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2019.11.14 更新 ツイート

こんな続編もある!30数年後、人生への不満と信頼 近藤ようこ『見晴らしガ丘にて・それから』中条省平

今月は、近藤ようこの新作の紹介です。古い近藤ファンにはたまらない贈り物です。『見晴らしガ丘にて』(1985年)の続篇、『見晴らしガ丘にて・それから』(ホーム社)が刊行されたのです。

『見晴らしガ丘にて』は、東京近郊の私鉄沿線の新興住宅地と団地を舞台にした連作です。全14話で、同じ登場人物が別の短編に出ることもありますが、基本的には異なった人物たちが主人公になる群像ドラマです。

今回の『見晴らしガ丘にて・それから』は、前作から30数年経った現在の見晴らしガ丘を舞台とした群像ドラマの続きです。その何編かでは、1985年版の短編に登場した人物たちの、30数年後の現在が描かれています。

 

例えば、1985年版の「GAL’S LIFE」というのは、こんな内容です。

ヒロインの真樹は、大学受験を控えた女子高校生で、母は父の転勤先の北海道に付いていったので、団地に一人暮らしです。同じ団地に、真樹の同級生で幼友だちの美代子がいますが、こちらは高校中退でウェイトレスをして遊び暮らしています。ある夜、両親が旅行で留守の美代子に誘われた真樹は、部屋で一緒に酒を飲み、濃い化粧や派手な服を試させてもらい、束の間の解放感を味わいます。酔った美代子が寝てしまったあと、真樹がふと机にあったノートを開いてみると、そこには子供を中絶した美代子の赤ちゃんへのお詫びの言葉が記されていました……。

生活のひとコマのなにげないスケッチから、人間の隠れた深淵とはかない哀しみが浮かびあがってくる、というのが『見晴らしガ丘にて』の基調なのです。その意味では、近藤ようこは20代から老成した作家でした。

その30数年後、『見晴らしガ丘にて・それから』の「古巣」はこんな話になります。

真樹は結婚し、すでに父も母も亡くなり、実家の団地がとり壊しになるので、見晴らしガ丘へ後片付けに通っています。その路上でばったり34年ぶりに美代子に再会します。美代子は二度離婚し、今度は、団地の上の階に住んでいたかつての同級生の新一と結婚するというのです。新一はむかし真樹に愛を告白した少年でした。真樹はこう思います。

「変な気持ち…この三十年 わたし なにをしてたんだろう…新一さんと結婚していたら――子どももいたかもしれない あったかもしれない 別の人生 別の未来――そんな幻が この団地といっしょに 古びて風化して なくなっていく――」

それはとり返しのつかない人生への後悔や憐憫というより、人生そのものの哀れさを受けいれる心持ちなのです。思えば、30数年前の諸短編も、このかなしさと空しさを受けいれる姿勢で描かれていました。

団地でひとり涙を流す真樹のもとに、冷たいと思っていた夫が迎えにやって来て、久々にどっかで飯を食おうといいます。真樹は、うちがいい、うちに帰りたい、と答えます。それは、いまの不満だらけの人生への……信頼なのです。

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中条省平

1954年神奈川県生まれ。学習院大学フランス語圏文化学科教授。東大大学院博士課程修了。パリ大学文学博士。著書『中条省平は二度死ぬ!』『文章読本』など。翻訳書最新刊はロブ=グリエ『消しゴム』。

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