
元カリスマ書店員のアルパカ内田さんは、現在ブックジャーナリストとして活躍中。一日一冊読んでいるという”本読み”内田さんが、幻冬舎の刊行作品の中から「今売りたい本」を選び、そして“POP職人”としての腕を振るって、手描きPOPも作ります。
そして、アルパカ内田さんへの「オススメ返し」として、幻冬舎営業部の人気者・コグマ部長からも、一冊ご紹介。
* * *
第2回 湊かなえ『残照の頂 続・山女日記』

こんにちは。本の山を登り続けているアルパカ内田です。
人はなぜ山に憧れるのだろう。美しい山並み、大いなる自然。心地よい日射しに頬を撫でる風。川のせせらぎに鳥の鳴き声。家族旅行や遠足など、誰しも脳裏に焼きついている山の記憶があるはずだ。思い浮かべただけでも五感が震えだし、セピア色の思い出が季節の風景とともに鮮やかに色づいてゆくだろう。
しかし清らかなばかりではない。突然の雷雨。視界を奪う濃霧。時には命の危険にさらされるほど厳しい表情を見せることもある。登山は人生にも喩えられるが、登りもあれば下りもあり、一本道もあれば分岐点もある。気まぐれな自然とままならない人生を重ね合わせて山に取り憑かれる人たちもたくさんいる。
4つの物語に登場する女性たちは皆、後悔を抱え喪失の哀しみを背負っている。そして大切な人との共通の思い出を山の中にしっかりと刻みつけている。
傷つき苦しみ血の汗を流しながらも決して感傷的になることはない。日が沈み暗くなったあとも心の中で山頂は輝き続け、その道行きが険しいほど美しい絶景に出合えると知っているからだ。
山は変わらない、けれども人は変わる。そのことを確かめるために人は山に登り続けるのかもしれない。まるで生まれる前から約束があったかのように。さらに一歩踏み出す力と立ち止まる勇気。どちらも大切だとこの一冊は教えてくれる。悩み多き山女たちは本当の優しさを手に入れた。物言わぬ山への愛を雄弁に伝えるこの物語を読めば、また山に行きたくなる。そしてもっと山が好きになることは間違いない。

幻冬舎営業部 コグマ部長からオススメ返し
久本雅美『みんな、本当はおひとりさま』

『残照の頂 続・山女日記』に続いて、これも女性が主人公。小説ではなくエッセイだ。著者はタレントの久本雅美。本作では「おひとりさま」を面白おかしく生きるヒントを明かしている。
とにかく「ひとり」の毎日。好きな時間に起きて、好きな時に好きなものを食べる。毎夜ノーパンで寝て、休みの日は好きな韓流ドラマを一日中ダラダラ観るそうだが、もちろん何も問題ない。ふむふむ、なんだかうらやましい~。でも、その一方で何やら不便なこともあるそうだ。握力がなくワインのコルクを開けられない、背中が痛くてもシップを貼れず、床に置いたシップの上に転がって自分で貼る……。と、まあこれらはごく一例で、本書を開くとどのページにも笑いと「おひとりさま」暮らしのあるあるがふんだんにまぶされている。
今年63歳、長年にわたりエンタメ界の第一線で笑いを振りまいてきた。彼女の笑いはだれかを貶めるものではなく、みんなが楽しめる笑いだ。周囲を笑わせて自分も幸せになる。何度も笑いながら本書を閉じたとき、久本さんのぬくもりに読者は触れる。そしてまた明日から頑張ろうと思える。この本、「おひとりさま」だけに読ませるのはもったいないぞ!
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アルパカ通信 幻冬舎部

元カリスマ書店員で、POP職人でもある、ブックジャーナリストのアルパカ内田さんが、幻冬舎の新刊の中から、「ぜひ売りたい!」作品をピックアップ。
書評とともに、自作の手描きPOPも公開。
幻冬舎営業部のコグマ部長からの「オススメ返し」もお楽しみください!
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