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物理の4大定数

2021.05.26 更新 ツイート

縮んだバネと伸びたバネは質量がちがう 小谷太郎

光速c、電子の電荷の大きさe、重力定数G、プランク定数h。
宇宙を支配する物理の4大定数を、NASA元研究員の小谷太郎氏がやさしく解説。
今回は、エネルギーと質量の等価性について。縮んだバネと伸びたバネは質量が異なり、水を沸かしてお湯にしたらちょっぴり重くなっているという。

*   *   *

沸いたお湯は水よりちょっぴり重いという(写真:iStock.com/Magnascan)

前回までのあらすじ

物体にエネルギーを与えて運動させると物体の質量が増えます

比喩(たとえ)で説明すると、物体に元気を与えると重くなる、という感じでしょうか。全然説明になってませんね。なんでも比喩を用いればわかるわけではありません。

重くなるといっても、新幹線や飛行機やロケットといった日常的な速度では、その増加はほんのちょっぴりで、気づかないほどです。

光の速さを測る話をしていたはずなのに、いつのまにか物差しは縮み時計はくるい質量は増えるというおかしな事態になってしまいました。

宇宙はどういうことになっているのでしょうか。みなさんついてきておられるでしょうか。筆者はだいぶ心配です。

今回は、エネルギーと質量の関係を少々補足して、次回から相対論を離れて新しい話題にうつりましょう。

もうちょっとわけがわかる話になるはずです。

エネルギーと質量は同じもの

さてエネルギーとは、他の物に働きかけて運動させたり変形させたりする能力のことでした。そういう能力を持つ物体はエネルギーを持っています。

運動している物体が持つ運動エネルギーのほか、さまざまな形態のエネルギーがあります。

たとえば縮んだバネは、「弾性エネルギー」を持ちます。縮んだバネはびょーんと伸びる際に他の物体を押して運動させられるからです。

バネは他の物体を押して運動させることができる(写真:iStock.com/shirosuna-m)

バネを押し縮める時は、バネに弾性エネルギーを与えています。

熱せられた物体は「熱エネルギー」を持ちます。簡単に、熱を持つ、といってもいいです。物体を熱するということは、熱エネルギーを与えるということです。

ほかにも、充電されたバッテリーはエネルギーを持ち、高い塔の上に持ち上げられた物体はエネルギーを持ち、御飯やガソリンは化学エネルギーを持ち、世の中には多種多様なエネルギーがあります。

 

じつは運動エネルギーだけでなく、こうしたさまざまなエネルギーは、すべて質量を持ちます。エネルギーにわけへだてはありません。

バネを押し縮めて弾性エネルギーを与えると、バネの質量が増えます。縮んだ状態のバネは、元の状態よりほんのちょっぴり重くなっています

ただしその差は現在のどんな精密な秤(はかり)でもわからないくらいです。

水を熱してお湯を沸かすと、水に熱エネルギーを与えたことになります。このとき水の質量もちょっぴり増えています

どれくらいちょっぴりかというと、プールにいっぱいの500トンの水を0 ℃から100 ℃に温めると、2 mg質量が増えるくらいです。やっぱりこれも現在の技術では測定できません。

500トンの水を沸かして増える質量はわずか2 mg(写真:iStock.com/Evgenii Mitroshin)

ほかにも、充電されたバッテリーはちょっぴり重くなり、物体を高い塔の上に持ち上げると、物体と地球をあわせた質量がちょっぴり増え、御飯を消化したりガソリンを燃焼させたりすると、残った二酸化炭素や水蒸気などをあわせた質量は最初よりもちょっぴり減っています。

エネルギーと質量は同じものなのです。「エネルギーと質量の等価性」などといいます。(ただし1 kgの質量と等価なエネルギーは約1017J[ジュール]なので、宇宙が等価とみなす関係は人間の感覚だとだいぶ不平等です。)

核分裂エネルギーへのよくある誤解

ところでこのエネルギーと質量の等価性は、原子力兵器あるいは原子力発電の説明として持ち出されることが世間ではしばしばあります。

「アインシュタインの見いだしたエネルギーと質量の等価性を応用して、原子爆弾(または原子力発電)は、わずかな質量から莫大なエネルギーを得る。原子爆弾(または原子力発電)が働くとき、核燃料の質量がわずかに減る」、という具合です。

みなさんこういう説明を一度や二度は聞いたことがあるのではないでしょうか。(なくてもさしつかえありません。)

ティアンジュ原子力発電所(写真:iStock.com/jotily)

しかしここまでの説明を読んだみなさんにはおわかりのように、核エネルギーにかぎらず、縮んだバネでも充電したバッテリーでもバスタブに張ったお湯でも茶碗一杯のガソリンでも、どんな形態のエネルギーでも質量と等価です。

なので縮んだバネが伸びてなにかを弾いたときでも、

「エネルギーと質量の等価性を応用して、バネは、わずかな質量から莫大なエネルギーを得る。バネが働くとき、バネの質量がわずかに減る」といってよいことになります。

つまり、原子力兵器や原子力発電の説明に、エネルギーと質量の等価性を持ち出すのは的外れです。

 

では核分裂のエネルギーはなんなのかというと、これはおもに、原子核内の「陽子」の間の反発から生じます。

原子核内部には陽子という粒が詰め込まれていますが、陽子はプラスの電荷を持っていて、このため互いに反発します。

原子核はこれを狭いなかにぎゅうぎゅうに押し込めたもので、たくさんのバネをぎゅうぎゅう押し縮めたように、エネルギーを持っています。

原子核が割れると、押し縮められたバネがびょーんと伸びて、破片が高速で飛び散ります。飛び散った原子核の破片はそこらの物にぶつかって壊したり熱したりします。

これが核分裂からエネルギーを得る原理です。

 

●次回は6/11の公開予定です。

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小谷太郎

博士(理学)。専門は宇宙物理学と観測装置開発。1967年、東京都生まれ。東京大学理学部物理学科卒業。理化学研究所、NASAゴダード宇宙飛行センター、東京工業大学、早稲田大学などの研究員を経て国際基督教大学ほかで教鞭を執るかたわら、科学のおもしろさを一般に広く伝える著作活動を展開している。『宇宙はどこまでわかっているのか』『言ってはいけない宇宙論』『理系あるある』『図解 見れば見るほど面白い「くらべる」雑学』、訳書『ゾンビ 対 数学』など著書多数。

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