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2022.09.06 更新 ツイート

4人の男(平均年齢70歳)に絡む、美女の狙いは!? オノ・ナツメ『僕らが恋をしたのは』 中条省平

オノ・ナツメは、不思議なマンガ家です。

 

イタリアのレストランを舞台にして人情話を物語るかと思えば、アメリカで起こる犯罪ドラマをじつにクールに描いたりもします。

そうかと思えば、江戸でくり広げられる時代劇なども、お洒落に仕上げます。

そんな技が可能になるのは、日本のマンガらしさとは異なる、独自の無国籍的なタッチをもっているからです。

「無国籍的」という表現は、ユートピア的といい換えてもよさそうです。ユートピアとは、「存在しない場所」という意味だからです。

オノ・ナツメ独特の筆にかかると、イタリアもアメリカも江戸も、この世にない場所に変わってしまうのです。

このところ、オノ・ナツメが好んで作りだすユートピアは、男だけの楽園です。

2年前に完結した『ハヴ・ア・グレイト・サンデー』というマンガでは、初老の日本人小説家と、彼の息子(アメリカ人とのハーフ)と、彼の娘ムコであるアメリカ人という、なんとも多国籍な男3人が、日曜日ごとに食事をしたり、酒を飲んだりする様子を描いていました。

女嫌いというわけではまったくないのですが、女がいない男だけの世界には、否応なく世界を変質させる〈時間〉という要素が欠如しているのです。

ずっとこのままであってほしい、労働や生産や勉強や子育てという未来をめざす志向性とは無縁の世界、つまりユートピアです。

今回ご紹介する新作『僕らが恋をしたのは』(講談社)も、男4人だけの楽園の物語(のはずでした)。

男たちは平均年齢70歳で、労働はせず(定年後なので)、田舎の山奥で、ログハウスを作ったり、リンゴを栽培したり、料理に精を出して酒をおいしく飲んだりして、毎日を過ごしています。

その何気ない描写の連続を見るだけで、おお、こんな生活して余生をすごしたい、という気持ちがむくむくと湧いてきます。

しかし、ここに、ひとりの中年女性が現れて、男たちの作るログハウス(売り物です)に住むことになるのです。

この女性がなんとも不思議な、わけありの美女で、4人男のなかの、無口で、孤独好きの「教授」と呼ばれる男にどうも目をつけているような感じです。

一方、この女性は、人のよい世話役タイプの「大将」と、リンゴ栽培と料理の上手な「キザ」とも感じよく接したうえに、この二人の男のそれぞれに、まったく違った身の上話を聞かせ、「みんなには秘密ね」と口止めさせるのです。いったいこの女の狙いは?

現在まで2巻刊行されていますが、男だけのユートピアの極上の楽しさは保たれ、女性の狙いは何かというサスペンスも見事に維持されています。

ずっとこのままでいてほしいという気持ちと、早く謎を解いてほしいという切ない願望にひき裂かれてしまうのです。ああ、なんとかしてください!

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中条省平

1954年神奈川県生まれ。学習院大学フランス語圏文化学科教授。東大大学院博士課程修了。パリ大学文学博士。著書『中条省平は二度死ぬ!』『文章読本』など。翻訳書最新刊はロブ=グリエ『消しゴム』。

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