

南国奄美でもまだまだ上着なしで出勤したくないくらいの肌寒さですが、本土ではまだまだ寒い日が続いているのではないでしょうか。コロナ禍となりもう1年以上会っていない千葉の実家の犬は、両親が送ってくれた動画の中で、ホットカーペットの上に伏せをしてくつろいでいました。奄美では、全国的に大雪となった2016年に雪が降り、それが115年ぶりだったということで、当時、鹿児島でニュースとなっていた記憶があります。
よっぽどのことがないと雪が降らない奄美。年が明けると半月ほどで、なんと桜が咲きます。「日本一早い桜の開花」とも呼ばれる奄美の桜は、本土で最も一般的なソメイヨシノとは違う種類で、「ヒカンザクラ」と言います。寒空を緋色に染めるから緋寒桜だそうです。ちょっとロマンチックな響きですね。ソメイヨシノより濃いピンク色で、とても南国らしい色をしています。
病院の駐車場に数本の緋寒桜の木があり、また近くの山の中に点々とピンク色の木が散在しているのを見かけます。いくつか桜並木のスポットがあり、ドライブに出かけました。もうすでに葉桜になっている木もあって、季節の移ろいの速さを実感します。

私が奄美で一足早いお花見を楽しんでいた2月6・7日、第115回医師国家試験が行われました。並大抵でないプレッシャーに打ち勝って、6年間勉強してきたことをぶつける国試。なんとか「サクラサク」ことができてから早2年、咲き誇っている桜を見ながらそのことを思い出していました。
医学科6年生になると、自習室といって、グループごとに勉強するためのスペースを割り当てられます。私の学年は比較的人数が多かったため9、10人ずつが12畳ほどの部屋に振り分けられ、勉強に打ち込みます。それまでに、山ほどある試験を全てパスし、病院での臨床実習もクリアしてきた人たちが、ついに、医師になるための国家試験というラスボスに向かっていくための部屋です。
6年生の前半には選択実習があったり、鹿児島大学では地域医療実習で離島に行くチャンスがあったりと、自習室を空けることも多いです。前半はそこまでの緊張感はなく、問題集を解いたり、国試対策用のビデオ講座をこなしたりしながら、ときには仲のいい友達とランチに出かけることもありました。
しかし、国家試験にたどり着く前には、7月には実技の試験、9月には全診療科の科目別試験、11月には他の学部でいう卒業論文にあたる卒業試験と、越えなくてはいけない大きな壁が3つも立ちはだかっています。これらをパスしないと卒業できず、まず国家試験を受験する資格がもらえないのです。
そんな中、私はかなり呑気に過ごしていました。決して成績優秀な方ではないにもかかわらず、ひとつ大きな試験を終える度に、最後の学生生活だからと小旅行に出かけたり、ウミガメの孵化調査ボランティアのため屋久島に泊まり込んだり、学祭の管弦楽の演奏会に出たり。大きな試験の前は、自習室の人と協力し合って勉強し(教えられることの方が圧倒的に多かったですが)、思ったよりは順調にクリアできていたため、まだ勝ってもいないのに兜の緒が緩んでいました。
無事卒業試験を終え、12月に国家試験の模試を受けた時、今までにないくらい悪い成績を叩き出してしまいました。それもそのはず、周囲はみんな、多少の息抜きはしつつも、コツコツと本気で勉強しているのです。私の自習室は比較的自由な雰囲気でしたが、それでも朝から集中力の限界と闘い、昼休みには分からなかったことを質問し合ってみんなで調べたり分かる人に教えてもらったりして、日付が変わるまで続けている人もいました。
国家試験の範囲は膨大なので、偏った勉強にならないことが結構大切なポイントになってきます。とくに自習室で毎日昼休みに話題となることはフォローして、置いてけぼりにならないようにしました。正答率の高い問題を落とさないためです。遅れを取ってしまった私に同級生は優しく、みんなの中では常識になりつつあることについても丁寧に教えてくれました。
四六時中勉強していて頑張るのが辛い時は、仲の良い同級生同士励まし合い、たまにはランチをし、大晦日には友達のおばあちゃんの家でおそばをいただき、研修医になったらお高いけどかっこいい白衣を1枚買うんだと白衣通販サイトをチェックしつつ、年明けはさらに本番に向けてラストスパートをかけました。
私がストレスを感じたのは、多分大丈夫だろうという範囲内に到達するまで人より時間をかけてしまったことに加えて、医師国家試験には、点数が8割に満たないと他がどんなにできても即不合格になる分野があること、各問に設けられた解答の選択肢の中に「禁忌の選択肢」があること(「禁忌の選択肢」を4つ以上選んでしまうと、他の問題が全問正解でも不合格になる)、また落ちたら研修先として内定している病院に迷惑がかかること、大学受験と違って他人との戦いでなく自分が勉強して合格圏内に入らなくてはいけないため言い訳がしづらい試験であることでした(ストレスを感じることだらけ!)。
この試験に通らなかったら医師になれないんだ……! というプレッシャーのおかげか、最後はなんとか最悪だった模試の前の成績くらいまで追い上げることができました。試験前に応援に来た母は、ニキビだらけの鬼の形相で寝る直前まで勉強している私を見て、びっくりしたと言っていました。
自習室には先輩や後輩がたびたび差し入れをしてくれました。また鹿児島大は試験会場が熊本なので、試験会場に向かう3台のバスを見送るために、後輩だけでなく、先輩や先生方も時間を合わせて見送りに集まってくれました。熊本についてからはみんなでカツ丼を食べ、本番直前もたくさんのLINEに励まされ、なんとか2日間、全400問を解き終えた時にはもうヘトヘトでした。不安でたまらなくて帰りのバスの中で予想の採点をし、なんとかなりそうであることを確認し、ようやくホッと一息つきました。


思い出すだけでも辛いですが、医師と名乗れる切符を、そう簡単に手に入れられるはずはないですね……。
国試が終わった後は、卒業旅行に最後の部活に奄美での新生活にと、また大忙しでした。国試を終えた医学生の皆さんには全力でお疲れ様と伝えたいですし、ゆっくり羽を伸ばして、残りの春休みを有意義に使って楽しんでほしいなと思います。
医師国家試験に限らず、受験生の皆さんに、奄美から一足早く、写真で「サクラサク」をお届けします。健闘を祈ります!
奄美の研修医

研修医ってどんなふうに働いているの? 離島の医療事情はどうなっているの? 25歳のドクターからが生き生きと綴る奄美大島だより。
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