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感情バカ

2024.05.18 公開 ツイート

人が選ぶのは「得する」より「損しない」 損失回避性という不思議な心理 和田秀樹

「感情の動物」と呼ばれる私たち。喜びや楽しみがあるからこそ、人生は豊かになります。ところが怒りや不安といったネガティブな感情や、自分でも気づかない服従、同調、損失回避といった感情のせいで、どんなに知的な人でも「バカな判断」をすることがあります。そんな「感情バカ」のメカニズムを解き明かし、バカにならないコツを教えてくれるのが、精神科医・和田秀樹さんの『感情バカ』です。その中でも、私たちがとくに陥りやすい感情をご紹介しましょう。

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お金持ちがケチと言われる理由

カーネマンの研究では、人間は富の「絶対量」ではなく、「変化」に影響されると言われています。

もし、お金をたくさん持っているほうがそうでない場合よりも幸福であるとしたら、100億円持っている人と1,000円しか持っていない人とでは、100億円持っている人のほうが幸せなはずです。

しかし、100億円持っている人がたまたまビジネスで5,000万円損をし、1,000円しか持っていない人がたまたまクジ引きか何かで1,000円を手にしたとしたらどうでしょう。前者はまだ99億5,000万円も持っているのに不幸な気持ちになり、後者は2,000円しか持っていないのにうれしくて幸福な気持ちになるというのです。

つまり、人間は、富の絶対量より変化に対応するため、十分金持ちであっても、より金持ちになりたいと願い、お金が減るという変化にも敏感に反応して、なかなかお金を出そうとしないということです。だから金持ちはケチだと言われるわけです。

(写真:iStock.com/takasuu)

このカーネマンの研究の中で、「これは人間の心理の本当のところを突いているな」と私が思うのは、「損失回避性」──人間は、得をすることより損をすることのほうを恐れて、それを避けようとするという理論です。

たとえば、次のようなクイズがあるとしましょう。

A:ある店で、10万円の商品を1万円値引きしてもらいました。

B:ある店で10万円の商品を買って店を出ると、別の店で同じものが9万円で売っていました。

AとBの2つのケースで、あなたはどちらのほうがより心が動かされるでしょうか?

心理的インパクトが大きいのはどっち?

Aのケースのように、1万円値引きしてもらった場合、「得した!」と思って、うれしい気持ちになる人はたくさんいるでしょう。

しかし、その喜びはあまり長くは続かないはずです。たとえば数週間経ってそのことを思い出しても、最初と同じくらいの喜びが湧いてくるという人は少ないでしょう。

一方、Bのケースのように、10万円で買った商品が別の店で9万円で売られているのを見たら、かなりショックを受けます

商品を購入した店に対して腹が立ったり、「なんで他の店も調べなかったんだろう?」などと自分を責めたりと、不快な気持ちになるでしょう。

そして、「1万円損した」という気持ちは、長く引きずる可能性があります。1年経っても、そのことを思い出すと苦々しい気持ちになるという人もいるはずです。

(写真:iStock.com/peshkov)

このように、一般的に、「得をした」ときよりも「損をした」ときのほうが、心理的インパクトが大きくなるのです。

ですから一般的に、給料を1万円上げてもらった喜びよりも、1万円下げられたときの心理的ダメージのほうが、インパクトは大きいものです。

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この続きは幻冬舎新書『感情バカ』でお楽しみください。

関連書籍

和田秀樹『感情バカ 人に愚かな判断をさせる意識・無意識のメカニズム』

喜びや楽しみの感情があるから人生は豊かになり、怒りや哀しみも生きるバネになる。だが、感情が過剰になり理性とのバランスを失うと、どんなに知的な人でも、信じられないほど愚かな判断をする「感情バカ」になる。しかも怒り・不安のような意識できる感情だけが問題なのではない。自分では気づかず無意識のうちに感情的になることで、「服従」「同調」「損失回避」など心のクセが働き、判断はゆがんでしまうのだ。「感情バカ」のメカニズムを解き明かし、感情のせいで苦しむ・損する人生を抜け出す方法をアドバイス。

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「感情の動物」と呼ばれる私たち。喜びや楽しみがあるからこそ、人生は豊かになります。ところが怒りや不安といったネガティブな感情や、自分でも気づかない服従、同調、損失回避といった感情のせいで、どんなに知的な人でも「バカな判断」をすることがあります。そんな「感情バカ」のメカニズムを解き明かし、バカにならないコツを教えてくれるのが、精神科医・和田秀樹さんの『感情バカ』です。その中でも、私たちがとくに陥りやすい感情をご紹介しましょう。

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和田秀樹

一九六〇年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。高齢者専門の精神科医として、三十年以上にわたって高齢者医療の現場に携わっている。『80歳の壁』『70歳の正解』『マスクを外す日のために』『バカとは何か』『感情バカ』(すべて幻冬舎新書)など著書多数。

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