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2020.05.13 更新 ツイート

秀逸な手塚マンガの最新アンソロジー『手塚治虫の伝言(メッセージ)』(第2期、全5巻、童心社)中条省平

手塚治虫が亡くなってもう30年以上経ちますが、その評価は高まる一方です。

60歳で亡くなったのに、『手塚治虫漫画全集』はなんと全400巻! 

かつて立川談志は、「手塚先生はレオナルド・ダ・ヴィンチを比較に出すほかないくらいの天才なのだ」と評しましたが、私も本当にそのとおりだと思います。

 

しかし、それはもちろん量の問題ではなく、質の問題です。私は手塚マンガを全部読んだわけではないので、未知の作品に触れるたびに、まだこんなに面白いマンガがあったのかと感嘆するのです。

今回は、手塚マンガの最新のアンソロジーをご紹介します。すぐれたマンガ研究家・中野晴行の編集・解説による『手塚治虫の伝言(メッセージ)』第2期です。

全5巻のシリーズですが、1巻ごとに「戦争」「人間」「愛」「ホラー」「SF」というテーマ別の編集になっていて、各巻5話から7話の傑作や異色作を収録しています。

どの巻も読みごたえ十分のバラエティに富んだ内容で、甲乙つけがたいのですが、ここでは、手塚治虫が生涯こだわった戦争のテーマを扱っている『戦争というもの』の巻を見てみましょう。

手塚治虫は太平洋戦争末期、16歳のときに大阪大空襲に遭い、この世の地獄を経験しています。ですから、戦争とはどんな理由がつけられようとも、破壊と暴力と殺戮以外の何ものでもないことを骨の髄まで身に染みて知っていました。手塚マンガの底には、その戦争への恐怖と怒りがあるのです。

この巻に収録された作品では「紙の砦」が手塚の大空襲の経験を題材にして、手塚マンガの原点を恐ろしい生々しさで描きだしています。これはファン必読の作品です。

また、手塚は、原爆症の問題にも深い関心を抱いていました。それは、戦争が終わっても終わらない戦争の残酷な続きだからです。本巻では「やり残しの家」と「オクチンの奇怪な体験」が、原爆症を扱って、原爆症のもたらす死の恐怖をこえて生きる意志への熱い共感を打ちだしています。

戦争の後遺症という問題では、戦争で腕を失った太鼓叩きの戦後を描く「てんてけマーチ」が、ストレートな人間賛歌で、ひどく感動させられます。

また、「1985への出発」は手塚の大好きなSFのタイムスリップの設定を用いて、結末でドンデン返しを行い、戦争孤児たちの潔い決意に未来への希望を託しています。

これら5編はすべて少年マンガ誌に載りましたが、「カノン」だけは成人誌に発表され、リアリズムの筆致で、たまたま戦争を生き延びた中年男の悲哀をくっきりと浮かびあがらせます。とくにラストの処理が最高に巧い!

いずれも話の面白さと問題設定のシリアスさが見事なバランスをとっていて、ここに手塚のエンターテイナーとしての天才があると実感させられるのです。

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中条省平

1954年神奈川県生まれ。学習院大学フランス語圏文化学科教授。東大大学院博士課程修了。パリ大学文学博士。著書『中条省平は二度死ぬ!』『文章読本』など。翻訳書最新刊はロブ=グリエ『消しゴム』。

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