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50歳の誕生日、私は京都駅方面に向かった。

目指すは日本一高い五重塔のある東寺……のすぐそば、京都唯一のストリップ劇場・DX東寺だ。

近年、誕生日は旅行することも多かったが、コロナ禍の中では自由に動きにくい。どうするか考えた結果、DX東寺で過ごすのを決めたのは、浅葱アゲハさんの舞台が観られるからだ。

 

浅葱アゲハさんは、空中で舞うのを得意としている踊り子さんで、私がストリップを見始めた頃、いろんな人に「アゲハさんはすごい」「天井が高いDX東寺で見るべきだ」と言われた。

そして実際に東寺の劇場で彼女のステージを鑑賞したとき、私は拍手を忘れた。

あまりにも崇高で、たたただ見入るしかできなかった。とんでもないものを目の当たりにしてしまったと、呆然とした。

彼女の身体は華奢に見えて無駄のない筋肉に覆われている。そして空中でシルクの布を操り舞うアゲハさんは、人間ではなく妖精じゃないかと、本気でいつも思う。

アゲハさんは、ふれたらこわれてしまいそうなほど繊細な人に見えるけれど、広い場内の空気を変えてしまうほど強い生命力を発している。

何度も見ているはずなのに、やっぱり今回も私は拍手を忘れ、感動してボロボロ泣いていた。

50代の、初泣きだ。

食べた、そして歩いた

それから地下鉄で烏丸駅まで移動し、数年前にテレビのロケで一度来たことのあるフレンチバルでワインと美味しい料理をいただいた。

少しまた歩いて、繁華街にあるお寺と一体化しているホテルにチェックインする。

誕生日は仕事をしないと決めていた。家の布団の周りには資料が積み上げているし、パソコンが目の前にあると何かしら作業をしてしまうので、気分転換のためにも、ホテルを予約していた。

大浴場のあるホテルなので、ゆっくりと風呂に入り、早めに睡魔が訪れたので眠った。翌朝は、ホテルで朝食を食べて、ぶらぶらしたあと帰宅して、日常に戻った。

50歳になったからといって何の変わりもない……と言いたいが、実は誕生日は朝から足が攣るし、軽く腰に痛みを感じた。ホルモンの関係なのか、翌々日ぐらいから、なんとなくどよんと気持ちも落ちていて、こんな不調が心身ともに何度も訪れるんだろうなと考えると、やっぱり50歳! 万歳! とはいかない。

若い頃に戻りたくはないけれど、老いはしんどい、つらい。

新しい自分のために

ささやかな抵抗というわけではないが、私は新しい口紅を買った。

マスクで口元は見えないけれど、アゲハさんの舞台を見るのだから自分も少しはきれいにしたいと去年買った口紅を塗って鏡を見たら、ひどく似合わない気がした。

近年、口紅に限らず、こういうことが増えた。それまで平気で身に着けていた服やアクセサリーを、「似合わない」と思ってしまうことが。だからずいぶんと、捨てた。「また身に着けるだろう」と思ってとっていたものも、容赦なく捨てた。

新しい口紅が欲しくなった。

50歳の自分のための口紅が。

マスク生活で、化粧もいい加減になり、口紅をつける機会は、ものすごく減っている。人と会うことがあってもほとんどマスクしているから、つけないことが多い。

こんな生活は、きっともうしばらく、続くだろう。

でも、だからこそ、私は口紅を買った。

女でいさせてくれ

昔、女である自分が嫌で嫌でたまらなくて、全く化粧をしない時期が長かった。化粧をしても美しくなれない、化粧が似合わないのは強いコンプレックスだった。

どうあがいても私は心身ともに女であるのに女になれないのがつらかった。

30歳を過ぎてから、女でありたい自分を抑えつけるのをやめて化粧をはじめたとき、どれだけ楽になったことだろう。

あの頃、口紅は私の鎧だった。心を守るための鎧と、ときには世間や逃れられない女という性に負けないための武器でもあった。

 

50歳の今は、女でいさせてくれ、と願いながら、口紅を選んだ。

若い女しか恋愛や性愛の対象として認めない男だらけの、女子や女の子カルチャーばかりの、おばさんの居場所がない世界で、近いうちに生理が終わり50歳になり、「もう女じゃない」と、言われることは、やっぱりこれからあるだろう。

それでもまだ女でいたいと今は思っているし、年を取ることには抗わなくても、年を取ったら女じゃないなんて価値観に従う気はない。

50歳になって買った口紅は、私が女であるためのお守りだ。

ゴールはまだない

この連載を終える時期について、担当編集者と数か月前に話し、「閉経をゴールに」という話も出たが、閉経の定義は、最終月経から一年なので、まだ少ないながら生理はあるし、先が長すぎるし、下手すりゃ数年閉経までかかるかもしれないので、「50歳の誕生日まで」とした。

なので、閉経してないけれど、連載はとりあえず、今回で終わりです。

まだしばらく更年期の不調や不安定さと戦いながらあがく日々は続きそうだ。

女の人生は、いつまでたっても大変だけど、50歳になった今は、それもふくめて面白いんじゃないかと思っている。

(フレンチバルで)
(鴨ステーキ)

関連書籍

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ヘイケイ日記~女たちのカウントダウン

加齢、閉経、更年期……。何かと女性の心をざわつかせるキーワード。

本当にそれって怯えたじろぐものでしょうか。恐れるも楽しむも自分次第じゃありませんか?

「生理が終わったって、女が終わるわけじゃなし」。

女性たちの第二ステージは、新しい人生の幕開け!

セックスは?恋愛は?仕事は? 女たちの赤裸々カウントダウンをご紹介。

女の数だけ生き方がある!

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花房観音

2010年「花祀り」にて第一回団鬼六賞大賞を受賞しデビュー。京都を舞台にした圧倒的な官能世界が話題に。京都市在住。京都に暮らす女たちの生と性を描いた小説『女の庭』が話題に。その他著書に『偽りの森』『楽園』『情人』『色仏』『うかれ女島』など多数。

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