさり中退。2010年から広告写真家に師事。2011年、独立し結婚する。2016年に長男が誕生。2017年、多発性骨髄腫を発病し、現在に至る。近年では、ワークショップ「いい写真は誰でも撮れる」、ラジオ「写真家のひとりごと。」(stand.fm)など、写真についての誤解を解き、写真のハードルを下げるための活動も精力的に実施している。著書に『ぼくが子どものころ、ほしかった親になる。』(PHP研究所)、『写真集』(ほぼ日)、『ぼくたちが選べなかったことを、選びなおすために。』(ポプラ社)、『なんで僕に聞くんだろう』『他人の悩みはひとごと、自分の悩みはおおごと。』『だいたい人間関係で悩まされる』(以上、幻冬舎)、『ラブレター』(ネコノス)がある。

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