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マンガ停留所

2020.10.09 更新 ツイート

「しょうがないなあ」と微苦笑させる絶妙の匙加減 和山やま『女の園の星』『カラオケ行こ!』 中条省平

和山やまが好調です。

続けて2冊の新刊を出し、独自の笑いの世界を作りつづけています。今回は、その2冊をご紹介します。

和山やまの名前が日本中のマンガファンに知れわたったのは、季刊カルチャー雑誌「フリースタイル」が2019年のベストマンガを選出したときです。マンガ批評家たちの投票で、和山の処女短編集『夢中さ、君に。』が、なんとベストワンに選出されたのです。

 

しかも、その勢いを買って、『夢中さ、君に。』は手塚治虫文化賞でもその年の最も優れた短編集に与えられる「短編賞」を受賞しました。

しかし、和山やまのマンガの面白さを説明するのはかなり困難です。

ユーモアマンガとはいえるにしても、これまでのいわゆるギャグマンガのように明らかな大笑いを追求するのではなく、登場人物たちの言動の奇妙さにふと気づいて、「しょうがないなあ」とくすくす笑いを漏らすような、微妙に屈折した微苦笑が、和山やまのマンガの持ち味だからです。

新刊の『女の園の星』は連載マンガで、1巻目が出たところです。
 

『夢中さ、君に。』のときには、様々な登場人物の日常のひとコマを一瞬切りとって、読者を笑いに導くという短編にぴったりの作劇法が用いられていました。

しかし、長編の場合は、1回限りのそうしたスケッチだけを続けることはできません。

そこで作者が考えだしたのは、女子高という特殊な環境です。そこに、主人公として、普通にまじめ過ぎてちょっとおかしい若い男を先生として送りこみ、女子高生たちとのやり取りの、まっとうな論理性と、ちぐはぐな脱線ぶりを丁寧に追いかけています。

設定も面白く、しかし、ありがちなわざとらしいドラマを避けて、なんでこんな事件が起こったのかという謎解きの興味もうまくちりばめ、新境地を出すことに成功しています。

学級日誌のイラストしりとり、宙に浮かぶ犬、女子高生の描く変なマンガ、先生の観察日記など、ほんのちょっとファンタスティックな味わいの匙加減が絶妙です。

もう1冊は短めの長編『カラオケ行こ!』で、1冊本にうまくまとめています。
 

設定は、暴力団の組員たちがカラオケで歌を競い、いちばん下手だった奴が組長から手彫りの刺青をされるというもので、アイデアそのものはさほど非凡ではありません。

いや、一歩間違えば、わざとらしいギャグマンガとして失敗していたでしょう。

ところが、この設定のなかで、和山は、主人公に中学生の少年を選び、この内気な少年とクールなヤクザのほのかな友情の物語を主に語りついでいくのです。

笑いは『女の園の星』よりも抑制されていますが、中学生とヤクザのキャラの独自性に読ませるものがあり、この作者がギャグの一発屋ではないことを控えめに証明しているといえるでしょう。

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中条省平

1954年神奈川県生まれ。学習院大学フランス語圏文化学科教授。東大大学院博士課程修了。パリ大学文学博士。著書『中条省平は二度死ぬ!』『文章読本』など。翻訳書最新刊はロブ=グリエ『消しゴム』。

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