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2021.08.20 更新 ツイート

小さな史実から見えてくる 雄大で壮大な物語 -『モンテレッジォ 小さな村の旅する本屋の物語』内田洋子 KIKI

わたしが暮らす街には、駅前に小さいけれど品揃えの良い本屋があり、探し物がなくても、ふらりと入る。店の正面と左奥の平台は必ずチェックする場所で、気になる本と出合うこともしばしば。年々、個性ある本屋が減っていくなか、貴重な存在だ。

そんななか、昨年、本屋にまつわる三冊の良書に出合った。『奇跡の本屋をつくりたい』は惜しまれつつ閉店した札幌の「くすみ書房」の亡き店主の遺稿集。斬新なフェアをいくつも企画し、本と本に触れる機会がなかった人とを結びつけた、店主のまっすぐな思いが伝わってくる。熊本の「橙書店」の店主によるエッセイ集『猫はしっぽでしゃべる』では、熊本の震災を経験し引越しを余儀なくされた小さな店が、本の虫である店主の人柄もあり、多くのお客さんに愛されていることが伝わってくる。

 

三冊目に紹介する本書は、イタリアのモンテレッジォという山村が舞台だ。書籍のカバーを取り、その表紙の写真を見るとその山深さは一目瞭然。森に囲まれ、端から端まで歩いて十分とかからなそうな村だ。イタリアに暮らす著者も、その村の存在をある時までは知らなかった。しかし、そんな小さな村には本と本屋にまつわる逸話が溢れ、著者が惹きつけられたように、わたし自身も読み進めるうちに遠いその地まで足を運んでみたくなった。

モンテレッジォは、イタリアにおいて重要な本と本屋の原点だ。その土地自体に資源や産業はないけれど、村は海と内陸とをつなぐ重要な道沿いにあり、古から人や物が行き来した。村の人々は行商人として様々な物を運ぶうちに、いつしか「本」を運ぶようになった。著者はヴェネツィアにある古書専門の本屋に何度も通ううちに、店主の先祖がモンテレッジォ出身であることを知り、村の歴史を垣間見る。そして、居ても立っても居られなくなり、その週末に村を訪れようと試みるところから、モンテレッジォにおける本の歴史を紐解いていく。本は情報でもあり思想でもある。だからこそ、本書は小さな史実を追い求める旅にもかかわらず、想像以上に雄大であり、壮大な物語になっている。

村の出身者が作った活版印刷機は、イタリア製の第一号ではないかといわれている。また別の人物は、世界初のタイプライターを作ったという。また、イタリアで最も由緒ある文学賞のひとつ「露店商賞」の発祥地であり、記念すべき第一回の受賞作品はヘミングウェイの『老人と海』。そんな興味深いエピソードが、村の歴史を追ううちにさらりといくつも登場する。

ヴェネツィアをはじめイタリア各地に、モンテレッジォの血筋をひく本屋がいくつかある。この週末に、とはいかないけれど、そんな本屋と村を巡る旅をいつかしたい。

「小説幻冬」2020年2月号

内田洋子『モンテレッジォ 小さな村の旅する本屋の物語』(方丈社)

イタリア、トスカーナの山深い村から、本を担いで旅に出た人たちがいた。創成期の本を運び、広めた、名もなき人々の歴史ノンフィクション。

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KIKI モデル

東京都出身。武蔵野美術大学造形学部建築学科卒。山好きとして知られ、著書に美しい山を旅して』(平凡社)などがある。(photo: ohta yoko)

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