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あぁ、だから一人はいやなんだ。

2026.03.15 公開 ポスト

第266回 バキバキ事件いとうあさこ

姉さん事件です。と、懐かしのドラマ「HOTEL」の名セリフから始めてみました。そうです、事件です。わたくしの“携帯電話の画面がバッキバキの激烈バキ”事件、です。

携帯電話を最初に持ったのは、定かではありませんが、20代前半、ホテルでバイトをしていた時、“前を見ながらメールが打てる”という特技(?)を披露した記憶があるので、おそらく35年近くは使っている。最初は“ピッチ”ことPHS。iMacというカラフルなスケルトンのデスクトップPCが流行っていた時は、ピッチもスケルトンのものが売り出され、私はオレンジ色のものを買ったのはすごく覚えている。それ以前に流行っていたポケベルは、ちょうどその頃、お金がなかったし、それまで通り、公衆電話の“伝言ダイヤル”などで人との連絡をとれたので、持っていなかった。なので最初の“連絡ツール”がピッチ。いやぁ、はしゃぎましたね。なんか大人になった気がしてね。まあもう十分大人ではありましたが。機能としては電話とメールのみでしたから、今のスマホを知ってしまった身としましては、びっくりするほど物足りませんが、あの頃はとにかくそれが嬉しくて画期的で「未来!」と思っていた。そこから白黒画面がカラーになったり、アンテナを伸ばさなくてもよくなったり、着信音が自分で打ちこむスタイルから“本当の”曲がかかるようになったりなどなど、様々な変化で、私を驚かせ、感動させてくれた。

こうして長いこと、私の傍らにいる携帯電話。あ、今“傍ら”と書こうと“かたわら”と打った時、一発目の変換で“肩(笑)”と出た。いつ何の場面で使うのか? それとも前に私が何か“肩で笑う”ようなことを書いたのか? まあこの話は置いておいて、話を戻します。そんな長い携帯電話との歴史の中で、画面をバキ割れ状態にしたことがございませんで。もちろん無傷、ってわけではないですよ。そそっかしいもので、よく落とすんです。腕を振ってよく歩くので、駅のホームでその勢いのまま携帯をすっ飛ばし、シュルシュルシュルシュルと滑るようにとんでいったこともありますし、ファミレスで何度も肘にぶつかっては床に落とした。充電中、そのコードに引っかかり床にガーン、なんてのも数知れず。いや、逆にこれだけ落としているのにバキバキになったことがないのが奇跡なくらい、落としまくってまいりました。

今回の“バキバキ”携帯はまだ1年半ほどしか使っておらず。たしか2024年の単独ライブ終わりで買ったっけな。今や、携帯画面の強度たるや、かなりの強さなのと、そんなわけで“バキバキ”未経験のわたくし。この携帯から保護フィルムを無しに……いや、待てよ。今まで“バキバキ”しなかったのは保護フィルムのおかげなのか? ちゃんと“保護”してもらっていたのか? まあ何を言っても、時、すでに遅し、です。

“バキバキ”事件はとある駐車場で起こりました。ちょいと入院している人のお見舞いに行くべく病院に行きまして。誘導され、地下の駐車場に車を停めた。車を降りる際、普段ならいつも使っている肩掛けバッグの背面ポケットに携帯をちゃんと押し込んで横に入れるんです。でもこの時はバッグ自体の中身が多すぎて、うまくそのポケットに携帯が入らず。まあそれだけギューッてなっているし、そもそも“背面”ポケット。自分の体とバッグで挟まれているポケットですから。その圧で大丈夫だろう。そう思った私は、縦に携帯を差し入れて、車を降りました。ホント、いつもと違うことって、しない方がいいんですよね。そんなわけでバッグがパンパンだったのもあって、その“縦差し”も奥までいかず、浅かったんでしょうね。降りたとたんに、携帯が下に落ちたんです。その時の音、聞いた事ないやつ。“ビャンッ”と“ピャンッ”と“ギャンッ”をミックスして、ちょうどその真ん中くらいの音。パッと見ると下には裏っ返しに落ちている携帯の姿。直感で「やったな。」わかりました。ちっちゃい期待はしましたよ。言ってもケースがありますから。ケース分、0.1~0.2ミリは地面から浮いているはずだから。そしてその地面は別にゴツゴツしているわけでもなく、普通の平らなコンクリですから。もしかしたら。携帯を拾う。ひっくり返して画面を見る。バキバキ。ああ、ちゃんとバキバキ。しかも、何て言うんでしょうか。雪の結晶のように360°小さく模様のように広がった点が10数個と、その間を細く細かい線が無数に走っている。それを見た、私の感想。綺麗。とても、綺麗。そのあまりに芸術的な割れ方に感動した私は、「これを写真に残したい!」と反射的に、スクショを、パシャリ。スクショ。わかります? スクショ、撮れるわけない。だって、携帯の外側のことだから。ただの待ち受け画面が、1枚保存されただけ。ショック。もう画面がバキバキになったことより、スクショ撮っちゃったことの方がショックかも。ああ、これが大人になるってことね。

そしてもう一つ。いつもは電話会社に行って機種変をしていたのですが、前回の機種変の際、店員のお兄さんに「いとうさま、お越しいただいて言うのも何なんですが、ここにお越しいただくのが、一番高くついてしまうんです。」要はオンラインショップで買う方が安いんだそう。え? そうなの? 確かにお店の中を見てみると、昔は人でごった返していたのに、ご高齢の方が数名だけ、何かの説明を受けているだけ。え? いつから? 聞いてないんですけど。更にあとから友人に聞くと「って言うかメーカーで直接買うのが一番安いですよ。それに今はアプリで簡単に機種変出来ますから」と。ホント? 今までまったく知らなかった世界。もう不安しかないのでだいぶだいぶ迷いましたが、今回、メーカーで新しい機種を買ってみました。先日届きましたが、只今、舞台の稽古の真っ最中。とてもそんな不慣れなことに手を出す余裕なんてまったくないので、机の上にそっと飾ったまま。「指、ちょっと痛いな」と思いながら、まだバキバキ携帯を使っております。なんて書いていたら今、歯の詰め物がとれた。ふんわり握ったおにぎり食べていただけなのに。ああ、直すとこいっぱいだ。

【本日の乾杯】キュウリの塩昆布和え。しかもこのキュウリの砕き方、美味しいに決まっている。こういうシンプルなヤツは信頼できるのだ。

 

関連書籍

いとうあさこ『あぁ、だから一人はいやなんだ。3』

海への恐怖を感じた、初めての遠泳。4人で襷を繋いだ「24時間駅伝」。お見合い旅inマカオ。“初”キスシーンに、“初”サウナ。ドラクエウォークで初めての高尾山。接続できずに大騒ぎのリモート飲み会。拍子抜けだった大腸検査。ブームに乗って、のんびり「おばキャン」、のつもりが……。いくつになってもあさこの毎日は初めてだらけ。

いとうあさこ『あぁ、だから一人はいやなんだ。2』

セブ旅行で買った、ワガママボディにぴったりのビキニ。いとこ12人が数十年(?)ぶりに全員集合して飲み倒した「いとこ会」。47歳、6年ぶりの引っ越しの、譲れない条件。気づいたら号泣していた「ボヘミアン・ラプソディ」の“胸アツ応援上映”。人間ドックの検査結果の◯◯という一言。ただただ一生懸命生きる“あちこち衰えあさこ”の毎日。

いとうあさこ『あぁ、だから一人はいやなんだ。』

ぎっくり腰で一人倒れていた寒くて痛い夜。いつの間にか母と同じ飲み方をしてる「日本酒ロック」。緊張の海外ロケでの一人トランジット。22歳から10年住んだアパートの大家さんを訪問。20年ぶりに新調した喪服で出席したお葬式。正直者で、我が強くて、気が弱い。そんなあさこの“寂しい”だか“楽しい”だかよくわからないけど、一生懸命な毎日。

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