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ほねがらみ

2021.04.15 公開 ポスト

「読 木村沙織」の章より その1

主人公のもとに、いったいどんな怖い実話が届くのかーー芦花公園(小説家)

あまりの怖さにネットでバズった小説ほねがらみは、恐怖の実話を集めている主人公による、ルポ形式で始まる。

なぜ、この小説が、ここまで怖がられるのか――。

第1章を読んでまいりましょう。まずは、軽~いジャブから…。

*   *   *

読 木村沙織 
1

「先生は怪談を集めていらっしゃるんですよね」

由美子さんは唐突に「まるだいの会」でそう切り出した。

「集めているというのは言い過ぎですけど、そうですね、興味はあります」

まるだいの会は、SNSの中で出会った大学同窓生のグループだ。三年ほど前に初めてオフ会をして、それからちょくちょくこうして集まって、とりとめのない話をしている。年齢も職業もバラバラだ。

私はたびたびSNSで「怖い話」を落書きのような漫画にして、「きむらさおり」という名前で公開しているのだが、それがネットで話題になったことがあり、そのおかげで書籍を一冊出したために、由美子さんのように私のことを先生、と呼ぶ人もいる。恥ずかしいのでやめて欲しいのだが。

「そんな謙遜して。先生の漫画、いつも読んでますよ。あれってどこかで聞いた怪談の漫画化でしょ」

「ええまあ、そうですね」

私は少しムッとしながら答える。オリジナリティがないとでも言いたいのだろうか。

「あ、ごめんなさーい、気を悪くしないでくださいね。聞いた話でも、画像? 視覚的効果? が付くと段違いっていうか、とにかくファンですから!」

「それはどうも」

私は早く話を切り上げたくなり、机を指で叩く。まあ、こんなアピールで気付いてくれるほど敏感な人ではないだろう。

由美子さんは私より十歳ほど年上の専業主婦で、親切なのだが空気が読めないところがある。私と同じようにホラーコンテンツはなんでも好きらしく、趣味は合うのだが、優しいことで有名なメンバーの一人が、由美子さんのせいでまるだいの会に参加しなくなってから、すっかり皆から距離を置かれるようになった。嫌われ者の由美子さんと話していると、私まで避けられて皆と話せないので、なるべく距離を置きたいところだ。

しかし今日は、いつにも増して挙動不審だ。しきりにあたりを見回して、きょろきょろと落ち着きがない。

「それでね先生、私、先生にネタの提供してあげたいなーと思って」

なんて恩着せがましい。

しかし、最近の私の投稿に対するコメントは「またコピペの焼き直しかよ」「既存のホラー漫画のパクリってどうなの? これだからバズ由来の商業はカス」などの酷評が増えてきていて、正直かなり気に病んでいた。

そう、早い話がネタ切れ。鬱陶しいオバサンでも、ネタの提供はありがたい申し出だ。

「もちろん謝礼とか、頂きませんから、安心してくださいねぇー」

私は再びイラつきながら、

「ありがとうございます、でもこの会、怖い話が苦手な人もいますし。この後どこかでお茶でもしながらお話ししませんか」

「いーえー、とんでもない!」

由美子さんは首を何度も横に振った。そして声を落としてこう言った。

「私、後で先生にメール送ります。作品に昇華させるには、何度も読み返したいでしょう? そう思ってもう書いてあるんです。ファイルにして送りますから。本当に怖いんですよ! 早く読んでくださいねぇ」

由美子さんはお辞儀をすると、まるで似合わない少女趣味の服を揺すりながら、お先に失礼しますと言って店を出ていった。

(写真:iStock.com/jpskenn)

Toきむらさおり先生
第一話 ある夏の記憶

橘雅紀さんは中学三年生だ。

その日、雅紀さんは、雅紀さんの両親と、高校二年生の姉と一緒に、田舎の祖父母の家に帰省していた。

夜、妙に喉が渇いて目が覚めた。麦茶でも飲もうと起き上がる。夏の夜なのにひんやりとした空気だった。廊下に出ると肌寒さを感じるほどだった。

―ギシ、ギシ、カサカサ

田舎の家はだだっ広い上に、ところどころガタが来ていて、時折こうして家鳴りがするから不気味だ。また、天井に浮き上がった大きなシミが、夜になるとことさら不気味に感じられた。

台所はかなり遠く、ひとりで行くのは勇気が要る。

―ギシ、ギシ、カサカサ

しかし、隣で寝ている姉を起こすのは躊躇われた。姉のことだ。中三にもなってオバケが怖いんでちゅかーなんて言ってからかうに決まっている。

なんとか一歩踏み出した。そのときだった。

長い廊下の先にぼうっと白く光る何かが見える。それは縦に伸びたり、横に広がったりして絶え間なく形を変えていた。

「ひっ」

悲鳴が喉から漏れる。しまった、と思ったときはもう遅かった。その白い何かは猛然と雅紀さんの方に突進してくる。だんだん、人のようなものに姿を変えながら。

逃げたい、逃げなくてはいけない、そう思うのに、足は根が張ったように動かなかった。

「いぬる」

耳元でそう囁いて、白い何かはフッと消えた。そこで初めて、大きな声が出た。

悲鳴を聞きつけて集まった家族は雅紀さんをなだめ、その白い何かが出てきたという場所に向かった。そこは何年もそのままにしていた物置だった。

「うわあ」

姉が悲鳴を上げ、父親が顔を顰めた。食べ物が腐ったような臭いが鼻を突く。

明かりをつけて臭いの元を探る。

徳利、皿、米、鏡―何年も放置していたであろう神棚が出てきた。

それから一ヶ月して雅紀さんの祖母は亡くなり、祖父はボケてしまったという。

雅紀さんはあの「いぬる」の意味を調べて、そして納得した。

関連書籍

芦花公園『ほねがらみ』

「今回ここに書き起こしたものには全て奇妙な符合が見られる。読者の皆さんとこの感覚を共有したい」――大学病院勤めの「私」の趣味は、怪談の収集だ。知人のメール、民俗学者の手記、インタビューの文字起こし。それらが徐々に一つの線でつながっていった先に、私は何を見たか!? 「怖すぎて眠れない」と悲鳴が起きたドキュメント・ホラー小説。

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ほねがらみ

大学病院勤めの「私」の趣味は、怪談の収集だ。

手元に集まって来る、知人のメール、民俗学者の手記、インタビューのテープ起こし。その数々の記録に登場する、呪われた村、手足のない体、白蛇の伝説。そして――。

一見、バラバラのように思われたそれらが、徐々に一つの線でつながっていき、気づけば恐怖の沼に引きずり込まれている!

「読んだら眠れなくなった」「最近読んだ中でも、指折りに最悪で最高」「いろんなジャンルのホラー小説が集まって、徐々にひとつの流れとなる様は圧巻」など、ネット連載中から評判を集めた、期待の才能・芦花公園のデビュー作。

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芦花公園 小説家

東京都生まれ。小説投稿サイト「カクヨム」に掲載し、Twitterなどで話題になった「ほねがらみ―某所怪談レポート―」を書籍化した『ほねがらみ』にてデビュー、ホラー界の新星として、たちまち注目を集める。その他の著書に『異端の祝祭』『漆黒の慕情』『聖者の落角』の「佐々木事務所」シリーズ(角川ホラー文庫)、『とらすの子』(東京創元社)、『パライソのどん底』(幻冬舎)ほか。「ベストホラー2022《国内部門》」(ツイッター読者投票企画)で1位・2位を独占し、話題を攫った、今最も注目の作家。

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