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2020.11.06 更新 ツイート

家族をめぐる、2つの「赦(ゆる)し」 沖田×華『父よ、あなたは……』(幻冬舎) 中条省平

今回ご紹介するのは、沖田×華の『父よ、あなたは…』です。

 

沖田×華は、自分の実体験をもとにした『透明なゆりかご 産婦人科医院 看護師見習い日記』がヒットして人気マンガ家となりました。そして、この作品が講談社漫画賞を受賞し、さらにはNHKでテレビドラマになり高く評価されました。

いっぽう、自伝マンガである『蜃気楼家族』では、自分と自分の家族の常識はずれの生きざまを赤裸々に暴き、笑いのなかに、突き抜けた達観のようなものを感じさせました。

本作は、『蜃気楼家族』の後日談で、17年も絶縁状態だった父のことを描いています。

ある日、作者のもとに父から青汁のサンプルが届きます。どうも父は娘と連絡をとりたがっているようです。この瞬間から、すっかり忘れたつもりだった父のことを作者はぼんやりと考えるようになります。

そんなおり、父と離婚した母から作者に、お父さんのケータイの電源が切れたままだという電話が入り、作者は、実家で父と一緒に暮らす実の姉(つまり作者の伯母)に電話をかけます。すると、認知症の入った伯母は、父が「死んどるわ」と答えます。そうです、作者の父は死んでいたのです。

この衝撃的な始まりに続いて、作者は夫のマンガ家・桜壱バーゲンとともに、実家のある富山の魚津に向かいます。

作者は父の葬儀の準備をしつつ、17年も音信不通のままだった父との過去を蘇らせます。

子供のころは父からいわれてタバコを買いに行くのが嫌で嫌でたまらなかったが、父はもしかしたら、タバコを吸う自分に幼い娘が体をすり寄せてきたかつての時間を思いだして、大きくなった娘にタバコを買いに行かせていたのではないか、と考えたりします。

それは、父への赦しの始まりであり、同時に、父を見捨てて死なせた自分への赦しの始まりでもありました。

また、こんなこともふと思いだします。占い師にいわれて墓参に行ったとき、墓が荒れ放題でしたが、父が管理する墓を修繕するには父と連絡をとるほかなく、それが面倒で墓を放置し、ご先祖に言い訳として、「早く親父をそっちに連れてってください! そしたらすぐ新しい墓建てますから!」とお願いしたこと。もしかしてその願いが実現されたのかも、と考えた作者は、新たに墓を建てることを決心するのです。

はたから見ればギャグマンガのような展開なのですが、そこには作者の真剣な気持ちがこめられていて、読む私たちは奇妙な共感を抱くことになります。

遺産相続放棄をめぐるゴタゴタや、ストレスによるパニック発作をのりこえて、あれほど嫌った父への謝罪と感謝に至る作者の姿には純粋な感動を誘うものがあり、本当に家族とは不思議なものだと思わされます。特異な家族のありさまを描きながら、このマンガは家族の普遍的な問題に達しているのです。

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中条省平

1954年神奈川県生まれ。学習院大学フランス語圏文化学科教授。東大大学院博士課程修了。パリ大学文学博士。著書『中条省平は二度死ぬ!』『文章読本』など。翻訳書最新刊はロブ=グリエ『消しゴム』。

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