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物理の4大定数

2021.04.11 更新 ツイート

宇宙はこういうふうにできている 小谷太郎

光速c、電子の電荷の大きさe、重力定数G、プランク定数h。
宇宙を支配する物理の4大定数を、NASA元研究員の小谷太郎氏がやさしく解説。
相対性原理は、宇宙の涙ぐましい努力によって守られている!?

*   *   *

(画像:iStock.com/alex-mit)

光速に近い列車内の卓球は、外からどう見えるか

それにしても、慣性系が動いていてもそこでの光速が変わらないとは、じつにふしぎな話です。

もしも光速が変わると列車内で奇妙な現象がさまざま起きるのだとアインシュタインはいいますが、光速が変わらないとなるとそれはそれで常識はずれの現象が起きるような気がします。というか、起きます。

たとえば列車内の卓球です。列車がどんな速さで走ろうと、止まっている場合と同様に試合は進むというのが相対性原理の教えです。プレイヤーは窓の外を見なければ、列車が走っていることに気づきもしません。

しかしその試合を列車の外から眺めるとどう見えるでしょう。列車がきわめて光速に近い速度で走っているならば、後方のプレイヤーから発した光が前方のプレイヤーに届くまで数分かかるのではないでしょうか。

はい、かかります。その一方で、前方のプレイヤーからの光は後方に瞬時に届きます。

これはどうしたことでしょう。話がちがうではありませんか。試合は列車の運動で影響を受けないはずでは。宇宙にだまされたのでしょうか。

列車は縮み、質量は増え、時間はゆっくり

列車内を飛ぶ光を、別の速度をもつ別の慣性系から観察すると、その観測者の系での光速で飛ぶように観測されます。これは実験事実です。これが光速不変というものです。

しかし列車内の観測者と、外の観測者の両方から見て、光が光速で飛ぶように見えるのは、どういう手品によるのでしょうか。

この手品は、実に手の込んだ仕掛けによって実現しています。

1. まず外の観測者からすると、列車と卓球台とピンポン玉とプレイヤーたちの長さは進行方向に縮んでいます。(これは前にでてきたフィッツジェラルド=ローレンツ収縮です。)

2. その上、列車の時間は外の観測者の時計で測るとゆっくり進んでいます。(これを「時間のゆっくり化」と呼びましょう。)

3. さらに、前方のプレイヤーの時間は後方のプレイヤーの時間に比べて過去の時刻をさしています。そのように外の観測者には観測されます。(これを「同時性の破れ」といいます。)

(イラスト:小谷太郎)

……ここで、相対性理論が牙をむきだして襲いかかってきました。やさしい語り口に油断していたら突然の豹変です。

この理解不能な文章はどういうことでしょう。収縮だとかゆっくり化だとか同時性の破れだとかいった珍妙な言葉は何を指すのでしょうか。(そもそも日本語でしょうか。)

時間や長さがそんなとんでもないことになって、車内はしっちゃかめっちゃかの大恐慌に陥らないのでしょうか。

相対性原理を守る宇宙の努力

いえ、しつこく強調しますが、車内の様子は静止している場合となんら変わらず、光は光速で飛び、乗客は平然と飲んだり食べたりおしゃべりし、ピンポン玉は前後を往復し、決闘は続きます。

乗客も選手も忍者も、自分たちの長さが縮んだり、時間がゆっくりになったり、同時性が破れたりしているとは、列車内の実験では気づきません。

列車内の観測者にとって列車内の様子が変わらないのは、言いかえると相対性原理が守られているのは、列車外の観測者から見てフィッツジェラルド=ローレンツ収縮や時間のゆっくり化や同時性の破れが起きているからです。

(本によっては、収縮やゆっくり化や同時性の破れがどうして必要なのか、一つずつ説明を始めるものもありますが、ここではそれはやめておきます。)

宇宙はこれだけの手間をかけて、列車内の物理法則に変化が生じないように、なおかつ外の観測者にとっても光速が変わらないように、つじつまを合わせています。

このような宇宙の努力によって、相対性原理は守られているのです。

以上は相対論から導かれる結論です。あらゆる常識に反するような結論ですが、これまで行なわれた無数の実験や観察に合致します。全く矛盾は見つかっていません。むしろ、これによって矛盾が避けられます。

宇宙はこういうふうにできているのです。

 

●次回は4/26の公開予定です。

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小谷太郎

博士(理学)。専門は宇宙物理学と観測装置開発。1967年、東京都生まれ。東京大学理学部物理学科卒業。理化学研究所、NASAゴダード宇宙飛行センター、東京工業大学、早稲田大学などの研究員を経て国際基督教大学ほかで教鞭を執るかたわら、科学のおもしろさを一般に広く伝える著作活動を展開している。『宇宙はどこまでわかっているのか』『言ってはいけない宇宙論』『理系あるある』『図解 見れば見るほど面白い「くらべる」雑学』、訳書『ゾンビ 対 数学』など著書多数。

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