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感情バカ

2020.08.29 公開 ツイート

暴走老人、クレーマーの脳内で起きている怒りの「保続」という現象 和田秀樹

「感情の動物」と呼ばれる私たち。喜びや楽しみがあるからこそ、人生は豊かになります。ところが怒りや不安などのネガティブな感情、あるいは自分でも気づかない服従、同調、損失回避といった感情のせいで、どんなに知的な人でもバカな判断をすることがあります。そんな「感情バカ」のメカニズムを解き明かし、バカにならないためのコツを教えてくれるのが、精神科医の和田秀樹さんが贈る『感情バカ』です。その中から、とくに私たちが陥りやすい感情をご紹介しましょう。

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老いると感情のコントロールが利かなくなる

昔から日本では、「年を取ると好々爺になる」「年を取れば取るほど老成して感情を出さなくなる」などと言われてきました。それが、“老いてはますます壮んなるべし”を通り越して、キレる老人、暴走老人が目立つようになったのは、どうしてでしょうか。私なりの仮説をお話ししたいと思います。

(写真:iStock.com/kuppa_rock)

現代の脳科学では、人間の感情は大脳辺縁系が司っているとされています。年を取れば取るほど、脳の機能は衰えるのが普通ですから、大脳辺縁系から出る感情のエネルギーも、加齢とともに下がっていくパターンが多いと考えられます。

つまり、若いときは怒りっぽくても、年を取ったら怒りの感情があまり強く出ないとか、テンションが上がらないとかいうのが通常のパターンです。

ところがここで問題なのは、感情が行動化して暴走しないようにブレーキをかけてくれる大脳皮質の機能も、年を取れば取るほど衰えてくるという点です。

大脳皮質は、前頭葉、頭頂葉、側頭葉、後頭葉に分けられます。感情のコントロールを司るとされているのは、その中の前頭葉と言われる部位です。前頭葉の機能が落ちてくると、二つの点で厄介なことが起こります。

一つは、先ほどお話ししたように、感情のコントロールが利かなくなるということです。たとえばカッとなったときに、本来であれば、それを静めるだとか、ほかの可能性を考える方向に持っていくだとかして、感情を落ち着かせることができるはずなのに、年を取ることで、その能力が衰えてしまいます。

怒りの感情が延々と長続きしてしまう

もう一つの問題は、前頭葉の機能が落ちると、“保続”と言われる現象が起こるということです。

認知症の検査などで、患者さんに「今日は何年の何月何日ですか?」と尋ねることがあります。それに対して、「今日は2017年の8月1日です」などと正確に答えられれば、記憶がかなり保たれているので、おそらく認知症ではないと見ることができます。また、認知症だったとしても、極めて軽い状態と言うことができるわけです。

ところが、“保続”が起こっている人の場合、「では次の質問ですが、あなたの誕生日はいつですか?」と聞くと、「2017年8月1日です」というように、先ほどと全く同じ答えを言うのです。

(写真:iStock.com/wildpixel)

もっとも、保続は、認知症でもよほど重症にならないと起こらない現象なので、実際には、生年月日を問われて見つかるというケースはほとんどありません。

認知症以外では、前頭葉に腫瘍があったり、あるいは脳出血があったりすると、このように前の答えと同じ答えをするということが起こります。たとえば「217+348=?」という計算問題を出して、それに暗算で答えられれば、脳の働きはなかなか優秀だなと思われるわけですが、次に「528+197=?」という問題を出したときに、“保続”のある人は、前と同じ答えを言ってしまうわけです。

年を取ると、前頭葉が萎縮してきます。そうすると、脳腫瘍や脳出血がなくても、弱いレベルの保続が、感情や思考に起こるのではないかと、考えられています。

 

どういうことかというと、たとえば怒りの感情が生じたら、それが保続する、つまり、延々と長続きしてしまうわけです。

ですから、一度カッとなってしまうと、相手を怒鳴りつけたり、ぼろくそに非難したり、威嚇するように机を叩いたり、あるいは傘を振り上げたりと、それがなかなか収まらないということになります。

おそらく暴走老人と言われる人たちは、もともと感情のテンションが高く、年を取っても、それが意外に落ちていない人たちではないかと考えることができます。

そういう意味では、感情が若々しいと言えるのかもしれませんが、暴言や暴行という形で表に出やすく、しかもそれがコントロールできず、保続によって長く続いてしまうのだとすれば、手放しで喜ぶわけにはいかないでしょう。

 

この点は、クレーマーと言われる人たちにも共通するように思います。クレーマーも、感情が自己増殖し、エスカレートして、誰も止めることができなくなってしまいがちです。年を取っているかどうかは別にして、彼らも、前頭葉の機能があまり高くないために、感情のコントロールができず、延々とクレームを言い続けてしまうのではないかと思います。

昔から、「年寄りは立てたほうがいいよ」と言われます。これは単に道徳として、「老人を敬いなさい」と説いているというより、年を取ると前頭葉の働きが落ち、いったん不機嫌になると止まりにくいことから、そういう扱いの難しい老人の対処法を説いたものなのかもしれません。

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この続きは幻冬舎新書『感情バカ』でお楽しみください。

関連書籍

和田秀樹『感情バカ 人に愚かな判断をさせる意識・無意識のメカニズム』

喜びや楽しみの感情があるから人生は豊かになり、怒りや哀しみも生きるバネになる。だが、感情が過剰になり理性とのバランスを失うと、どんなに知的な人でも、信じられないほど愚かな判断をする「感情バカ」になる。しかも怒り・不安のような意識できる感情だけが問題なのではない。自分では気づかず無意識のうちに感情的になることで、「服従」「同調」「損失回避」など心のクセが働き、判断はゆがんでしまうのだ。「感情バカ」のメカニズムを解き明かし、感情のせいで苦しむ・損する人生を抜け出す方法をアドバイス。

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感情バカ

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和田秀樹

一九六〇年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。高齢者専門の精神科医として、三十年以上にわたって高齢者医療の現場に携わっている。『80歳の壁』『70歳の正解』『マスクを外す日のために』『バカとは何か』『感情バカ』(すべて幻冬舎新書)など著書多数。

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