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大人バレエの世界

2020.06.24 更新 ツイート

#51

妹がやってきた丸山裕子

ある日の夜遅く、妹から来たLINEには「明日、お母さんの顔を見にそっち行くわ」と書かれていました。「え? 明日?」訊くと「うん」と返ってきます。すでに22時をまわった頃。

「あと2時間で明日やけど」
「うん。明日行って、お母さんとこで一泊する」
「喜ばはるやろうけど、急やね。もう言うたん?」
「ゆーてない」
「先、言わな」
「うん」

 

それから長々とやりとりをして、1月に腰を傷めてまだ完治してない母には掃除や準備は大変なんじゃないかとか、自粛以降会ってないから私も会いたいなとか、私たちふたりも長く会ってないので会いたいよねという話になり、3人で京都市内のホテルに泊まることにしました。

しかし、急かつスピーディな妹の決断。いつもは「京都にいこうかな」と言い出してから実際に来ると決めるまで、ものすごーく時間のかかる人なのです。なのに、今回は即決即行動。絶対何かウラがあると思ったら、やっぱりありました。フウフゲンカ。

自粛生活で職場や学校のストレスから解放された人がたくさんいた一方で、ストレスを溜めた主婦の方も多かったと聞きます。専用の相談窓口もできたとか。私の世代は専業主婦の人も多く、通勤通学がなくなった夫や子どもらしき人たちがネット上に頻繁に登場するようになったかたわら、彼女たちからの連絡はパタリと途絶えました。

彼女たちが「すっごく大変!」と口を揃えて言ったのは、夫や子どものテレワークによる日に三度の食事作り。京都在住の友人とアメリカ在住の友人とグループ通話中、「三度の食事作りが大変って聞くけど?」と訊ねたときのアメリカ在住の友人の返事が、その大変さを強く端的に表していました。

「もう、吐きそう」

3月までの1年間は大学受験を控えた子のサポートに徹していた妹。子が志望校に合格し、ヒャッホー! 解放! 自由! となったところでの自粛生活の始まり。三度三度の食事作りに辟易して、早々に「朝ごはんは各自な!」と宣言をしたものの、子は前期は全てオンライン授業、夫も6月以降もテレワーク継続が決定し、いよいよガマンが限界を超えたようです。

アトリエは街中にあるので、仕事を終えてから徒歩でホテルに向かうと、お腹を空かせた母と妹が口をパクパクさせて待っていました。

もう出かけたくないという母に合わせて、また、リスクを減らすという意味もあって、ホテルの部屋で、Uber Eatsを利用して豪遊することにしました。自粛中に散財して収集したデータが役立つときです。驚くほど美味しかった焼き鳥屋さんでお弁当と山盛りの焼き鳥を注文し、コンビニで買ったビールで乾杯し、3人で夜遅くまでおしゃべりしました。

ホテル備付けのパジャマセットが「焼き鳥屋の店員さん風」で、まるでこの展開を読んでいたかのようでした。

受験サポートと自粛期間のストレスでものすごく太ったという妹。
「見て見て、私のおなか!」
「寝ても出てるねん。ほら! こんなん初めて!」
と、ベッドに仰向けになってお腹を指差しています。
相変わらずおもしろいヤツ。
私とはちがって、人見知りももの怖じもしないヒト。

妹との会話は特別で、他の人にはわからない私たちだけが共有している前提がたくさんあって、短い言葉でなんでも通じ合って、大笑いします。久しぶりに涙を流して笑いました。

そんな彼女はバレエを習いたいと言います。
もちろん、お腹を引っ込めるため。

「いいやん! 習いー」

「でも、近所のバレエ教室見に行ったら、細い人しかいはらへんかった」
「ゆーちゃんとこはどう?」(妹は私をこう呼ぶ)

「大人やもん、いろんな人いはるで。でも、誰も何も気にしてない」
「みんな好きなレオタード着て楽しんではる」

「お腹出てても?」
「お腹出てても!」

さて、父のことが気になった人がいるかもしれません。お昼に京都に着いた妹は両親とともにランチをし、その後、父は家に戻ってお留守番でした。それはそれで羽根を伸ばしていたことでしょう。

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大人バレエの世界

いくつになっても憧れる華やかなバレエの世界。アラフォーからバレエを始めた著者による、楽しく、たくましく、哀しくもおかしい“大人バレリーナ”の日常。

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丸山裕子 イラストレーター

京都市出身。踊るイラストレーター。健康のために始めたバレエにはまり、寝る間を惜しんでレッスンに通う。『バレエ語辞典』の全イラストを担当。書籍や雑誌、広告にイラストを描いている。女性、育児、健康、犬と花に関するものが多い。イラストエッセイは『しあわせな犬生活を』(ドッグワールド)、『極楽いぬ生活』(ペピイ)。布花作家でもあり、『まんまるさん®︎』という古布を使ったオリジナルのアクセサリーを作っている。
Instagram  @yuko.illustrations

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