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しない生活

2021.01.03 公開 ツイート

「そうですねえ」のひと呼吸で、もっとコミュニケーションがうまくいく 小池龍之介

メールの返信が遅いだけで、「嫌われているのでは」と不安になる。友達がほめられただけで、「自分が低く評価されたのでは」と不愉快になる。つい私たちは、ちょっとしたことでモヤモヤ、イライラしがちです。小池龍之介さんの『しない生活』は、そんな乱れた心をスーッと静めてくれる一冊。本書が説く108のメッセージの中から、いくつかご紹介しましょう。

*   *   *

相手の意を受け止めきる

「相手の話を受け止めること」がなかなか難しいのをあらためて実感したのは、つい先日、北鎌倉駅を降りて浄智寺の方へ歩いていたときのことです。

(写真:iStock.com/Phawat Topaisan)

筆者を案内してくださっているかたがふと、「この辺りは駅のホームですら、すぐ木々のしっとりした甘い匂いがしますでしょう」とおっしゃいました。それに対して筆者は「そうですね。でもこの辺りまで歩いてくると、さらに空気が澄んでいますねえ」と返したのでした。

そこで一瞬、相手のかたが鼻白んだようになったのがわかりました。筆者が「そうですね」と言っていますので、一見するとキャッチボールが成り立っているようには見えます。けれども実は「ホームですら空気が良い」という話題そのものには応答していませんから、「話をちゃんと受け止めてくれなかった」というかすかな不全感を、相手に与えてしまったのだろうかと思われます。

──という話を例に取りつつ、「すぐに自分の考えを返す前に、『そうですねえ』としみじみ答えてワンテンポ置き、まずは相手の意を受け止めきることが大事」などと、その翌日、講演会で話したのです。

そしてあろうことかその直後、本にハンコを押す作業を手伝ってくださるかたに、筆者は「ありがとうございます。あ、でも押す場所はもう少し文字に重ねてくださいね」と申していました。「ありがとうございます」と「あ、でも」との間が短すぎて、「ありがとうございます」という受け止めよりも、否定のほうが相手に伝わってしまう

いやはや、どうぞ反面教師にされてくださいませ。

謝るときは言い訳をしない

「あなたはいつも人の話をちゃんと聞いてくれないから、腹が立つ!」たとえば、こんなふうに責めたてられたとき、私たちの心はすぐに防衛反応に硬直しがちです

(写真:iStock.com/Galina Sandalova)

さらに、次のように続いたら、いかがでしょう。

「あのときも私があんなに困っていたのに冷たい態度だった。本当に優しくないんだから……」

自分を守るため、「あなただって○○なくせに」と怒り返すなら、ただでさえケンカごしの相手と衝突するのは目に見えています。心を保つためには怒り返すのは論外としましても、とはいえ相手をなだめようとして謝ってみるのも、それはそれで意外に厄介です。

たとえば「ごめんね、確かにそうだと思う。これから気をつけるよ」と言えたとしても、しばしば「蛇足」を付け加えてしまいたくなるものですねえ。先の例ですと、「ただ実はね、あのときだけは違っていて、仕事があまりにも忙しくて余裕がなかったんだ」ですとか。

私の場合こういった蛇足をつけることで、相手の誤解をときたいと考えるものなのですが、これらはあいにく、ことごとく逆効果。「謝っているくせに部分的に反論してきている」と受け取られてしまい、相手はさらに怒ります。「その場合は違ったのかもしれないけれど、じゃあ○○のときは……」と、さらに追いつめられるだけです。トホホー。

ですから、怒っている相手が出す具体例や説明に間違いや誤解があっても、「それを訂正したいッ」という正しさへの欲望を、手放すことです。ここは謝って和解することを最優先する、といったん決めたなら、相手の発言にいくらかおかしなところがあったとしても、今は耐え、言葉少なに相手の顔を神妙に見て、じっくりうなずきましょう

関連書籍

小池龍之介『しない生活 煩悩を静める108のお稽古』

メールの返信が遅いだけで「嫌われているのでは」と不安になる。友達が誉められただけで「自分が低く評価されたのでは」と不愉快になる。人はこのように目の前の現実に勝手に「妄想」をつけくわえ、自分で自分を苦しめるもの。この妄想こそが、仏道の説く「煩悩」です。煩悩に苛まれるとき役に立つのは、立ち止まって自分の内面を丁寧に見つめること。辛さから逃れようとして何か「する」のでなく、ただ内省により心を静める「しない」生活を、ブッダの言葉をひもときながらお稽古しましょう。

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メールの返信が遅いだけで、「嫌われているのでは」と不安になる。友達がほめられただけで、「自分が低く評価されたのでは」と不愉快になる。つい私たちは、ちょっとしたことでモヤモヤ、イライラしがちです。小池龍之介さんの『しない生活』は、そんな乱れた心をスーッと静めてくれる一冊。本書が説く108のメッセージの中から、いくつかご紹介しましょう。

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小池龍之介

1978年生まれ。山口県出身。東京大学教養学部卒業。 元僧侶。ウェブサイト「家出空間」主宰。​2019年に還俗し、現在は「月読お稽古場」道場主  。 著書に『しない生活』(幻冬舎新書)、『沈黙入門』『もう、怒らない』(ともに幻冬舎文庫)、『考えない練習』『苦しまない練習』(ともに小学館文庫)、『超訳 ブッダの言葉』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『平常心のレッスン』(朝日新書)、『“ありのまま" の自分に気づく』(角川SSC新書)などがある。

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