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ヘイケイ日記~女たちのカウントダウン

2020.11.19 更新 ツイート

可愛い女と言われたいのか言われたくないのか 花房観音

7月にミステリーの女王・山村美紗の評伝「京都に女王と呼ばれた作家がいた」を刊行した。彼女についていろいろ調べて驚いたことはたくさんあったが、最近じわじわこみあげてきているのが、山村美紗が「男の人に、可愛い女と思われたい」と、繰り返し同志である作家に言っていたというエピソードだ。

編集者たちに対して怒ることも多く、怖い女だと思われていたことを本人も自覚はしており、だからこそなのか、「可愛い女」でありたかったそうだ。

山村美紗は実はデビューも遅く、売れっ子作家として君臨したのは50代から60代前半にかけてだ。

 

その年齢で、「可愛い女と思われたい」なんて口にすることは、自分には無理だ! と思った。

言えない、絶対に、思っても口にできない。

そりゃ可愛いと思われたい

若い頃は、「不細工な自分がそんなこと言ったら気持ち悪いし、馬鹿にされるだけだ」と思っていたし、今は「ババアがええ年こいて何を言ってんねん」と、自分ツッコミが入ってしまう。

 

私が、もう男なんていらない! 好かれなくていい! 愛されたい欲からは卒業して、私は私らしく生きている! と、いうような女ならば、山村美紗のセリフに羨望し、敗北感を味わったりはしない。

別にそんなにモテたいわけじゃない。不特定多数の異性に好かれるのは面倒なことが多いから、多くの人に称賛されたいとは、たぶん望んではいない。

でも、好きな男には、可愛いと思われたい。

そんなこと、一生、口にできないだろうけれど。

自分は自分で可愛いと言ってしまう

「可愛い」という言葉を嫌がる人もいる。幼く見ている、愛玩する対象でしかないのだと。それはもっともだとは思う。

私自身も、SNSなどで、私の本も読んだことないのに「可愛いですね、会いたいな!」などと、知らないおっさんがメッセージを送ってくるのは、正直気持ち悪さしかない。

男だけじゃない、たいして親しくもないのに、容姿のことをやたらからかってくる年上の女性がいたので、「不快です」と怒ったら、「可愛いから」と、謎の返信がきたが、馬鹿にすんなとしか思わなかった。

そういう私も、すぐに「可愛い」と口にする。男に対しても女に対しても物に対しても。

一番「可愛い」をフル活用しているのは、姪と甥だ。写真を見ても声を聞いても、「可愛い」という感情に支配され悶絶する。

しかしこれも、彼ら彼女らが大きくなっていくにつれ、やめなければいけない。いつまでも愛玩物扱いされるのは、気持ち悪がられるだけだろう。

可愛さとは無縁

若い頃に「可愛い」と言われた記憶は皆無だ。

容姿のこともあるが、子どもの頃は理屈が多く大人に対して反抗的で、全身で「可愛い」を拒否していた。同世代の男子からは、変な女扱いしかされず、彼らが望む「可愛らしさ」を、全く私は纏っていなかった。

20代半ばから関係を持った男の人たちも、私に対して「可愛い」なんて言葉を使ったことはなかった。「面白い」とは言われるが、女性としての魅力らしきものを称賛されたことはない。

本来なら、浴びるほどの「可愛い」の称賛を享受できる若い時代に、私は「可愛い」とは無縁で生きてきた。だから人に甘えることも苦手で、甘えられるのはセックスしているときだけだった。

30代から、やっと多少恋愛じみたこともあり、結婚もして、「女」として生きられるようになったけれど、長年抱え込んだめんどくさい自意識は、未だに私がうぬぼれかけると、冷水を浴びせにくる。

誰かに「可愛い」と言われても、どうしたらいいかわからず、困ってしまう。たとえそれが好きな男からであってもだ。本当は嬉しいのに、受け入れられない。人の好意や誉め言葉を拒否してしまうのは、自分にそんな価値があるのだと思えないからだ。

面倒臭い自意識との戦い

私は自撮りをSNSに載せない。写真そのものが苦手なのもあるけれど、自分の顔を多少でも加工したり、しなくても、SNSに載せてしまい、自意識が漏れ出してしまうのが耐えられない。

もしも「可愛い」なんてコメントがついたら、自分の自意識を見透かされた気がして、「ぎゃあああーーーっ!」と叫んで速攻、投稿を消してしまいそうだ。

自意識にふりまわされるなんて、40歳ぐらいまでのものだと思っていたけれど、50歳を目前にして、まだまだ私はめんどくさく、そんな自分を持て余している。

生理が終わるのを目前に控えてもなお

いい年をしてみっともないとは思ってしまうけれど、私はまだ諦められないもの、手放せないものがたくさんあって、うんざりするほど欲が深い。

当たり前に可愛いと言われ、自分は可愛い、可愛いと思われたいと口にできる女の人たちには一生叶わないと思うこともあるし、羨望し続けるだろう。

どうしたって、潔い女にはなれないまま、ばあさんになりそうだ。

生理が終わろうとしている年になって、自分の底知れぬめんどくささを思い知り、このコラムを書きながら、可愛いと思われたいという願望を他人に知られることに身もだえしている。

「可愛いと思われたい」なんて、この先も口にすることはないだろうし、自意識との戦いはたぶん一生続く。

せめて今の自分にできることがあるならば、私の価値を少しでも信じるために、愛情や好意を向けられることから逃げないことだろうかと考えている。

(高知に行ってきました)
(がっかり名所)
(高知駅前。
坂本龍馬、中岡慎太郎、武市半平太)

関連書籍

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花房観音

2010年「花祀り」にて第一回団鬼六賞大賞を受賞しデビュー。京都を舞台にした圧倒的な官能世界が話題に。京都市在住。京都に暮らす女たちの生と性を描いた小説『女の庭』が話題に。その他著書に『偽りの森』『楽園』『情人』『色仏』『うかれ女島』など多数。

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