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僕の不幸を短歌にしてみました(エッセイつき)

2022.05.06 公開 ツイート

『全員がサラダバーに行ってる時に全部のカバン見てる役割』刊行記念対談

マジで不幸を呼ぶ岡本さん。加藤千恵さんとの念願のオンライン短歌対談で、一度も自分の顔が映らないという不幸 岡本雄矢

短歌は、百人いたら百通りの読み方があるのがいい(加藤)

岡本 僕も、自分の言いたいことが、なんでこんなに伝わんないんだって思ったこともありましたけど、でも加藤さんがおっしゃったように、百人が百通り、僕の思ってもみなかったことをいっぱい考えてくれて、それを聞いて「そうかもしれないですね」みたいな顔をしてたら、全部自分のポイントになっていく、というのはいいですね(笑)。

――短歌をはじめたきっかけは?

岡本 本格的にやり始めたのは三年前なんですけど、興味を持ったのは七、八年前です。俵万智さんの作品を好きになって、短歌っていいな、と思い、自分はツイッターとかでつくり始めました。そうしたら、たまたまバーで山田航先生にお会いして、短歌の話になって、僕のを読んだことありますよ、めちゃめちゃ下手ですよねって言われたんです(笑)

 こいつ何者なんだよって思って、ウィキペディアで調べたらすごい人だった。同い年だし、お笑いも好きだって言うので、一緒に飲みにいってくださいよってお願いして、無理やり短歌を提出。これはいいけどこれはダメと教えてもらってました。

 お笑いでもネタ見せっていうのがあるんですけど、一流の人に見てもらえる機会って、そこまでないんです。だから山田先生との出会いはほんとにありがたくて。いい/悪いが的確にくる。ずっとノックをしてもらっている感覚でした。お笑いだと、それなりにプライドなんかもあるんですけど、短歌に関しては全然ないから、素直に吸収し続けて、ハマっていったって感じです。

加藤 そんなふうに判断できる山田さんもすごいなって思います。私は、無理です。好き嫌いでしか判断できないし、その好き嫌いも日によっちゃう感じもあるし。ごくたまに「短歌をみてください」って言われたりしますけど、お茶濁しちゃいます(笑)。たぶん山田さんは揺らがないんでしょうね。

岡本 加藤さんは加藤さんらしくて、人それぞれなんですね。僕は、いつも山田さんに五十首くらいまとめて提出してたんですけど、いいって言われるのは五割ほど。自分としてはいい打率だろうと思って、ある日、山田先生にそう言ったら、「普通は九割ぐらい残る」って!「普通の歌人だったら自分で捨てるやつまで、岡本さんは僕のところに持ってくる」とも言われました(笑)。

いい短歌は言いたくなる。覚えてしまう。加藤さんの短歌は、覚えようとしなくても覚えちゃう(岡本)

加藤 初心者の方によくある例ですが、文字数合わせのために、助詞を入れてたりするのは、あまり良くないかなとは思います。「ズームを」でいいのに字数が足りないから「ズームをね」にするとか、そういう感じのはちょっと……。あと、説明的すぎるのも難しいですね。私は感覚で選ぶので、ほんと、山田さんを見習いたいです(笑)。

岡本 声に出したくなるのはいい短歌のような気がします。いい短歌は言いたくなる。僕も大好きなんですが、加藤さんの〈幸せにならなきゃだめだ誰一人残すことなく省くことなく〉なんて、覚えようとしなくてもなんか覚えちゃう。

加藤 嬉しいです。音に出した時の響きは大切ですね。短歌って、口に出した時の滑りの良さがあったりするので。

――短歌って昔から変わらずあるものなのに、昔は昔の良さ、今は今の魅力を表現できるのが、面白いですね。

加藤 最近では、ツイッターとの親和性は高いと思います。短歌を掲載してバズってるのも時々見ますし。書いてみたらけっこう書けるという人は、きっとたくさんいると思いますよ。

岡本 日本語を使えて文字数を数えられれば、誰でもできる。短歌芸人にあんまり増えられても困るけど(笑)。

――岡本さんの今回の本もそうですが、フリースタイルの短歌って、どういうことなんですか。

加藤 解釈は人それぞれですね。自由律という方もいらっしゃいます。でも短歌って、季語もいらなくて、五七五七七の三十一文字(みそひともじ)というのだけがルールなので、そこは守ろうよ、と私は思います。そこが良さだなあと感じているので。岡本さんも、だいたい定型ですよね。

岡本 でも二句が八音というのはけっこうあって、それは癖なのかもしれません。基本は定型でとは思っています。ただ、字数を合わせる言葉より、気持ちに近い言葉を使いたいというのはありますね。なので余っちゃっても、言葉がしっくりくるならそれでいくという感じです。

――岡本さん、書籍のタイトルはどうやって決めたんですか。

岡本 編集担当のSさんに送った短歌のなかで、反応が良かった歌です。

S 社内の企画会議で、「これいいね」という声が多かったので。

加藤 この歌は、頭に絵が浮かぶのがいいですよね。ファミレスのサラダバーで――ああ、わかる、という感じがします。

岡本 加藤さんは、ご自分の短歌で優劣とかありますか?

加藤 気に入ってる、というのはありますね。さっき岡本さんが挙げてくださった〈幸せにならなきゃだめだ誰一人残すことなく省くことなく〉は覚えていますが、「あの短歌が好きです」とおっしゃっていただいた時、「それ私のですか?」みたいになることもあります(笑)。

岡本 僕の場合、どの歌もけっこう同列に近いんです。これが好きとかあまりないので、この本については、タイトルも並びも、あとは決めてください、みたいな感じでした。自由に選んでいただければ、と。

加藤 じゃ、どれがタイトルになっても、同じ嬉しさだったんですね。

岡本 できれば短歌をやっていない人にも届くようなのがいいです、とは言わせてもらいましたけど。どれがいいとか嫌だとかはなくて。

カッコつけてるみたいですが、落ちている違和感を拾って歩いてます(岡本)

岡本さんの短歌って、靴の中の砂粒みたいなものをちゃんとすくいあげてるんですよね(加藤)

――創作はいつされているんですか。

加藤 短歌に関しては、移動中に書くことが多いです。私が短歌を書き始めたのは高校時代なんですが、その頃は授業中にプリントの裏にとか。移動とか、お風呂とか、何か別のことをしていて、その隙間に、という感じですね。短歌のことを考えていると、すうっと浮かんでくる。いきなり目の前に五七五七七がパッと浮かぶわけではなくて、説明が難しいんですけれど、ざっくりとしたシチュエーションみたいなのがあって、そこに言葉が順番に浮かんでくる。でも、こんな言い方するのもなんですけど、短歌のこと、考えてない時間の方がずっと長いですね(笑)。

岡本 僕は街を歩いていて、たとえば掲載作の〈左手に見えますホストに座られているのが僕のスクーターです〉みたいな、違和感みたいなものをメモしています。落ちている違和感を日々拾って歩く、というようなことを十代後半からやってきていて、別にカッコいいことを言おうとしているわけではなくて、そういう体になってしまっています。変なことがあったら拾う。それで家に帰ってから、これは短歌にできそうだとか、漫才ならどうするとか、考えていきます。その場でできちゃうということはほとんどないです。

 不幸なことが起きたときは、もちろん悲しいですよ(笑)。不幸な瞬間に「これは短歌にできる! しめしめ!」とか思ってたら、それもう不幸じゃないですから!

加藤 岡本さんの短歌って、靴の中の砂粒みたいなものをちゃんとすくいあげてるんですよね。人によっては、そんなことで傷ついたりしない人もいるかもしれないけど、それをちゃんと拾って、つぶさに観察するフィルターがあるんだなって思いました。

岡本 今回対談できるってことになって、本当に嬉しくて、改めて加藤さんの作品、『そして旅にいる』『この場所であなたの名前を呼んだ』を読みました。手放しのハッピーエンドはなくて、つらさは残っているけれど、ちょっとした幸せも……という感じが大好きです。前者は旅の話で、後者は新生児集中治療室の話でしたけど、これって加藤さんが体験したりしたから出てきたものですよね。お会いしたらお聞きしようと思っていたのは、加藤さんは、ご自分から環境を変えようとされていますか? ということ。僕はまだ文筆のキャリアは短いですが、創作って、ルーティンになってしまうと、つくるものが似てきてしまうのかなと思いまして。会う人とか行く場所とかを変えていかないといけないのかなと、今ちょっと考えています。

『そして旅にいる』
気まずい行き違いをしていた友人の結婚式に招かれ、初めて訪れたハワイ。二度告白して、二度とも振られた男友達と出かけた、千葉市動物公園。ラウンジで食べた担担麺が心に沁みた、失恋直後の香港。四股をかけられていた姉と、女二人で行った北海道。人生の節目に、旅はそっと寄り添ってくれる。恋愛小説の名手が描く、優しく繊細な旅小説。
『この場所であなたの名前を呼んだ』
赤ちゃんが健康に育っていくことも、無事に生まれてくることも、すべてが奇跡。与えられた人生は、1分1秒でも無駄にできない大切なもの。当たり前すぎて誰もが忘れてしまいそうなことに、NICU(新生児集中治療室)という命の場所に身を置いたことで気付かされた7人の物語。 

*   *   *

この連載の書籍化第2弾『センチメンタルに効くクスリ トホホは短歌で成仏させるの』発売中!

関連書籍

岡本雄矢『センチメンタルに効くクスリ トホホは短歌で成仏させるの』

今日も世界の片隅で、ひとり膝を抱える僕とあなたのために。 不幸に愛された、トホホ名人……歌人芸人が身を切って綴る、“せつなさとおかしみ”、“短歌とエッセイ”のマリアージュ。

岡本雄矢『全員がサラダバーに行ってる時に全部のカバン見てる役割』

昨日もトホホ、今日もトホホ。憂鬱だらけの毎日も、短歌に詠めば何かが変わる!「あの数ある自転車の中でただ1台倒れているのがそう僕のです」「さっきまで順調だったレジの列 急にもたつきだす僕の前」「ものすごい数のハトが集まっているおじさんに人は集まらない」他、105首の短歌とエッセイで綴る、ほろ苦さとおかしみに満ちた愛すべき日々。

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僕の不幸を短歌にしてみました(エッセイつき)

著者は、主に”不幸短歌”を詠む「日本にただ1人(たぶん)の歌人芸人」。
よく失敗する、言いたいことが言えない、反論したくても返せない、なぜ自分だけこんな目に合うのかといつも思う、自分には劇的なことが起こってくれないと嘆いて生きている……。
そんな著者から見える”世界”を、フリースタイルな短歌(&ときどきエッセイ)にしてお届け。
もしあなたが自分のことを「不幸だ」と思っているなら、「もっと不幸な男」がここにいると思ってください。

バックナンバー

岡本雄矢 主に“トホホ短歌”を詠む「日本に(たぶん)ただ1人の歌人芸人」

詠み始めるとなんでも”トホホ短歌””不幸短歌”になってしまうという特徴を持つ、「日本にただ1人の歌人芸人」。1984年北海道生まれ。吉本興業所属。コンビ「スキンヘッドカメラ」で活動中。YouTubeで「芸人歌会」を開催。北海道新聞等で連載も。

短歌とエッセイを収録した初の著書『全員がサラダバーに行ってる時に全部のカバン見てる役割』には、俵万智さん、穂村弘さん、板尾創路さんからアツい推薦文が寄せられた。

最新刊は『センチメンタルに効くクスリ トホホは短歌で成仏させるの』。

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