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豆柴センパイはおばあちゃん ヨロリゆるゆる、今日もごきげん

2021.06.02 更新 ツイート

コウハイ、センパイを心配する? 石黒由紀子

ゆりかさん(仮名)から、「折り入ってお話したいことがあります」と言われたのは昨年の夏。彼女は気功の先生で、気功の施術をしたり、地域の区民会館などで気功をベースとした体操教室を開いている人。数年前、私がときどきお手伝いをしているごはん屋さんのお客さまとして知り合いました。拙著も読んでくださっているとのこと。

 

話とは「もしよかったら、センパイちゃんとコイハイちゃんに遠隔で気功の施術をさせてもらえませんか」ということでした。は? 気功? 施術? え、遠隔? むむむ?

コロナ禍に「将来、自分が本当にやっていきたいことは?」と考える機会があり、「もともと動物好き。自分が動物のためにできることは……」と、出した答えが「気功によって動物の心身を整え、健康を保つ助けをすること」。動物の施術経験が浅いので、もしよかったらセンパイとコウハイに実験台になってもらえませんか、という申し出だったのです。

「怪しまれるとは思うのですが」と前置きをしながら、澄んだ瞳をキラキラさせて、真っ直ぐに伝えてくれようとする一生懸命さ、明るくてやさしく誠実な彼女を信頼し、私は申し出を受けることにしました。それから週に1度約1時間ほど遠隔で気功の施術と、2ヶ月に1度我が家での直接の施術が続いているのです。

とはいえ、気功のことを書くのはまた別の機会に譲ります。今回は我が家のセンパイ見守り隊、ニャルソック隊長・コウハイのことを。

気功の遠隔施術をはじめて2ヶ月ほどした頃、2匹に直接施術をしてくれるためにゆりかさんがはじめて我が家にやって来ました。
「えっ?」リビングに入りソファに座ってすぐ、彼女が驚いています。そしてみるみる涙目に。一体どうしたのかな。「いま、コウちゃんに話しかけられました」。今度は私が驚いて「ええ~っ!」。

「ねぇ、センパイはいつまで生きるの? ぼく、センパイがいなくなっちゃうのがイヤなんだ。寂しくてイヤなんだ」そう聞いてきたそうです。「それはね、誰にもわからないことなのよ。できるだけ長く一緒にいられるように、みんなでセンパイのことを支えていこうね」ゆりかさんはコウハイの目を見てゆっくり答えてくれました。そしたらまた「センパイのこと、よろしく」。そんなに心配をしていたのね。

「動物と話ができるんですか」彼女に尋ねると「今まで犬とは話をすることがあったけれど、猫とははじめて。自分でも驚いていますが、コウちゃんはおはなし上手な猫なのだと思います」。そこで私もゆりかさんに通訳をお願いしました。

「今度、誰かを迎えるとしたらどんな子がいい? 犬か猫どっちがいい?」我が家は2人と2匹暮らしがちょうどいいバランスですが、「センパイのもしも……」を思うと、残されたコウハイが心配で、「もう1匹?」と脳裏をよぎることがあったのです。踏ん切りがつかず縁もないまま現在に至っているのですが。

「誰かを迎えるなんて、今は考えられないよ。ずっとこのままがいいの」それがコウハイの答えでした。考える余地もなく即答、キッパリ。にわかに信じ難い。けれど、ゆりかさんが伝えてくれる言葉には、確かにコウハイらしさがあり妙に納得できました。

また、別の日には「僕は家族を愛してる」と彼女に伝えたというのです。「さすが、文筆をされている人と暮らしている猫はすごいことを言うんですね、感動しました!」とのこと。いえいえ、文筆を生業にしていても「愛してる」なんて言葉、そうそう口に出しませんよ。「コウちゃんは日本語をとても繊細に理解していると思います」とも。

子どもっぽいいたずら坊主だとはかり思っていたけれど、コウハイはしっかりした猫格者だということがわかりました。そんなことがあってから、出かけるときも「センパイをお願いね」と声をかけ、私は彼を頼りにするようになったのです。

コウハイはセンパイのグル活がはじまるとサークルの真ん中に陣取り、交通整理よろしく尻尾を振ってセンパイの歩行を促し、家具にハマっているのを見ると「こっちだよ!」と言っているかのように首に付けている鈴を鳴らす。センパイのピンチを私たちに教えに来ることもあります。そして眠るときはそっと隣で添い寝……。なんと献身的なことでしょうか。

ゆりかさんとコウハイは、離れていても気持ちを伝え合えるそうで、コロナ禍の第2波で直接の施術が叶わなかったとき、彼女に「なんで来ないの?」とか「もう来てくれないんだね」とメッセージをしていたとか。とにかくセンパイのことが心配なよう。

先日もゆりかさんから連絡がありました「コウハイちゃんから、“どうしたらいいかわからない”とメッセージがあったのですが、何かありましたか」。ピンときました。センパイ、15歳8ヶ月、腎臓の薬と認知症のサプリメントを常飲、動物病院で月に1度の診察。従来通りドッグフードに手作りトッピングのごはんをもりもり食べる。日に2回20分ほどの散歩もこなし、昼寝とグル活に勤しみ、それなりに元気です。

しかし最近では、グル活で疲れているのにうまく入眠できないことがあり、そんなとき、ときどきですが声をあげるようになりました。犬らしい「ワンワン」という鳴き方ではなく、遠吠えに近いような唸るような低い声色。声量もなかなか。

そんなセンパイを、コウハイは離れた場所からじーーーーっと見つめています。そのときの表情がまさに「どうしていいかわからない」。途方に暮れているような顔をしてるなとは思っていたけれど、私は「センパイが発する声が怖いのかな」と思っていました。
「私もゆりかさんみたいに、コウちゃんの言ってることが分かればいいのにね。ごめんね」と伝えてもらうと「別に大丈夫。だいたいは分かっているみたいだから」とのこと。こんなふうにななめ45度上からモノを言う、それもコウハイらしさに感じられます。

「コウちゃん、ごめん。ひとりで思い詰めなくても大丈夫だからね。がんばりすぎないで。センパイが安心して気持ちよくいられるように、みんなで協力していこう。コウちゃんはコウちゃんらしく、のんびり楽しくしていていいんだからね」私は、コウハイを頼りすぎてしまっていたと反省し、謝りました。

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石黒由紀子

エッセイスト。栃木県生まれ。日々の暮らしの中にある小さなしあわせを綴るほか、女性誌や愛犬誌、webに、犬猫グッズ、本のリコメンドを執筆。楽しみは、散歩、旅、おいしいお酒とごはん、音楽。著書に『GOOD DOG BOOK ~ゆるゆる犬暮らし』(文藝春秋)、『なにせ好きなものですから』(学研)、『さんぽ、しあわせ。』(マイナビ)など。『豆柴センパイと捨て猫コウハイ』、『犬猫姉弟センパイとコウハイ』(ともに小社刊)は、幅広い支持を受け、ロングテールで人気。

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