人は幸せなとき、短歌とか言葉とかどうでもいい(笑)(加藤)
加藤 岡本さんは、普段からご自分の実体験を短歌にすることが多いんですね。
岡本 そうです。こういう言い方でいいのかよくわからないんですが、最初は標語的というか、キャッチフレーズ的な短歌をつくっていたんですけど、リアリティーが感じられなくて。みんなと同じ山じゃなくて、自分だけの山を目指そうと思って、不幸な話をピンポイントで短歌にしていたら、エッセイを書きませんかっていうお話をいただいた。だから、不幸が起こる、短歌をつくる、エッセイを書くという流れです(笑)。
加藤 不幸が起きないと短歌がつくれないんですね。私の場合は、ほとんどショートストーリーが先です。
岡本 ええ!? そうなんですね!
――加藤さんの作品は、暮らしの中から生まれてくるものなんですか。
加藤 私の場合、小説は実体験ではなく、ほぼ創作です。でも短歌って、不幸なものの方が書きやすいですよね。幸せなときって、短歌とかどうでもいいってなるでしょ(笑)。幸せなことって、たぶん言語が必要でなくなる。
――岡本さんの短歌は笑えるところも魅力だと思えたのですが、笑いというのは短歌のジャンルとしてどうですか。
加藤 難しいと思いますよ。短歌に限らず、たとえば漫才で、M‐1グランプリはすごく面白いけど、テキストで読んだら違うと思うんですよね。何が面白いんだろうって感じる部分だってきっとある。笑いって、間や言い方があってこそだと思うので。でも岡本さんのは、読んでちゃんと笑えるのがすごい。
岡本 芸人なので笑わせたいです(笑)。不幸なことをお伝えして、みんなでどんより不幸になるんじゃなくて、見返りに笑ってもらえたら、僕も笑顔をもらえます。でも、ほんとにありのまま書いているんです。みなさん、人の不幸がやっぱり好きなんですね(笑)。
加藤 そのままエピソードトークにも、ネタにもなりそうですよね。すごくリアルだと思ったのは〈歯磨きのリズムキモいと言われてる同棲3日目の夜のこと〉です。これは創作だったら出てこない。例えば小説で恋人の嫌なところを書くとして、いろいろ挙げていっても、私は歯磨きのリズムは思いつかない。これは岡本さんの洞察力、すくい上げる力の賜物だと思うんですよ。タイトルになっている〈全員がサラダバーに行ってる時に全部のカバン見てる役割〉も、よくある情景だけど見逃してしまいそう。細かいところまで考えていらっしゃるから、歌になるんだって感銘を受けました。
岡本 嬉しくて困ります!
――基本的な質問をしますが、短歌ってどうやってつくるものなのですか。
加藤 人それぞれで、本当にやり方は違うんですけれど、私はけっこう五七五七七がそのまま浮かんでくるタイプです。あまり推敲もしなくて。もちろん最初はそんなことはなくて、「テトリス」に近い感じでやってました。語順を変えたりとか、違う言い表し方を探したりとか。やっているうちに馴染むようになって、最近は、出てきたそのままということが多いですね。
短歌のすごさは、三十一文字の前後を想像させる“余白”(岡本)
岡本 僕は、作文みたいにならないように、というのは考えてますね。エピソード色が強い短歌が多いので、あったことを書いちゃうと、なになにがなになにでこうでした、みたいになっちゃう。なるべく歌に聞こえてほしいと思ってます。文字数はいまだに指で数えてます(笑)。
短歌のすごいところって、三十一文字あって、その前後を想像させるじゃないですか。余白を残すというか、考えてもらう隙間を残しておきたい。最近は、気持ちとかは書かない方がいいのかなと思ったりもします。こういうことがあった、と書いて、読んだ人が悲しいんだなとか怒ってるなとか、勝手に受け取ってくれるほうがいい。短歌を読む人って優しくて、めちゃくちゃ情報を拾って、いろいろ探ってくれるんですよ。だから、感想や感情はおまかせします! みたいな感じです。
加藤 私もそれは思いますね。小説って、例えば百人の読者の方がいたとして、全員が同じ解釈とは言わないですが、多くても十通りくらいではないかと思います。でも短歌は、百人いたら百通りの読み方がある。主体のイメージも違いますし、正反対の受け止め方をする人がいたりします。
――読む側からすると、これでいいのか、という不安もあったりするんですが……。
加藤 読み方が異なるのは、怖さでもあるけれど、短歌の良さでもあります。以前私が詠んだ〈投げつけたペットボトルが足元に転がっていてとてもかなしい〉という歌があって、喧嘩のシーンのつもりだったんですけど、ある方からは、環境破壊に対する提言ですねって言われて(笑)。びっくりしたけど、意図していないところまで届くっていいなって思ったんです。
私は書いた時点で満足するので、そこから先はもう、自分のものでなくなっていいと思ってます。海にボトルレターを流すみたいなことかな。思いもよらない場所に届いたり届かなかったり。でも人それぞれなので。
* * *
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僕の不幸を短歌にしてみました(エッセイつき)
著者は、主に”不幸短歌”を詠む「日本にただ1人(たぶん)の歌人芸人」。
よく失敗する、言いたいことが言えない、反論したくても返せない、なぜ自分だけこんな目に合うのかといつも思う、自分には劇的なことが起こってくれないと嘆いて生きている……。
そんな著者から見える”世界”を、フリースタイルな短歌(&ときどきエッセイ)にしてお届け。
もしあなたが自分のことを「不幸だ」と思っているなら、「もっと不幸な男」がここにいると思ってください。
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