1. Home
  2. 読書
  3. マンガ停留所
  4. 魅せられる、谷口ジローの誠実な人間性 『...

マンガ停留所

2019.10.22 更新 ツイート

魅せられる、谷口ジローの誠実な人間性 『描くひと』中条省平

谷口ジローが2017年に69歳で亡くなって、早くも2年半。もちろん、マンガの新作はもう望めませんが、待望の谷口ジローの著作が出ました。『描くひと』です。

本書の根幹になっているのは、フランスで2012年に出た谷口の超ロング・インタビューです。このフランス語の本のタイトルが、まさに L’Homme qui dessine、「描くひと」だったのです。

聞き手は、ベルギーのマンガ家フランソワ・スクイテンと組んで『闇の国々』という大傑作マンガを生みだした原作者のブノワ・ペータース。ペータースは文学やマンガの批評家としても著名で、谷口ジローの熱烈なファンであることから、このインタビューの聞き手になり、素晴らしい成果を生みました。

 

このインタビューの日本語訳が(といっても谷口ジローの発言はもともと日本語だったわけですが)、今回の『描くひと』に収録されています。谷口ジローが、これほど率直かつ徹底的に、自分の子供時代などの人生、マンガ家としてのキャリア、マンガ制作の実情、人間や世界にたいする考え方を語ったのは初めてのことで、まことに読みごたえがあります。これだけでも、『描くひと』は絶対に買う価値のある本です。

しかも、そこから響く谷口の肉声と、その語り口が示唆する人間性が、じつに魅力的で、すぐそばでこのマンガ家の話に耳を傾けているような気持ちになってくるのです。

じっくりと相手の言葉に耳を傾け、正直に丁寧に、しかし、押しつけがましいところは一切なく、自分でもきちんと考えながら話す彼の人柄に魅せられてしまいます。

その穏やかで自然な、寛容で飾らない語り口は、あの谷口ジローの白みの多い、淡く繊細なタッチに通じるものがあります。ただのインタビューの再録なのに、これほど語り手の人間性をじかに感じさせる本はめったにありません。ともかく心地よい言葉の流れになっているのです。

しかし、それだけではありません。日本版『描くひと』には、谷口ジローをよく知る友人、知人、関係者の回想、エッセー、談話などが豊富に収録されていて、これがまた読みごたえ十分なのです。それぞれに谷口への思いをしっかりと伝えるもので、単なるエピソード集のような薄っぺらいものではありません。

そして、何よりもうれしいのは、オールカラーでたっぷりと収録された谷口ジローのマンガです。マンガ本からの収録ではなく、きわめて上質の印刷技術によって、原画の細かな風合いが生々しく伝わってくる絵に仕上がっています。つまり、この1冊には、画集としての特別な価値も備わっています。

「私をかき立てるものは、成功したいという欲求ではなく、大切な漫画を語りたい、描きたいという『望み』なのです」

インタビューを締めくくるこの谷口ジローの言葉を最大限の誠実さで実証する本、それが本書『描くひと』です。

関連キーワード

関連書籍

{ この記事をシェアする }

マンガ停留所

バックナンバー

中条省平

1954年神奈川県生まれ。学習院大学フランス語圏文化学科教授。東大大学院博士課程修了。パリ大学文学博士。著書『中条省平は二度死ぬ!』『文章読本』など。翻訳書最新刊はロブ=グリエ『消しゴム』。

この記事を読んだ人へのおすすめ

幻冬舎plusでできること

  • 日々更新する多彩な連載が読める!

    日々更新する
    多彩な連載が読める!

  • 専用アプリなしで電子書籍が読める!

    専用アプリなしで
    電子書籍が読める!

  • おトクなポイントが貯まる・使える!

    おトクなポイントが
    貯まる・使える!

  • 会員限定イベントに参加できる!

    会員限定イベントに
    参加できる!

  • プレゼント抽選に応募できる!

    プレゼント抽選に
    応募できる!

無料!
会員登録はこちらから
無料会員特典について詳しくはこちら
PAGETOP