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キリ番踏んだら私のターン

2021.06.10 更新 ツイート

完璧ではない自分とタイマン張るの辛い 長井短

原稿を書くときは大抵、身の回りで起きた嫌なこととか、見かけた他人の気になる言動を元に考えている。「どうして嫌だったんだろう?」とか「なんで疑問を持ったんだろう?」ってことを考えていくうちに、一本のコラムが完成するのだ。

さて、今月はどんなことがあったっけなと思い出し作業を始めて三週間が経った。何も思い出せない。絶対に何かはあったはずなのに、誰の顔も、どんな場所も浮かばなかった。なんでだ! 色々あっただろ。なのに、夢の中でうまく走れないときみたいに頭が働かない。どうしてだろう。

 

それはたぶん、私が今、私の問題で手一杯だからだ。問題って言っても、何があったわけではない。ただ、漠然と自分の輪郭がぼやけている感じがして、そうなると「嫌だ」とか「楽しい」とか、どんな感情も、本当のものなのかがわからなくなる。わからないから思い出せないし、書けない。じゃあもう、そういう変なゾーンに入っている自分のことを書くしかない。自分以外のことについての想像力が働かないなら、せめて自分に想像力を働かせてみよ? ということで、今回は公共の場での自問自答でーす! お付き合いください。

しんどいのに「しんどくないでしょ」って自分で自分に言い訳してさらにしんどくなるのやめたい

人生って別に普通に辛いよなと思う。それは全然深刻なことじゃなくて「次の授業体育なのダル」って気持ちと同じ感覚で「明日来るのダル」って呟く程度のこと。同じ感覚なはずなのに、後者は口にするのに抵抗があって、それは多分「明日が来るのは幸せなことだ」っていう前提のせいだ。

重い。「生きたくても生きられない人がいる」みたいな歌が多すぎるからか?「ちょっと疲れたからもう全部やめて寝てたい」とかすぐにでも大きな声で言いたいのに

いやでも、今の私の状況は誰かにとってはとても羨ましいことであって、つまり、私が今の自分を放棄したがるのは良くないですね

頭の中にいる良識を司る自分が早口で捲し立ててくる。こいつは誰だ。どうして、適当に何の気なしに弱音を吐かせてくれないんだ。

これを書いている今も私は「いや、言うてもそんなにしんどくないですってことをきちんと書かないと誤解されるぞ」って警報を感じている。そして、その警報は正しい。実際、大してしんどくはない。ただ漠然と明日を避けたいだけであって、ものすごい悲しみとかが自分の中にあるわけではないのだ。

ほらまた言い訳をしている。気づかないうちに私は私に、弱音を吐くことを禁じている。自分より辛い人がいるからとか、別に幸せじゃんとか、そういう冷静めいた視点で、私は私を縛っている。その縛りがさらに自分の気持ちを、体を重たくしているってわかっているのに。どうしてこんなに、自分にきつく当たってしまうのだろう。それはたぶん、私が私に対して求めるものがあまりにも多いからなんだろう。家族や友達、仕事先の人が私に求めるあれこれよりも遥かに多くのものを、私は私に求めている。

移動中前に停車した原付2台がめちゃくちゃ寄り添ってた。楽しそうだなぁ。にしても近くない?

優しくいなさい。もっと努力しなさい。結果を出しなさい。楽しい人間でいなさい。困っている人を助けなさい。お金を稼ぎなさい。友達を大事にしなさい。夫も大事にしなさい。親も大事にしなさい。なさいさいさい。

これらを要約すると「完璧でいなさい」になる。その「完璧」は辞書で引いたら出る意味ではなく、私の思い描く、私だけの知っている完璧さだ。子供の頃から頭の中で作り上げてきた「完璧な自分」の像に、私はずっと憧れ続けていて、彼女になるための歩みを止めることができない。「彼女は弱音なんか吐かない」「彼女は間違えたりしない」「彼女は負けない」そう言い聞かせて、走って走って、おかげで報われたことが沢山ある。正しい選択だったと言えることばかりだ。だからこそ、限界が来て泥酔したり落ち込みすぎたりすることが時々あっても、この方法をやめられない。成功体験はつくづく怖い

物語みたいに完璧になりたいけどなれない自分を許したい(けどまだ許せない)

私のなりたい私こと“彼女”は、どこにいるんだろう。どこから来たのだろう。

多分それは、私の前に現れた無数の人間や、見てきた映画演劇、読んできた本や漫画の中からだ。素敵だなと思ったり、かっこいいなと思ったキャラクター。正しいと思った考え方。本に引いた蛍光ペンやメモした言葉がそのまま“彼女”の肉体になる。だから完璧なのだ。そりゃそうだ。

私はずっと重要なことを無視している。“彼女”の肉体になったあれこれは全部、コマの中にだけ存在したものだ。コマの中に入るために、みすぼらしく泥を飲んでいる姿を、私たちは決して見ることができない。大好きな本は私に届く前、未完成な形だったはずだ。あの漫画のヒロインだって、コマとコマの間では我儘放題のヤバい女かもしれない。大好きな先輩だって、ただこの場に限って素敵なだけで、他所では横暴な態度をとっているかもしれない。

呪術廻戦がなかったら、生きていけないんじゃないかってくらいハマっている。私は五条の女と思ってたのに気付いたら夏油の女になってた

完璧なんて無理だ。だから物語がある。リアルは不完全だから、せめて物語の中だけでは完全な状態を感じたい。

ってことは、私は、私の頭の中にいる完璧な自分には現実で絶対になれないのだ。そのことに耐えられない。直視できない。目指すことをやめられないから、私は今日も口からこぼれ落ちそうな弱音を両手で力一杯押し戻す。そんな風に、形だけ取り繕ったって全然意味ないのに。わかっていても取り繕ってしまうのは、多分私の弱さなんだろう。完璧を目指して、夢中で走っていないと倒れてしまいそうなのだ。あぁ、ほらやっぱり私は全然完璧じゃない。近付けてすらいない。自分の弱さときちんと向き合うべきだってことを、物語はいつも言っている。知ってるのにできないのは、ここが現実だからとかじゃなくて、私が弱いからだろう。

わかってる。間違ってるだろうな。でも、やっぱりコマの中を目指したいの。私が思う理想の私に近づきたいの。完璧になれるかどうかが肝心なんじゃなくて、目指し続けることに意味があるの。子供っぽいな。完璧なんて求めずにいられる人間に、早くなりたい。自分を自分の理想で縛るのもやめたい。

その為にはきっと、自分が生身の人間であるっていうことを、本当に心の底からしっかりと私自身で許さなくちゃいけないんだろう。難しそうだなぁ。かっこつけて生きていきたいのになぁ。でも、許してあげないと壊れるのは自分だ。自分で自分を殺さないために、私は自分が物語ではないこととか、コマの中には入れないことを、どうにかこうにか許してあげたい。その為に必要な力はなんだろう。

自己肯定感なんてパステルカラーじゃ心許ない。私はまだその力の名前を知らない。でももしかしたら、27年かけて作ってきた頭の中の理想の私は知っているかもしれないから。ただただタイマン張るしかないんだよな。できないこととか叶わないこと、もうこればっかりはどうしようもないあれこれを、自分に許してあげられますように。

*   *   *

次回は7月10日公開予定です。

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コメント

卯岡若菜🍀🐻書く人  「え、私?」ってなるくらい「わかる……」ってなった。あうう。 「生きるのしんど」って内心思ってる人、特に読んでみてほしいーーー。 完璧ではない自分とタイマン張るの辛い|キリ番踏んだら私のターン|長井短 - 幻冬舎plus https://t.co/HuhFYmFPYf 4日前 replyretweetfavorite

🐦なげき🐦υ∵υ  "しんどいのに「しんどくないでしょ」って自分で自分に言い訳してさらにしんどくなるのやめたい" それだ。 すごくいいエッセイでした。是非。 完璧ではない自分とタイマン張るの辛い|キリ番踏んだら私のターン|長井短 - 幻冬舎plus https://t.co/OaAa5ttQak 4日前 replyretweetfavorite

yanagi nozomi  長井さん、五条悟とのツーショ写真からは想像もできないようなガチな話を語ってくれています。 なんかしんどい、でもしんどいって周りに言うくらいのしんどさではない…という方是非! 完璧ではない自分とタイマン張るの辛い|キリ番踏んだら私… https://t.co/dtHkQw15P4 4日前 replyretweetfavorite

しお  首もげるほど同意。本当、長井短ちゃんの言語化能力尊敬する……。 https://t.co/MJkEoevpll 5日前 replyretweetfavorite

ぴぃ!!!  完璧ではない自分とタイマン張るの辛い|キリ番踏んだら私のターン|長井短 - 幻冬舎plus https://t.co/OTa0v7fI9S 5日前 replyretweetfavorite

キリ番踏んだら私のターン

相手にとって都合よく「大人」にされたり「子供」にされたりする、平成生まれでビミョーなお年頃のリアルを描くエッセイ。「ゆとり世代扱いづらい」って思っている年上世代も、「おばさん何言ってんの?」って世代も、刮目して読んでくれ!

※「キリ番」とは「キリのいい番号」のこと。ホームページの訪問者数をカウントする数が「1000」や「2222」など、キリのいい数字になった人はなにかコメントをするなどリアクションをしなければならないことが多かった(ex.「キリ番踏み逃げ禁止」)。いにしえのインターネット儀式が2000年くらいにはあったのである。

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長井短

1993年9月27日生まれ、A型、東京都出身。

ニート、モデル、女優。

恋愛コラムメディア「AM」にて「長井短の内緒にしといて」を連載中。

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