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奄美の研修医

2020.11.17 更新 ツイート

最南端の町の診療所で研修しています 熊原悠生実

島最南端の町・瀬戸内町で研修中です。見晴らしの良い展望所から。海岸が入り組んでいます

11月になり一段と寒さが増し、ちょっと暖房をつけるか迷う日も出てきました。季節の移り変わりはお構いなしに、奄美では年中サンダルで過ごしている人がたくさんいます。足元は涼しそうでも、羽織りものを身につけている人もよく見かけるようになりました。病院ではインフルエンザの予防接種のシーズンが始まっていて、たくさんの患者さんが来院されています。

 

さて、私は初期研修2年目で全員必修とされている「地域医療」の研修中です。以前にもチラッとご紹介しましたが、「地域医療」は、都市部からは離れた、マンパワー、物品ともに医療資源の限られた環境での研修です。たくさんの救急車を受け入れて重症の患者さんにも対応するような大きな病院から離れて、より患者さんの日常生活に近い、地域の特性に沿った医療を勉強しています。

各地域には大きな病院から小さな診療所まで様々な医療機関があり、それぞれ異なる役割を担っています。ざっくりいうと、大きい病院は、マンパワーや先進的な医療機器を必要とする場合を、小さな診療所はいつもの健康管理や病気の予防などを担当します。

患者さんが最初に訪れた診療所で異常が見つかった時、そこではしきれない検査や治療が追加で必要だと判断されることがあります。その場合、より設備やマンパワーがある施設に患者さんを紹介し、受診してもらいます。反対に、検査や治療がひと段落した後、かかりつけ医に定期的にチェックしてもらう必要がある時は、大きい病院からかかりつけ医にお願いします。

私が普段働いている病院は重症患者さんに対応していて、同時に、離島という限られた環境にあります。奄美では中心的な役割を担う病院も、地域の診療所も「地域医療」です。しかし、マンパワーや設備が比較的整っているところにいるため、やはり患者さんを「受け入れる」ことの方が断然多いです。今回は「送る」側の経験もしたいと思い、診療所での研修を希望しました。

奄美の中心地、名瀬から車で南へ1時間。海の青さが一際美しい、奄美大島最南端にある瀬戸内町で1カ月間お世話になっています。ここでは、血圧や糖尿病、コレステロールのお薬など、定期的に服用するものを調節して処方したり、子供の予防接種をしたりと、主にかかりつけ医としての役割を勉強しています。普段、皆さんが調子を崩した時に行く病院、といったらイメージが湧きやすいでしょうか。

対岸に見えるのは加計呂麻島

研修医はまず重症患者さんに対応できるようになる、というのが大きな目標にあり、普段は入院と救急外来の患者さんを診ることがほとんどで、比較的短いスパンで診察します。一般外来で月単位で定期のお薬を調整するのは新鮮です。

また、できる検査や処置の幅も、全く異なります。例えば、採血。多くの項目がその日のうちに結果が分かる病院とは違い、診療所では院内ですぐに結果が出る項目が限られているため、院外に検査を発注します。医療設備についても、ここにはどんなモノがあるのか、初日にぐるっと院内を探検しました。

医療資源が限られていると、どこから先は大きい病院へ紹介すべきかの線引きがポイントになってきます。明らかに緊急性があって送るべき患者さんを、送らなければならないのは当然です。しかし、環境が整っているからといって何も考えずに全員送っていたら、大きい病院もパンクしてしまいます。「送る」側の最も大変なことのひとつは、この判断を迫られることにあると思います。

いつもと違う環境で戸惑うこともありますが、スタッフの皆さんに温かく迎えていただき、楽しく過ごしています。偶然にも、現在診療所に勤務している指導医は学生時代からお世話になっている先生方で、かなり質問しやすいです。

特に、3人いる常勤の医師のうち、いちばん若手の先生は私が学生の時の研修医で、奄美で研修しようと思ったきっかけの1人でもあります。当時からたくさん教えてもらい、さらには疲れも溜まっているであろう中、オフの日まで奄美を案内してもらいました。おかげさまで充実した実習生活となり、この先輩のようになれるなら……と奄美で研修する決心がつきました。

今でも、学年が近いので、私がどのような点で困りやすいかを一番理解してもらっているように感じます。後輩をいろいろフォローしながら、テキパキと仕事をこなしていく大きな背中を見ると、当時も今も「果たしてたった数年後に、自分は同じくらい動いて仕事をこなせるのだろうか……」と思ってしまいます。そんな私の緊張を察してか、所長には「肩の力を抜いてくださいね」と言葉をかけてもらいました。

これから、海岸線が入り組んでいてアクセスの悪い集落や周囲の小さな島に、バスや漁船に乗って行く「巡回診療」に同行する予定です。学生時代にバスの巡回診療は1日だけ実習しましたが、船で周囲の島に行くのは初めてです。診療所よりもさらに制約のある中、どんな工夫でその地域の医療が成り立っているのか、次回は研修医の視点でお伝えできればと思います。

関連書籍

中山祐次郎『泣くな研修医』

なんでこんなに 無力なんだ、俺。 雨野隆治は25歳、大学を卒業したばかりの研修医だ。 新人医師の毎日は、何もできず何もわからず、 上司や先輩に怒られることばかり。 だが、患者さんは待ったなしで押し寄せる。 初めての救急当直、初めての手術、初めてのお看取り。 自分の無力さに打ちのめされながら、 がむしゃらに命と向き合い、成長していく姿を 現役外科医が圧倒的なリアリティで描いた、感動の医療ドラマ。

中山祐次郎『逃げるな新人外科医 泣くな研修医2』

俺、こんなに下手クソなのに メスを握っている。命を託されている。 研修医・雨野の物語、待望の続編。 文庫書き下ろし! 雨野隆治は27歳、研修医生活を終えたばかりの新人外科医。 二人のがん患者の主治医となり、奔放な後輩に振り回され、 食事をする間もない。 責任ある仕事を任されるようになった分だけ、 自分の「できなさ」も身に染みる。 そんなある日、鹿児島の実家から父が緊急入院したという電話が……。 現役外科医が、生と死が交錯する医療現場をリアルに描く、 人気シリーズ第二弾。

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奄美の研修医

研修医ってどんなふうに働いているの? 離島の医療事情はどうなっているの? 25歳のドクターからが生き生きと綴る奄美大島だより。  

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熊原悠生実

千葉県市原市出身。25歳。両親は鹿児島県出身。高校までは千葉、大学は鹿児島大学へ進学。在学中はウミガメ研究会に所属し、吹上浜・屋久島を中心に産卵・孵化調査に参加。卒業後は鹿児島県奄美市の病院に採用され来島。在住2年目。今のところ外科系志望。

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