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豆柴センパイはおばあちゃん ヨロリゆるゆる、今日もごきげん

2024.03.02 公開 ツイート

逝ってしまったセンパイ、コウハイのことが心配? 石黒由紀子

1月24日、雲ひとつない澄んだ大空へセンパイは駆けていきました。かわいかったセンパイはお骨になってもかわいかったです。お寺の担当の方が焼き上がった骨を標本のように並べてくれました。頭蓋骨から首、背骨、しっぽ、前脚、後脚……。少し不自然に短くなったしっぽの骨を見て「あぁ、やっぱりこれはセンパイの骨なんだな」と思いました。昨年の夏にポロリと取れたしっぽのさきっちょは、我が家の宝として保存することにしました。今は、クッキーの小箱の中にしまっています。

 

死んでからもセンパイの被毛はふわふわだったし「こんなにかわいい姿がこの世からなくなってしまうなんて」と嘆いたけれど、ほんの1時間もしない間にセンパイはかさかさの乾いた骨になってしまった。

亡くなって骨になるまでの2夜、2人と2匹ベッドに並んで眠りました。こんなふうに寝たのはいつ以来?
当たり前のように頭を並べて寝ていた日々はもう戻らない。

「センパイは亡くなってしまいましたが、次回に予定していた施術日に、そのまま伺ってもいいですか。センパイに頼まれていたことがあるので」少し落ち着いた頃に、氣功の先生から連絡がありました。そりゃぁもちろん。むしろうれしいけれど、え? センパイに頼まれていたこと……?

センパイの旅立ちから10日ほど経った土曜日、先生が来てくださいました。そして言うのです「実は、センちゃんに頼まれていたことがあるんです」。

センパイが先生に頼んでおいたこととはコウハイのことでした。「コウハイのことが心配なのよ。私がいなくなったら、お願いね」。それを最初に伝えたのは去年の夏で、それからも何度か同じことを言っていたとのこと。

「今日はコウハイを中心にエネルギーを入れますね。悲しみをつかさどる臓器は肺。まずは肺から整えます」。センパイがいた頃と同じように私も一緒に施術してもらったあと、先生は驚いたように言いました「意外なことに、コウちゃんの身体にあったのは悲しみよりも怒りでした。怒りで弱るのは肝臓です。肝臓が硬く縮んでいました」。おぉ? そ、そうなんですか……。

そして続けました「コウハイは、センパイが亡くなること、亡くなるとどうなるかちゃんと理解していたみたいです。でも、自分ががんばれば死なないのではないかと思っていたんです。それで氣功のエネルギーの入れ方や呼吸法を覚えて、センパイにやっていたそうです。それなのにセンパイは亡くなってしまったので、自分のがんばりが足りなかったと思っていて……。それに対しての怒りというか。そんな気持ちが体の中で渦巻いていました」。

えー! そ、そうなんですか……。

「かっこいいなぁ、コウハイ!」思わず出ました。そして意外と真面目。 そんな思いがあって、年末からセンパイにベタ付きだったんだね。

コウハイが頑張って見守ってくれていたのは私がよーくわかっているよ。自分を責めなくていいからね。みんなで力を合わせて、一緒になってがんばったし、それをセンパイもちゃんとわかっていてくれてたと思う。残念だし寂しいけれど、センパイは「これでよかった」って思っていると思うよ……。そんなふうにコウハイを励まして、それは自分への言葉のようにも感じられ。先生が帰ったあともコウハイとぼんやり日向ぼっこをしました。

コウハイはオットや私の膝の上に乗りたがるようになり、姿が見えないと鳴いて呼んだり、ずいぶん甘えん坊になりました。13歳にしてはじめてのひとりっ子生活、どこか心もとなげですが、食欲もあり元気にしています。

氣功の先生曰く、先生のところにセンパイがときどき現れるそうなのです。そして先生と一緒にいろんなものを食べているとか。いちごのショートケーキに大喜びして、いちごパフェもお気に入り。ティラミスを食べたときは「想像していた味と違うなー」。そしてコーヒーを飲むと「苦い味が好きなんだねー」なんて感想を言うそう。今までで一番気に入った(と思われる)のはポークソテーで、「また、あれを食べよう!」と誘ってくるそうです。まぁ、これまた「信じるか信じないかはあなた次第です」なエピソードですが、身体も軽くなって楽しく死んでいるみたいです。安心しました。

「寂しさは日々薄まっていくかと思っていたけれどその逆です。どんどん会いたくなるし、会えなくて寂しい気持ちがは募るばかりです」そうメッセージをくれたのは、2年前に旅立ったセンパイの同胎の兄犬・麻呂くんのママ。その気持ちがわかるようになりました。

センパイの不在には慣れず、今も日に3回はコウハイを「センちゃん」と呼び間違え、出かける時はオットに「じゃぁ、センパイをお願いしますね」と声をかけてしまい、ベッドで眠れるようになった毎日に物足りなさを感じます。日常の細部にことごとく溶け込んていたセンパイの存在をあたらめて、感じています。

姿は目に見えなくなってしまいましたが、見るのに目は必要ないし、聞くのに耳は必要ないと教えてくれたのはセンパイです。これからもセンパイとコウハイの物語は続くことでしょう。

介護がいよいよ本格的になってきた頃に連載がはじまり約4年。こんなに長く続けられたのは、ひとえにセンパイの生命力と読んでくださり楽しみにしてくださったみなさまのおかげです。ありがとうございました。

*   *   *

「豆柴センパイはおばあちゃん ヨロリゆるゆる、今日もご機嫌」は、これでおしまいです。ご愛読ありがとうございました! この連載を加筆修正した単行本が今年の9月に刊行予定です。お楽しみに。

関連書籍

石黒由紀子『犬のしっぽ、猫のひげ 豆柴センパイと捨て猫コウハイ』

食いしん坊でおっとりした豆柴女子・センパイが5歳になった頃、やんちゃで不思議ちゃんな弟猫・コウハイがやってきた。コウハイの緊急手術、突然やってきた老猫を看取ったこと、センパイのダイエット、2匹だけでの2泊3日のお留守番、震災への備え......。2匹と2人の、まったり、時にドタバタな愛おしい日々を綴るエッセイ。

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石黒由紀子

エッセイスト。栃木県生まれ。日々の暮らしの中にある小さなしあわせを綴るほか、女性誌や愛犬誌、webに、犬猫グッズ、本のリコメンドを執筆。楽しみは、散歩、旅、おいしいお酒とごはん、音楽。著書に『GOOD DOG BOOK ~ゆるゆる犬暮らし』(文藝春秋)、『なにせ好きなものですから』(学研)、『さんぽ、しあわせ。』(マイナビ)など。『豆柴センパイと捨て猫コウハイ』、『犬猫姉弟センパイとコウハイ』(ともに小社刊)は、幅広い支持を受け、ロングテールで人気。

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