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ヘイケイ日記~女たちのカウントダウン

2021.02.18 更新 ツイート

貢ぐ女の友は貢ぐ女 花房観音

引き続き、少しづつではあるが部屋の片づけをしている。

昔、好きだった人関係のものは、とっておいても仕方がないので、容赦なく捨てている。

その中で、「これだけは捨てられない」ものがあった。

あの人のことだけは覚えていたいの……なんて、いい話ではない。

男に貢いだ証拠品である、銀行振り込みの「ご利用明細」だ。

初体験の相手の男に、「お金がないと故郷に帰らないといけない、切羽詰まっている」と頼まれ、複数の消費者金融から金を借りて男に渡した。男は「返すから」と言っていたけれど、結局数百万円渡して、戻ってきたのは三万円だけだ。そのあとは関係が破綻し、「返して」と懇願しても「無いから返せない」の一点張りだった。ちなみに、全く罪悪感など無いようで、未だにときどき「お茶のもう」とか連絡してくる。

今後、この男と何かトラブルが発生したときのために、振り込んだ証拠である明細書は捨てないことにした。

お金を渡してまで男に縋る

当時は、共通の知り合いに相談し、その知り合いが友だちの弁護士に聞くと「返済能力がないから、難しいだろう」と言われ、私のほうも家賃すら払えずガスと電気代は毎月止められるような生活で、裁判なんてお金がかかることは無理だと思っていた。

今なら、そんな状況でも、駆け込む先だって思いつくし、誰かに助けを乞うこともできる。

男の銀行口座に振り込んだ明細書を久々に眺めながら、お金を渡すことでしか相手にしてもらえないと思い込んでいた過去の私の卑屈さを思い出していた。

自分の貢ぎ経験は、ずっと恥だと思っていたし、あるときまでほとんど人に打ち明けたことはなかった。心配されるのが申し訳ないし、バカにされるんじゃないかという怖さもあった。

今でもこの話をあちこちに書いて、それを読んだ女性に、「信じられない」「どうしてそんなことをするのか、全く理解できない」とは、よく言われる。

お金を渡してまで、男に縋ろうとするのは、ありえない、と。

彼女たちは、「自分に興味のない男は、そもそも好きにならない」ともいう。だから、男に貢いだり、必死に愛を乞い醜態をさらす女が、信じられないと。

そう言われる度に、すいません、私、女として最底辺なんです、あなたたちとは違うんですと、謝りたくもなる。

自分は男に愛され、欲情されるのが当たり前で生きてきた人たちには、絶対にわからないだろうと内心思いながら、「いや、私、バカだからー」なんて口にしている。

貢ぎフレンドは意外と多い

しかし一方で私が小説家になる前にブログに貢ぎ経験のことを書くと、思わぬ反響もあった。ブログを読んだ人から、「私も同じような経験あります!」と、メールが何通も来た。リアルな知り合いも、数人、「実は誰にも言ったことないけど、私も貢いで大変だった」と告白してくれた。

私からしたら、彼女たちは、「最底辺」の私とは違い、男の人から愛される資格を十分持っているように見えたのに、そうではなかった。彼女たちも必死に愛を乞うていた。

そして小説家になり、さらにあちこちにこのことを書くと、「私も!」という人が、思ったよりもたくさんいるのを知った。

金額や状況は様々だが、貢ぎ友、貢ぎフレンズたちが出来た。

貢ぎ女の共通点としては、他人が思うより自己肯定感低めで、情が深い。この「情が深い」というのは、私も何度も言われたが、非常に厄介だ。

そして貢がせる男は、女の自己肯定感の低さと、情の深さにつけこむのが上手い。自分で稼ぐ能力はなくても、貢いでくれる女を見つける嗅覚には優れている。

私は「貢がせ男」にぶち当たって被害を受けたのは一度だけだが、何度も同じ経験を繰り返している女も知っている。

また、貢ぎフレンドの女たちは、仕事を持ち、経済的に自立している人も多い。自分が稼ぐから、男に頼らなくてもいい。そうなると、頼りたい男が寄ってくる。社会で男並み、男以上に仕事をバリバリしていると、「偉そうな女が許せない、偉そうにしたい男」に遭遇もする。女のほうが稼ぐのは嫌だ、自分のパートナーには自分より収入は下であって欲しい男というのも、結構いる。

そんな「何がなんでも女より上に立ちたい男」たちに揉まれていると、偉そうにしない「私がいないと生きられない」と思わせる男が、するっと疲れ切った心の隙間に入り込む。

男が女を養うように、女だって男を養うのは、問題ない。

ただ、騙したり嘘を吐いたりして金を引っ張るパターンは、ロクな結末を迎えない。

 愛されなくたっていい

そう言いつつ、実は私は自分の貢いだ過去を、今はそんなに「私なんて最底辺」と思い出して落ち込んだりはしない。嫌なことや悲しいことがたくさんあったから、二度とあんな目には遭いたくないし、人には絶対にすすめられないけれど。

私自身は、こうしてネタにできるようになったし、自分の「不幸」で、人を笑わせたり救うこともできると知り、自分も救われた。

愛されたいと乞う女がたどり着くのは、愛されなくても生きていける境地なのかもしれないともときどき考える。

私はまだまだ愛されたいけれど、昔と同じ苦労をする体力気力もないので、2度とそんな男には引っかかりたくないと誓って生きている。

けれど男に貢いでしまった自分の情の深さは、嫌いじゃない。

そう言えるのは、今まで出会った「貢ぎフレンド」たちのおかげなのだ。

(府立植物園の温室)​
(純喫茶でランチ)​​​​​​

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花房観音

2010年「花祀り」にて第一回団鬼六賞大賞を受賞しデビュー。京都を舞台にした圧倒的な官能世界が話題に。京都市在住。京都に暮らす女たちの生と性を描いた小説『女の庭』が話題に。その他著書に『偽りの森』『楽園』『情人』『色仏』『うかれ女島』など多数。

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