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物理の4大定数

2021.04.26 更新 ツイート

ピンポン玉は光速を超えられるか 小谷太郎

光速c、電子の電荷の大きさe、重力定数G、プランク定数h。
宇宙を支配する物理の4大定数を、NASA元研究員の小谷太郎氏がやさしく解説。
この宇宙では速度はどこまでも速くなれるものではなく、明確に限度があるのだという。

*   *   *

(写真:iStock.com/Chalabala)
 

相対性原理が破綻する世界

さてここまでの説明では、長さが縮んだり時間がゆっくりになったりする奇妙な列車があたりを走り回りました。

これは、アインシュタイン自身による解説書にも登場する由緒正しい列車で、もう100年以上にわたり、多くの本を走り回って読者を導いて(あるいは混乱させて)きました。

ここではこの列車にあと1回だけ走ってもらいましょう。今度は光速を突破します

客車を光速に近い速度で引っ張っている蒸気機関か電気モータかあるいはもっと未来的な推進機関に、石炭か電力かあるいは反物質をどかどか追加して、速度がとうとう30万km/sに達したと思ってください。

速度計はそこにとどまらず、40万km/sを超えて100万km/sを突破し、もういっそ時速100億光年をさしたとしてもいいです。

すると車内では何が起きると思いますか。

(写真:iStock.com/den-belitsky)

じつはこの問に正解はないので、車内の光景がどうなるか、自由に思い描いていいのですが、一つ確実なのは、ついに相対性原理が破綻するということです。

光速の、またはそれより速い列車内で、普通に物理実験を行なうことはできません。

光速cはこの世の最高速度

たとえば車内で光速を測定すると、車内の物差しや時計を(整合性を保ちながら)いくら伸び縮みさせても、車内と車外の測定結果を両方30万km/sにすることはできません

車内では光速に異変が起きたことに気づくか、あるいはそもそも実験が行なえないでしょう。

光速測定ばかりでなく、飲んだり食べたりおしゃべりしたり卓球したり決闘したりといったすべての行為は、物理法則にしたがうある種の実験なので、どれも通常運行時のようにはいきません。

乗客は(意識があれば)車内の異常に気づき、窓の外を見なくても、列車が光速を超えたことを知るでしょう。

これは

「慣性系において物理法則は同じ」

「慣性系が運動しているかどうかは、他の慣性系と比べないとわからない」

「慣性系の運動は相対的である」

という相対性原理に反します。宇宙の基本原則が破られているのです。

この考察から、列車であれどんな物体であれ、

「光速を超えることはできない」

という相対論の重要な結論が導かれます。列車が光速を超えると、物理法則が破綻します。

人間を乗せた列車が光速を超えられないだけではなく、原子1個、あるいは素粒子1個でも光速を超えることは許されません。超えると通常の物理法則が成り立たなくなります。

(そういう通常でない物理法則や光速を超える素粒子を追求する研究もあります。が、今のところ相対性原理に反する現象はみつかっていません。)

ピンポン玉は光速を超えられるか

光速は超えられない、と聞くと、たくさんのはてなマークが頭にわいてくるかもしれません。なんだか直感や常識に反する気がします。

たとえば、光速の50%で走る列車のなかで、ピンポン玉を前方へ光速の50%でサーブしたら、ピンポン玉はどうなるでしょうか(実現可能です)。

(写真:iStock.com/Toxitz)

車外から見てピンポン玉は光速に達すると答えたくなります。

しかし相対論にしたがって計算すると、光速の50%で走る列車内の物差しは収縮するし時計はゆっくり進むため、車内のプレイヤーにとって光速の50%で飛ぶピンポン玉は、車外からだと光速の80%として観測されます。光速には達しません。

列車を光速の90%で走らせ、サーブも光速の90%で打つと、ピンポン玉は車外から観測して光速の99%になります。やはり光速にはちょっと足りません。

(イラスト:小谷太郎)

光速よりも遅い列車から、物体を光速よりも遅く打ち出すと、その物体は車外から観測すると必ず光速よりも遅くなります。

光速以下の速度と光速以下の速度を合成しても、光速以上にはならないのです。

質量だって増えちゃうよ

物体が光速を超えられないわけは、別の理屈でも説明できます。

物体が運動すると、「質量の増加」という現象が起きます。

物体の速度が光速に近づくと、(別の慣性系から測った)質量が増加するのです。つまり、その物体は重くなります。ただし、その物体と同じ速度・同じ方向に動いている観測者にとっては、質量は静止時と変わりません。

これも相対論のふしぎの一つです。質量という、何があっても絶対変わりそうにない性質が変わってしまうこと、しかもそれが観測者によってちがう測定値になることは、あまりに非常識な主張なので、3回くらい聞き返したくなります

でもやはりこの主張も、実験してみると正しいのです。粒子加速器という装置で光速近くまで加速された粒子は質量が大きくなります

質量の小さな軽い物体に、力を加えるとたやすく加速してすっ飛んで行きますが、おなじ力を質量の大きな重い物体に加えても、さほど加速しません。これは私たちが日常経験していることです。

光速近い速度をもつ物体の質量は極端に重くなっています。(宇宙では、静止時の100倍だとか100万倍とかいったとんでもない質量まで増えた物体が見つかっています。)

そこへ、さらに力を加えて加速しようとしても、ほとんど速度は変わりません。

このため、すでに光速に近い物体をさらに加速して光速にすることはできないのです。これが、物体を光速まで加速できない理屈です。

(前節の説明と本質的におなじ説明なので、どちらでも納得しやすいほうで理解して大丈夫です。)

 

●次回は5/11の公開予定です。

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小谷太郎

博士(理学)。専門は宇宙物理学と観測装置開発。1967年、東京都生まれ。東京大学理学部物理学科卒業。理化学研究所、NASAゴダード宇宙飛行センター、東京工業大学、早稲田大学などの研究員を経て国際基督教大学ほかで教鞭を執るかたわら、科学のおもしろさを一般に広く伝える著作活動を展開している。『宇宙はどこまでわかっているのか』『言ってはいけない宇宙論』『理系あるある』『図解 見れば見るほど面白い「くらべる」雑学』、訳書『ゾンビ 対 数学』など著書多数。

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