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ヘイケイ日記~女たちのカウントダウン

2021.04.01 更新 ツイート

両立なんてさせてたまるかという呪い 花房観音

先週、最初の本を出してから10年が過ぎ、無事に11年目に突入した。
だからといって特に何もせず、居酒屋でひとりで軽く飲んだぐらいで、すぐに帰宅していつもの日常を送っている。
ただ、ふと思い出すことがあった。
10年前、デビューした際に、ある男性編集者に言われた言葉だ。
私が、結婚する予定であると告げると、その編集者は、「女の作家は、幸せになると書けなくなるんだよな」と口にした。
言われたときは、もちろんカチンを来た。
あとで、他の女性作家と話していて、この「幸せになると書けなくなる」という言葉を投げかけられた経験があるのは、私だけではないのも知った。
どうして女の作家は、こんなことを言われてしまうのだろう。

 

「女の幸せ」なんじゃそりゃ

この編集者の言った「幸せ」は、仕事の成功ではなく、恋愛、結婚、出産などを指している。

私は小説家デビューと同時に結婚したけれど、その際、何人もに「女の幸せつかんだね」と言われるたびに、違和感があった。私としては、結婚は多くの人がするけれど、小説家デビューのほうが人生の一大事のはずなのに、みんなの意識は、結婚>>>>小説家なの?? と、素直に「ありがとう」と言えなかった。
そして「結婚=女の幸せ」なんて本当に思ってる? と、疑問を抱いた。
39歳まで独身だった私は、結婚にそんないいイメージは無かったし、家事嫌いだし、自由を奪われるのは嫌だなともずっと考えていた。
結婚して不幸な人もいれば、独身で幸せな人もいる。
男性が結婚しても「男の幸せつかんだね!」なんて、言われない。
祝福してくれるのはありがたい話だけれど、「女の幸せつかんだ」と言われるのは、ずっともやもやしていた。

「あなたはだんだん書けなくなる~」

「女の作家は、幸せになると書けなくなる」というのは、どういう意味だろうかとも考えた。
満たされてしまうと書く気力が失われるというのは、わからなくもない。
一部の売れっ子を除いて、小説というのは儲からないし、世に出たら批判や、ときには誹謗中傷もセットでついてきて、理不尽だなと思うことも、しばしばだ。
編集者とやり取りしながら一冊の本になるまで書き続け完成に至るのは、結構な気力がいる。モチベーションが必要で、心が折れないように、メンタルを整えるのに必死だ。書き終えたあとは、ドッと疲れが押し寄せてきて動けなくなることもある。
それでも書き続けるのは、飢餓感があるからだ。
私の心の欠落が、常に怒りや悲しみや寂しさを訴えている。それらは日常生活では吐き出せないものばかりで、文章にして人に読まれることでしか行き場がない。
だから欠落が埋まってしまえば書けなくなるかもとは、常に思っている。
けれどその欠落は、「女の幸せ」を得て無くなるものではない。

不幸であってほしい

近代の女性作家の中には、恋愛スキャンダルやトラブルなどを作品に反映し名を残す人たちもいるし、ドラマチックな人生は、それだけで大きなネタとなり、印象も強い。
でも、それは「不幸」なのだろうか? 
私自身も、男に騙された借金話をネタにして、「不幸自慢」と同業者に批判されたこともあるけれど、不幸というより「ちょっとやらかしてしまった私って馬鹿」というぐらいの認識だ。男運が悪いとかは思っているが、それも見る目がないだけの話だと今は思う。
「女の作家は幸せになると書けなくなる」と言ってくる人たちは、「女の作家は不幸であって欲しい」と願っている気がしてならない。

仕事の成功と「女の幸せ」を両立させてやるもんか、男無しではお前ら女は幸せになれないんだぞと内心思っているのではないか。

幸福な両立はゆるされない

男が女に、という話ではなく、女でも女にこういうことを言う人は、たくさんいる。

私も、「本たくさん出して活躍してるけど、やっぱり子どもがいないと可哀そう」と知人女性に言われた。
作家に限らず、私の知り合いの独身女性は、仕事で成功して財産も築いているのに「頑張ってるけど、女の人はやっぱり結婚して子ども産むのが幸せ」と、いろんな人に言われてげんなりしたと話していた。
女性の物書きで、結婚を決めたのに、「幸せになったら私は書けなくなる」という恐怖で婚約破棄した人も知っている。
それぐらい、この「女の幸せと仕事の成功は両立しない」呪いは根深い。
けれど、人を不幸と決め付けて優越感を得たい、自分はマシだと思いたい人につきあうことはないし、そんな人たちの言葉を本気にする必要なんてない。

お前らの言う通りになってたまるか

「幸せになると書けなくなる」と言われてから、10年が経ち、私はまだ小説家としてなんとかやってきている。人気がなくて本が売れなくなり仕事を失ってしまえばおしまいだけれども、書く気力はあるし、書きたいこともある。
渇望があり、満たされてはいないからだ。
ずっと欠落を抱えて生きている。
でもそれを決して「不幸」だとは思わないし、欠落があるからこそ書き続けられるのならば、幸せだ。

デビューしていきなり「幸せになると書けなくなる」なんて言われたときは、少し腹立たしくもあったけれど、だからこそ「お前らの願う通りになってたまるか」と思ってもいる。

恋愛や結婚や出産で幸せになったっていいけれど、「女の幸せ」は、それだけじゃない。

(デビューして10年。デビュー作を眺める)
(居酒屋で10年を振り返る)
(居酒屋で新玉ねぎチーズ焼き)

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花房観音

2010年「花祀り」にて第一回団鬼六賞大賞を受賞しデビュー。京都を舞台にした圧倒的な官能世界が話題に。京都市在住。京都に暮らす女たちの生と性を描いた小説『女の庭』が話題に。その他著書に『偽りの森』『楽園』『情人』『色仏』『うかれ女島』など多数。

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