言葉が刺さる、というのは、こういうことか、と思った。
数年前、京都で、女優・白石加代子の「百物語」の公演を観たときだ。
その日、朗読されたのは、林芙美子の「晩菊」だった。
林芙美子は、代表作である「放浪記」「浮雲」など、何冊かは読んでいたけれど、「晩菊」は未読だった。
物語は、人気芸者だった「きん」という名の、五十六歳の女が、親子ほど年齢の違う昔の男が久しぶりに訪ねてくるという連絡があり、身づくろいする場面からはじまる。
「別れたあの時よりも若やいでいなければならない。けっして自分の老いを感じさせては敗北だ」と、きんは、顔をマッサージし、冷酒をあおる。薄っすらと酔うと、目もとが紅く染まり、大きい眼がうるみ、顔に艶が出る。自分を美しく見せるために酒を飲むのだ。
「五十六歳と云う女の年齢が胸の中で牙をむいているけれども、きんは女の年なんか、長年の修業でどうにでもごまかしてみせる」と、クリームを塗る。
少女の頃から美しさを称賛され、男を渡り歩いてきた女は、自分が女であることを忘れたくない、「まだ、男は出来る。それだけが人生の力頼みのような気がした」と、昔の男が自分に会いにくることで、老いを慰めている。
まだ「男は出来る」と思うということ
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