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ライムスター宇多丸のお悩み相談室

2022.12.12 公開 ポスト

刊行記念対談#2

人の気持ちをわかろうとすることを諦めないために宇多丸(ラッパー、ラジオパーソナリティ)/星野概念(精神科医)

今夏に刊行された『ライムスター宇多丸のお悩み相談室』。本書は「女子部JAPAN」で長年行われてきた人気連載を1冊にまとめたもの。今回は刊行記念として、精神科医の星野概念さんをお招きし「悩みを聞くってどういうこと?」をテーマにした対談が実現!ロングシリーズとしてお届けします。第2回のテーマは「精神科医にとって人の話を聞くこととは?」です。<構成・文:森田雄飛(桃山商事)>
※こちらの記事は、2022年10月16日に本屋B&Bにて行われた対談を元に構成しています。

第1回「悩みって、相談って、なんだ」から読む

わかり切らないけれど、わかろうとすることを諦めない

宇多丸 星野さんが患者さんの診療をされる時って、どのような手順で、どう考えて、落とし所はどこでといったことは決まっているものなのでしょうか?

星野 えーと、まず、手順はあんまりなくてですね……と言っても、精神医療の仕事をしている全ての人に手順がないわけではなくて、僕が今、行き着いているやり方には手順がないということですけど。

宇多丸 人によって違うということ?

星野 はい。だから僕の場合はということなんですが、話していて気になったこととか、この人はなんでこう考えたんだろうとか、今この状態になっているのはどうしてなんだろうかっていうことを、できるだけ細かくたずねていくような感じです。

宇多丸 なるほど。

星野 ずっと思い続けていることがひとつあるんですが、人って、違うじゃないですか。だからその人のことを「わかり切る」ことは絶対に無理なので、わかったことにしないということ、でも、わかり切れないんだけどわかろうとすることを諦めない……ってすでにややこしいんですが、それは思い続けています。

しぶとく、「ここが気になってしまったので、どういうことなのか、よかったら教えてもらえますか」みたいな感じで、聞き続けるわけです。そうすると、例えば丸太が目の前にあるとして、気になるなと思って削っていたら、何かの形が出てくる……みたいなイメージで、その人が直面している困りごとが浮かび上がってくる気がするんですね。

それが合ってるかどうかはわからないんですが、「こんな感じで浮かび上がったんですけど、どうですか、合ってますか?」みたいに答え合わせをして、「そうなんです、そこが困りどころなんです」となったら、「じゃあこの困りごとをどうしましょうか」と一緒に考えていく感じです。

なので、常に共同作業みたいになるんですよ。精神科の仕事をしていると伝えると、「話していて、心が全部見透かされている感じがする」みたいなことを言う人が時々いるんですけど、そんなことは全然なくて、まったくわからないんです。

宇多丸 「見透かされているのでは……」という気持ちの前提には、プロはきっと「人間には何個かのパターンがある」的な考え方をしているのではないか、という疑念がありそうですよね。それで、「あなたはこれ」と見切られているのではないかと警戒している、みたいな。でも、星野さんはそもそもそのようなやり方をしていないということですよね。

星野 そうなんです。今考えると恐ろしいんですけど、ある一時期、見透かすというか、なんとなくアタリをつけて、「このパターンですね」とか患者さんに対して言っていた時期があって。でも、軒並み間違えたんですよ。

宇多丸 間違えているというのは、患者さんの反応でわかるんですか?

星野 「はあ~」みたいな感じとか、「違います」って言われたこともあります。

宇多丸 ズバリ違いますと(笑)。

星野 すいませんとなったんですけど。そういう「ふふん、わかりました」みたいなのが自分には向いていないんだなと思いました。「ちょっと教えてください」みたいな方が、合ってるんですね。

ズバリ言われることの危険性

宇多丸 見切りタイプの精神科医や、そのやり方が有効な患者さんもいるんですか?

星野 どうなんでしょうね。でも、自分よりも先に、相手に自分のことを「わかられちゃう」のって気持ち悪いんじゃないかとは思います。

宇多丸 確かに。ただ一方で、ズバリ言われることが気持ちよくなる場合もありそうですよね。ある種の占いの人とか……。

星野 はい、はい。

宇多丸 ズバリ言われて「ああ、そういうことなんですね」とスッキリするっていう。でもそれは相手にジャッジを委ねた結果のスッキリというか、ちょっと危ないスッキリですよね。

星野 判断を相手に委ねてズバリ言われてその通りにして、最終的に良い地点に行き着ければ別にいいんです。けど、もしもそこから何か良くない方向に行った場合には、それをズバリ言った人のせいにしちゃうじゃないですか。

宇多丸 ああ、なるほど。

星野 あの人がズバリ言ったから自分はこうなったんだ……「あいつ、ズバリ言いやがって!」ってなりますよね。

宇多丸 なりますね(笑)。

星野 だから、早急に他人に納得させられるよりも、ゆっくりでも話しながら「こうなのか、こういうことなのか」と自分の中で納得していける方がいいと考えています。

宇多丸 それと、たぶん、ズバリ言う側に怒りが向くうちはまだ健全なんですよね。例えばズバリ言われてその通りやってみてうまくいかなかった時に、とりあえず目先の安心が欲しくて「また前みたいにズバリとジャッジしてください」ってなる場合もあるんじゃないかと思うんです。それでどんどん依存が深まっていって、傍から見ればとんでもない支配構造みたいになっちゃうこともあるのかな、と。

Apple TV+の『となりの精神科医』という実話を基にしたドラマが、まさにそうやって患者さんのことを支配していく話で、治していないどころかつけこんでるみたいになっていて、これは怖いなと思ったんですけど。

星野 そうなんですよね。コントロールしてはいけないと思うんです。

宇多丸 でも、「ズバリお願いします」と言われることも当然ありますよね?

星野 あります。「診断はなんですか?」とか言われると、難しいんですよね。僕は、診断って結構大雑把なものだと考えていて……って、こんなこと大御所の精神科の先生が聞いたら、それはお前の力がないだけだって言われると思いますが。

宇多丸 そうなんですかね。

星野 実際に目の前にいる人の生活の話を聞いてみると、すごく小さなことでつまずいていて、それがずっと心に残っていてモヤモヤにつながっている。そういう人に対していきなり、「はい、鬱ですね」なんて言えないんですよ。だから時間をかけて細かく話し合っていきましょうとなるわけですが、そこで患者さん側から「診断つけてもらえますか」みたいに言われる時もあります。そこは難しいです。

宇多丸 診断してもらって、手っ取り早くラクになりたいという気持ちも、それはそれで切実ですもんね。

話を聞く側ができることはあまりない

宇多丸 さっきの話で、手順についてはこれといったものはないとのことでしたが、診療の「落とし所」みたいなものはあるんでしょうか?

星野 落とし所、ですか。

宇多丸 例えば相手がこういう感じになったらヨシとか、こういった行動をすればヨシ、とか。

星野 うーん……すごく難しいんですけど、落とし所があるとしても、それはこちらが判断するんじゃなくて、相手が「あ、もう大丈夫です」みたいな感じになるってことですね。なので、こちらの基準で落とし所をジャッジするものではないと思ってます。

宇多丸 それはさっきの、ジャッジを相手に委ねないこととつながってそうですね。

星野 話を聞く側ができることって、結局のところあまりないんです。とにかく話を聞くしかない。「ヨシ、じゃあ、これでいけるかも」って思うのは、絶対にその人にしかできないんですよ。つまり治療という面で言えば、治せないんですね。治っていくのは、究極その人しかできない。

宇多丸 ああ、なるほど。

星野 それをエンパワメントして応援するとか、「治る感じになるまでここにいますよ」「焦らなくていいですよ」みたいに話を聞きながら一緒にいて、何度も話していって、ある時「ヨシ、じゃあちょっと歩き出してみましょうか」となって、それを横で見て「おお、すごい!」……っていうようなことしかできないんです。

(第3回に続く)

*   *   *

ライムスター宇多丸さんの人生相談本『ライムスター宇多丸のお悩み相談室』も併せてお楽しみください。

関連書籍

宇多丸/小林奈巳(女子部JAPAN)『ライムスター宇多丸のお悩み相談室』

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宇多丸 ラッパー、ラジオパーソナリティ

1969年東京都生まれ。早稲田大学在学中にMummy-Dと出会いヒップホップ・グループ「RHYMESTER(ライムスター)」を結成。ジャパニーズ・ヒップホップシーンを開拓/牽引し、結成30年をこえた現在も、アーティストとして驚異的な活躍を続けている。2007年にはTBSラジオで『ライムスター宇多丸のウィークエンドシャッフル』がスタート。09年に「ギャラクシー賞」ラジオ部門DJパーソナリティ賞を受賞するなど、ラジオパーソナリティとしても活躍。同番組内の映画批評コーナーなどが人気を博す。18年4月からは、同局で月~金曜日18~21時の生放送ワイド番組『アフター6ジャンクション』でメインパーソナリティをつとめている。著書に『ライムスター宇多丸の『ラップ史』入門』『森田芳光全映画』『ライムスター宇多丸の映画カウンセリング』などがある。

星野概念 精神科医

1978年生まれ。病院に勤務する傍ら、執筆や音楽活動も行う。雑誌やWebでの連載のほか、寄稿も多数。音楽活動はさまざま。著書に、いとうせいこう氏との共著『ラブという薬』『自由というサプリ』(以上、リトル・モア)『ないようである、かもしれない 発酵ラブな精神科医の妄言』(ミシマ社)がある。

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