
定年退職後に長野県安曇野市に移住した、元『装苑』編集長の德田民子さん。初のエッセイ『80歳、私らしいシンプルライフ』では、四季のはっきりした安曇野での暮らしやおしゃれの工夫、毎日をごきげんに過ごす秘訣など、80歳を迎えた德田さんの心豊かな日々をご紹介しています。本書より、一部をお届けします。
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自然に溶け込む家にしたいから、空のブルーと土の茶色をテーマカラーにしました
定年退職前の当時、夫は広告代理店でアートディレクター、私は出版社でファッション誌の編集者をしていました。お互い好きなもの、こだわりは人一倍にありますからそれぞれの意見がまとめられないと、大変なことになってしまいます。
そこで、まずは家のテーマカラーを決めることにしました。まとまらなかったらどうしよう、と少し心配だったのですが、意外にもすんなり夫婦の意見は一致しました。それは、「自然にある色を取り入れよう」、というアイデアだったからです。
山に囲まれた田舎の家。そんな自然の中で暮らすのですから、周囲に溶け込む色が心地よい。
最初に安曇野を訪れたときに、北アルプスの山並みに一目惚れした私たち夫婦。その山並みとともに大好きなのが、安曇野の青空です。空は青く、広く、高い。そして何より澄んで美しい。晴天の日はまるで吸い込まれていくような青空が広がります。
この空のブルーをアクセントに、基盤となる土や山や樹木の茶色。この2色が安曇野の自然に馴染み、また、もともと自分たちも大好きな色ですから、すんなりと決まりました。
茶色は外壁やウッドデッキ、床に。ブルーは、ドアやタイル、窓枠にアクセントとして。イメージはどんどん固まっていきました。
こうして色を統一することで、シンプルな小さな平屋の家のイメージがしっかりと周囲に根付くイメージへつながっていきました。また、そうした大きなところを決めたら、次は棚や、収納代わりのかご、そして、ちょっとした備品や小物までと、簡単に統一されたイメージに整っていきます。
私はソーイングが好きで、クッションや小物など、ちょっとしたものは自分で手作りしています。こうして、色のルールがあるから、模様替えも大きな失敗はありません。
周囲の自然が持っている色。その力は絶大で、自然に調和した居心地のいい空間を最初から作ることができました。特に、お気に入りの場所は、茶色の木壁と鮮やかなブルーのドア。我が家を象徴する場所だと思います。
作戦通り、庭の樹木や、夫が地道に張ってひろげた芝の緑に馴染んでいます。家は住む人や環境に育まれる、とよく言われますが、年を重ねている我が家は経年変化してより周囲と一体化しているように思えます。私たちの暮らしもこの土地に根付いてきていると実感しています。

2色が庭の緑に溶け込む。
80歳、私らしいシンプルライフ

定年退職後に長野県安曇野市に移住した、元『装苑』編集長の德田民子さん。初のエッセイ『80歳、私らしいシンプルライフ』が8月6日に発売となりました。本書より、試し読み記事をお届けします。