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ライムスター宇多丸のお悩み相談室

2022.09.09 公開 ツイート

子どもを産むのが人生の目標ですが、結婚を前提に付き合っている彼との子どもを妊娠する可能性は低いことがわかり悩んでます。 宇多丸/小林奈巳(女子部JAPAN)

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子どもを産むのが人生の目標ですが、結婚を前提に付き合っている彼との子どもを妊娠する可能性は低いことがわかり……。(2020年2月22日)

私は人生の大きな目標として子どもを産みたいと思っています。しかし、結婚を前提に1年半付き合っている彼とブライダルチェックをしたところ、彼のほうに問題があり、ゼロではないが妊娠の可能性は低いと言われました。不妊治療のコストを現実的に考え、半年のあいだに自然妊娠しなければ別れようという話に……。彼も子どもを望んでいますが、養子や里子は愛せる自信がないとのことでした。もうすぐ期限になります。できなければ別れると決めたものの、本当に別れるべきなのか悩んでいます。

彼とは週に一度会う程度で同棲の経験もありませんが、とても誠実で収入も申し分なく、一緒にいて癒される存在です。ただ、結婚して、不妊治療をどんなに頑張っても子どもができなかったときのことを考えると、どれほど後悔するのかは予測がつきません。かといって別れたとしても、同じように一緒にいて癒されるような存在で、かつ子どもをつくることに問題のない方と出会うことは難易度が高いのではないかと思います。この人だったら子どもができなくてもいい、と思えるかどうかがキモだと思うのですが、何か決断できる考え方や方法があれば教えてください。(あまいしお・29歳・東京都・公務員)

宇多丸   こればっかりは、僕らがあんまりとやかく言うこともできないというか、人生において何にプライオリティを置くかなんて、人それぞれだからね。あまいしおさんにとっては、とにかく子どもを産むというのが絶対的な最優先事項で、そこがダメなら他が全部良くても意味ない! ってことなわけでしょ? 僕個人はそれとはまったく違う人生観でここまできているので、「そっか、そこまでのマスト事項かぁ」って感じだけども。しかしこれは彼もつらいよね。自分を責めてしまいそう。

こばなみ  大黒摩季さんも、自分は子どもが産めなくて、それで罪悪感みたいなのを感じちゃって、離婚したそうですね。ダイアモンドユカイさんは、そういうチェックをして、ご自分が原因とわかったところ、ものすごい不妊治療をして子どもが生まれたそうです。でも不妊治療はコストがかかるから簡単にはできないですもんね。

宇多丸   あまいしおさんのところに関していえば、ぶっちゃけこんなテンションのまま結婚しても、間違いなく禍根を残すことになるんじゃないですか。何かにつけ「あぁ、ホントは私、子ども産めたのに……」と思い返したりして、どっちも延々苦しむだけ、ということになりかねない。実際あまいしおさんは、「子どもは産めないかもしれないけど、彼のことが好きだからなかなか別れられない」っていうよりは、どっちかというと、「彼級に申し分ない人で、なおかつ子どもがつくれる相手と今後出会えるかどうかがわからないから」と……。身もフタもない言いかえをすれば、「損するかもしれないから」迷ってるわけでしょう。

こばなみ「何か決断できる考え方や方法があれば」ってことですが。

宇多丸   なんにしたって今の彼とでは、あまいしおさんの絶対的ファーストプライオリティは満たせない可能性が高いわけだからさ。それでもいいからこの人と一緒に人生を歩みたい……、つまり、それまでの人生設計や損得勘定は後回しにしてもいいやと思えるくらい、彼でなきゃ! という思いが現時点でそこまで強くないんだったら、もうその先はないでしょう。そういう現状を、しっかり直視するってことじゃないですか。

幸いにも、というべきか、付き合って1年半、「週に一度会う程度で同棲の経験もありません」ってことだから、実はまだ、後戻りできないほどの深い関係ってわけでもなかったりするんじゃない? それこそ彼だって、子どもをつくるっていうのが絶対条件じゃないお相手と出会う可能性、これから全然あるわけだからさ。そのための貴重な人生の時間を、ただ宙づりなままむざむざ浪費させてしまうのも、かわいそうでしょ。だから本当に、あまいしおさんカップルに関しては、結婚する前にわかってよかったね、チェックしといて正解だったね、ってことですよ。

こばなみ  私は最初にこの相談を読んだとき、自分の価値観で「検査なんかしなきゃよかったのに」とか、「んな検査なんなんだよ!」って思っちゃったんですけど、子どもマストな人にとっては、いい検査になりうるのですね。

宇多丸   あまいしおさんタイプの人にとってはね。しかしまぁ、人生観ってホント、いろいろだなぁ。個人的には、子どもができたって不幸になる人はなるし、そうじゃなくたって幸せな人はいっぱいいるしで、要は人生の選択肢や幸せのあり方って、本当はもっといっぱいあるはずだよね、ってことは言っておきたいですけどね。

出産や子育てに限らず、「人生、こうでなきゃ」って決めつけると、むしろ不幸になりやすい、その確率が高くなるんじゃないかと僕は思うんです。だって、思いどおりにいかないことのほうが絶対に多いんだから。子どもを産まなきゃ、結婚しなきゃ、金持ちにならなきゃって……。どんなところにも幸せは見つかるし、どんなところにも不幸はあるんだよ。

それこそ、こんな思いをして産み育てたガキが「まさかこんなザマになろうとは!」みたいなことだって、余裕でありうるわけじゃないですか。でも、それさえも人生の糧なんだ、というような考え方だってあるだろうし。要は、何をもって幸とするか不幸とするかなんて、そうそう単純に線引きできるもんじゃないわけでしょう。なんていうのかなぁ、自分はそうじゃない! って決めつけるだけじゃなくて、もっといろんな生き方や幸せのあり方を、謙虚に参考にするのもいいんじゃない? と思います。

そういう意味では彼だって、養子や里子というシステムに対しては先入観があるようだけど、当然ながらそれで最高にうまくやってる人たち、い~っぱいいますから。里親になった経験を描いた古泉智浩さんの『うちの子になりなよ ある漫画家の里親入門』をぜひ読んでほしいですけど。

とにかく、人生にはいろんな選択肢があるんだってことくらいは念頭に置いといてさ。もし仮にもろもろのことが事前の思惑から外れてどうにもならなくなっても、「まぁ、思い描いてたのとは違うけど、こっちもありか?」くらいの感じで、できるだけ柔軟に対応できるよう心がけといたほうが、少なくとも前向きではいられると思うんですよね。仕事だってなんだってさ、最初の夢とは違うけど、こっちも悪くねぇか、っていうもんだったりするわけじゃん。何事もどうせなるようにしかならないんだから、あとはそのなかでいかに腐らずに生きてゆくか、ってことでしょ。

さしあたってはそんな考え方も頭の片隅に置いてもらいつつ……。とはいえもちろん、あまいしおさんの子どもが欲しいって願いも間違いなく切実なものではあるわけだから。そこに関しては彼とはご縁がなかったということで、やっぱりお互い涙を拭って先に進むのがいいんじゃないですかね。

まぁ、まだ比較的お付き合い期間が短い段階で問題点を顕在化できたのは、むしろいいことだった、というふうに考えておきましょうよ。彼のほうも、検査や率直な話し合いにも応じてくれて、いい人だったのは間違いないよね。そのことも恵まれていたんだと感謝しつつ……。

いずれにせよ、これはあまいしおさんの今後の生き方全体を左右する、本当に重大な局面だと思うんで。彼と別れても、あるいは子どもを産まなくても、どっちにしたっていずれ後悔はするかもしれないんだとしたら、どっちを取るか? もう一度、よーく天秤にかけて、悩み抜くしかないっすよ。自分自身でね。

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関連書籍

宇多丸/小林奈巳(女子部JAPAN)『ライムスター宇多丸のお悩み相談室』

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宇多丸 ラッパー、ラジオパーソナリティ

1969年東京都生まれ。早稲田大学在学中にMummy-Dと出会いヒップホップ・グループ「RHYMESTER(ライムスター)」を結成。ジャパニーズ・ヒップホップシーンを開拓/牽引し、結成30年をこえた現在も、アーティストとして驚異的な活躍を続けている。2007年にはTBSラジオで『ライムスター宇多丸のウィークエンドシャッフル』がスタート。09年に「ギャラクシー賞」ラジオ部門DJパーソナリティ賞を受賞するなど、ラジオパーソナリティとしても活躍。同番組内の映画批評コーナーなどが人気を博す。18年4月からは、同局で月~金曜日18~21時の生放送ワイド番組『アフター6ジャンクション』でメインパーソナリティをつとめている。著書に『ライムスター宇多丸の『ラップ史』入門』『森田芳光全映画』『ライムスター宇多丸の映画カウンセリング』などがある。

小林奈巳(女子部JAPAN)

愛称・こばなみ。株式会社都恋堂・代表取締役。出版物や広告コンテンツの編集業務を経て、2010年に「iPhone女子部」を結成。現在はコミュニティ・メディア「女子部JAPAN」として、全国2万3千人の30~40代女性を対象に、ココロとカラダを元気にするためのコンテンツ&イベントを企画・実施中。仕事は好きだが、PCのデスクトップと部屋がどうしても片付けられないのが長年の悩み。

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