短歌は、百人いたら百通りの読み方があるのがいい(加藤)
岡本 僕も、自分の言いたいことが、なんでこんなに伝わんないんだって思ったこともありましたけど、でも加藤さんがおっしゃったように、百人が百通り、僕の思ってもみなかったことをいっぱい考えてくれて、それを聞いて「そうかもしれないですね」みたいな顔をしてたら、全部自分のポイントになっていく、というのはいいですね(笑)。
――短歌をはじめたきっかけは?
岡本 本格的にやり始めたのは三年前なんですけど、興味を持ったのは七、八年前です。俵万智さんの作品を好きになって、短歌っていいな、と思い、自分はツイッターとかでつくり始めました。そうしたら、たまたまバーで山田航先生にお会いして、短歌の話になって、僕のを読んだことありますよ、めちゃめちゃ下手ですよねって言われたんです(笑)。
こいつ何者なんだよって思って、ウィキペディアで調べたらすごい人だった。同い年だし、お笑いも好きだって言うので、一緒に飲みにいってくださいよってお願いして、無理やり短歌を提出。これはいいけどこれはダメと教えてもらってました。
お笑いでもネタ見せっていうのがあるんですけど、一流の人に見てもらえる機会って、そこまでないんです。だから山田先生との出会いはほんとにありがたくて。いい/悪いが的確にくる。ずっとノックをしてもらっている感覚でした。お笑いだと、それなりにプライドなんかもあるんですけど、短歌に関しては全然ないから、素直に吸収し続けて、ハマっていったって感じです。
加藤 そんなふうに判断できる山田さんもすごいなって思います。私は、無理です。好き嫌いでしか判断できないし、その好き嫌いも日によっちゃう感じもあるし。ごくたまに「短歌をみてください」って言われたりしますけど、お茶濁しちゃいます(笑)。たぶん山田さんは揺らがないんでしょうね。
岡本 加藤さんは加藤さんらしくて、人それぞれなんですね。僕は、いつも山田さんに五十首くらいまとめて提出してたんですけど、いいって言われるのは五割ほど。自分としてはいい打率だろうと思って、ある日、山田先生にそう言ったら、「普通は九割ぐらい残る」って!「普通の歌人だったら自分で捨てるやつまで、岡本さんは僕のところに持ってくる」とも言われました(笑)。
いい短歌は言いたくなる。覚えてしまう。加藤さんの短歌は、覚えようとしなくても覚えちゃう(岡本)
加藤 初心者の方によくある例ですが、文字数合わせのために、助詞を入れてたりするのは、あまり良くないかなとは思います。「ズームを」でいいのに字数が足りないから「ズームをね」にするとか、そういう感じのはちょっと……。あと、説明的すぎるのも難しいですね。私は感覚で選ぶので、ほんと、山田さんを見習いたいです(笑)。
岡本 声に出したくなるのはいい短歌のような気がします。いい短歌は言いたくなる。僕も大好きなんですが、加藤さんの〈幸せにならなきゃだめだ誰一人残すことなく省くことなく〉なんて、覚えようとしなくてもなんか覚えちゃう。
加藤 嬉しいです。音に出した時の響きは大切ですね。短歌って、口に出した時の滑りの良さがあったりするので。
――短歌って昔から変わらずあるものなのに、昔は昔の良さ、今は今の魅力を表現できるのが、面白いですね。
加藤 最近では、ツイッターとの親和性は高いと思います。短歌を掲載してバズってるのも時々見ますし。書いてみたらけっこう書けるという人は、きっとたくさんいると思いますよ。
岡本 日本語を使えて文字数を数えられれば、誰でもできる。短歌芸人にあんまり増えられても困るけど(笑)。
――岡本さんの今回の本もそうですが、フリースタイルの短歌って、どういうことなんですか。
加藤 解釈は人それぞれですね。自由律という方もいらっしゃいます。でも短歌って、季語もいらなくて、五七五七七の三十一文字(みそひともじ)というのだけがルールなので、そこは守ろうよ、と私は思います。そこが良さだなあと感じているので。岡本さんも、だいたい定型ですよね。
岡本 でも二句が八音というのはけっこうあって、それは癖なのかもしれません。基本は定型でとは思っています。ただ、字数を合わせる言葉より、気持ちに近い言葉を使いたいというのはありますね。なので余っちゃっても、言葉がしっくりくるならそれでいくという感じです。
――岡本さん、書籍のタイトルはどうやって決めたんですか。
岡本 編集担当のSさんに送った短歌のなかで、反応が良かった歌です。
S 社内の企画会議で、「これいいね」という声が多かったので。
加藤 この歌は、頭に絵が浮かぶのがいいですよね。ファミレスのサラダバーで――ああ、わかる、という感じがします。
岡本 加藤さんは、ご自分の短歌で優劣とかありますか?
加藤 気に入ってる、というのはありますね。さっき岡本さんが挙げてくださった〈幸せにならなきゃだめだ誰一人残すことなく省くことなく〉は覚えていますが、「あの短歌が好きです」とおっしゃっていただいた時、「それ私のですか?」みたいになることもあります(笑)。
岡本 僕の場合、どの歌もけっこう同列に近いんです。これが好きとかあまりないので、この本については、タイトルも並びも、あとは決めてください、みたいな感じでした。自由に選んでいただければ、と。
加藤 じゃ、どれがタイトルになっても、同じ嬉しさだったんですね。
岡本 できれば短歌をやっていない人にも届くようなのがいいです、とは言わせてもらいましたけど。どれがいいとか嫌だとかはなくて。
カッコつけてるみたいですが、落ちている違和感を拾って歩いてます(岡本)
岡本さんの短歌って、靴の中の砂粒みたいなものをちゃんとすくいあげてるんですよね(加藤)
――創作はいつされているんですか。
加藤 短歌に関しては、移動中に書くことが多いです。私が短歌を書き始めたのは高校時代なんですが、その頃は授業中にプリントの裏にとか。移動とか、お風呂とか、何か別のことをしていて、その隙間に、という感じですね。短歌のことを考えていると、すうっと浮かんでくる。いきなり目の前に五七五七七がパッと浮かぶわけではなくて、説明が難しいんですけれど、ざっくりとしたシチュエーションみたいなのがあって、そこに言葉が順番に浮かんでくる。でも、こんな言い方するのもなんですけど、短歌のこと、考えてない時間の方がずっと長いですね(笑)。
岡本 僕は街を歩いていて、たとえば掲載作の〈左手に見えますホストに座られているのが僕のスクーターです〉みたいな、違和感みたいなものをメモしています。落ちている違和感を日々拾って歩く、というようなことを十代後半からやってきていて、別にカッコいいことを言おうとしているわけではなくて、そういう体になってしまっています。変なことがあったら拾う。それで家に帰ってから、これは短歌にできそうだとか、漫才ならどうするとか、考えていきます。その場でできちゃうということはほとんどないです。
不幸なことが起きたときは、もちろん悲しいですよ(笑)。不幸な瞬間に「これは短歌にできる! しめしめ!」とか思ってたら、それもう不幸じゃないですから!
加藤 岡本さんの短歌って、靴の中の砂粒みたいなものをちゃんとすくいあげてるんですよね。人によっては、そんなことで傷ついたりしない人もいるかもしれないけど、それをちゃんと拾って、つぶさに観察するフィルターがあるんだなって思いました。
岡本 今回対談できるってことになって、本当に嬉しくて、改めて加藤さんの作品、『そして旅にいる』『この場所であなたの名前を呼んだ』を読みました。手放しのハッピーエンドはなくて、つらさは残っているけれど、ちょっとした幸せも……という感じが大好きです。前者は旅の話で、後者は新生児集中治療室の話でしたけど、これって加藤さんが体験したりしたから出てきたものですよね。お会いしたらお聞きしようと思っていたのは、加藤さんは、ご自分から環境を変えようとされていますか? ということ。僕はまだ文筆のキャリアは短いですが、創作って、ルーティンになってしまうと、つくるものが似てきてしまうのかなと思いまして。会う人とか行く場所とかを変えていかないといけないのかなと、今ちょっと考えています。
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この連載の書籍化第2弾『センチメンタルに効くクスリ トホホは短歌で成仏させるの』発売中!
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僕の不幸を短歌にしてみました(エッセイつき)
著者は、主に”不幸短歌”を詠む「日本にただ1人(たぶん)の歌人芸人」。
よく失敗する、言いたいことが言えない、反論したくても返せない、なぜ自分だけこんな目に合うのかといつも思う、自分には劇的なことが起こってくれないと嘆いて生きている……。
そんな著者から見える”世界”を、フリースタイルな短歌(&ときどきエッセイ)にしてお届け。
もしあなたが自分のことを「不幸だ」と思っているなら、「もっと不幸な男」がここにいると思ってください。
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