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  4. これが「神様のお葬式」。

良く読むと、やたら奇天烈な「古事記」を、落語家・桂竹千代さんが、爆笑に次ぐ爆笑で解説している人気連載!
今回は、神様の葬儀の様子をお届けします。
神様もお葬式をするんですね!

*   *   *

(写真:iStock.com/Tverdohlib)

第17話「神様版粗忽長屋」

アマテラスは、地上に遣わしたワカヒコが8年経っても帰ってこないので、イライラしてます(もはやイラテラス)。

オモイカネ「ではアマテラスさん、今度はキジを遣わせて、ワカヒコが何故戻らないのか確かめて来てもらいましょう!」
アマテラス「キジ? 何でキジ? 大丈夫? きびだんごもらったらそっちになびいちゃいそうじゃない? ま、いいか。じゃあキジに『ワカヒコ早く帰って来いバーカ』って伝言しといて」

 

今度はキジが、地上へとやって参ります。
そして、ワカヒコ宅の門にある木にとまります。
アマテラスに言われた通りのことづてを、鳴きながら伝えます。
キジ語で。

キジ「ケーンケーン! ケケーン! ケッケケーン!」
ワカヒコ「るせー鳥だなー!」

伝わらず! (そらそうだ! キジだもの!)

ワカヒコ「あーうっせ! ぶっ殺そ! (この方は神です)」

ワカヒコは、高天原から持ってきた弓矢でキジを射殺します。
その矢はキジの胸を貫通して、高天原のアマテラスのところまで飛んで来いきます。

飛んで飛んで飛んで飛んで飛んで♪(円広志、いや室伏もビックリな飛距離!)。

アマテラス「何この矢? ……血が付いてる……こっこれは! ワカヒコにあげた矢!」
オモイカネ「なんでワカヒコのってわかるんです?」
アマテラス「ここに『わかひこ』って書いてあるのよ」
オモイカネ「幼稚園児みたいですね」
タカミムスビ「よし、この矢に呪いをかけて返そう」
アマテラス「……あら、あんた急に出てきたわね。久しぶり過ぎるから自己紹介して」
タカミムスビ「どうも、一番冒頭に出てきたタカミムスビです(第2話参照)。ずーっと休んでたのにいきなり出しゃばってすみません。さっそくですが、ワカヒコの心を確かめるんで、矢に呪いかけますね」

いきなり出てきたタカミムスビは、この矢に呪いをかけます。
そして、「もし、ワカヒコが悪い神を射抜いた矢ならば、ワカヒコに当たるな。ワカヒコに邪心があるならワカヒコに当たれ」
と言って、地上に矢を投げ返すと、寝ているワカヒコに当たって、ワカヒコ死す! (コントロール良すぎ!)
てかそんなんできるなら、始めからやって~!
キジの立場がねえって! ましてやまともに日本語喋れないのにー!
結局、殺されたキジは帰って来ませんでした。
行ったきり帰って来ない使者たち。というわけで、これがことわざ「雉のひた使い」の語源です……と『古事記』に書いてあるのですが、「『雉のひた使い』なんてことわざ聞いたことねーよ!」という方もいるかもしれません。
ご安心ください。ボクもそうです。

ワカヒコの奥さん(オオクニヌシの子供)は嘆きます。めっちゃ泣きます。すると、この泣き声が高天原まで届きます(ボリュームMAXすげぇな)。
これによってワカヒコが死んじゃったということが、ワカヒコの親戚一同に伝わります。
そして地上に降りて来て、葬式をします。神様の時代にも葬儀があったんですね。第3話でも少し触れましたが、「古代人の死生観」はボクの修士論文のテーマです。「殯(もがり)」という葬送儀礼をここでするわけですね(第3話参照)。8日に渡って儀式が行われます。

ワカヒコ親戚一同「ワカヒコー!! まだ若いのになぜだー! わーん! (命令忘れて遊んでたからだけどね! )」

親類一同が泣いていると、ワカヒコの親友が弔問に訪れます。
この親友とは、オオクニヌシが国作りの時に生んだ子供のアジスキ(第14話参照)です。
アジスキ(ボクはイワシスキ)は、死んだワカヒコにそっくりな顔をしていたそうです。
親戚一同はアジスキを見て、

親戚一同「……お前はワカヒコ? ……間違いない! ワカヒコだ! すごい! ワカヒコが生き返ったぞーい!!」

いや、揃いも揃って、目ぇ節穴ばっかりかい!
お父さんから奥さんまで誰一人気付かずに、皆でアジスキの手足に泣きながらまとわりつきます。

アジスキ「ちょっと待て! おれがワカヒコだとしたら、ここに倒れているワカヒコは一体誰だろう?」

これが古典落語「粗忽長屋」の原型と言われます(ウソつけ! )。

アジスキ「ええい! 離せお前ら! 親友だからわざわざクソ忙しいところに弔いに来てやったのに、こんな穢れた死人と間違えるとはどーゆーことだ! (いや、お前も親友相手に言うことかそれ! )」

アジスキはブチ切れて、持っていた剣を振り回して、ワカヒコの葬儀会場をぶち壊して帰ってしまいます(ホントに親友なの? )。
一方、高天原。

アマテラス「おーもーいーかーねー! どうなってんのよ! やっぱダメだったじゃない!」
オモイカネ「わかりました。では別の神を……」
アマテラス「ワンパターンしかないのかよ! もう次で最後よ! 次のヤツでダメならアンタ、クビー!!」

アマテラスは、ますますイラテラスとなります。
次の神様派遣で、ようやく決着します。
『古事記』上巻・中盤におけるハイライト「国譲り」神話の始まりです。

関連書籍

桂竹千代『落語DE古事記』

日本の神様は、奔放で愉快でミステリアス! 海をかき混ぜて日本を作ったかと思えば、一目惚れしたり、嘘ついたり、嫉妬に燃えたり。女の取り合いで大蛇と喧嘩する神様も、娘の恋人をイタズラでいじめ抜く神様もいる。さらに神同士の殺し合いも度々勃発。壮大すぎて難解と言われる日本最古の歴史書を、落語家が爆笑解説でスラスラ読ませる。

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落語DE古事記

神社に行けば、私たちは神様にありとあらゆることをお願いしますよね。商売繁盛に合格祈願に延命長寿に縁結びに厄除けに……。
でもちょっと待って。こんなに頼りにしてる「神様」のこと、ちゃんと知ってますか?
神様について書いてあるのが「古事記」です。歴史の教科書でも最初の方に出てくるので、「古事記」について聞いたことのない人はいないと思いますが、でも何が書かれているかまで説明できる人って、少ないんじゃないでしょうか。
そこで、大学院まで古代史を専攻していた落語家の桂竹千代さんに、「古事記」を楽しく解説していただくことにしました。
爆笑注意ですから、静かな場所では読まないようにしてくださいね! 

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桂竹千代 落語家

 

落語家。千葉県旭市出身。1987年3月17日生まれ。2005年千葉県立匝瑳高校卒業。2009年明治大学文学部史学地理学科考古学専攻卒業。2011年明治大学大学院文学研究科古代日本文学専攻修士課程修了。元ニュースタッフエージェンシー所属漫才師、ゴーギャン職人。2011年7月、桂竹丸に入門、前座「竹のこ」。2015年9月、二ツ目昇進、「竹千代」。2019年3月、第18回さがみはら若手落語家選手権優勝。
新宿末広亭や浅草演芸ホールなどの寄席を中心に、全国各地で落語会に出演。その他、イベント・結婚式司会、温泉ツアーガイド、古代史講座、大学講師、社会教育講演など幅広く活躍。旭市観光大使も務める。
エンタの神様(日本テレビ)、爆笑オンエアバトル(NHK)、メレンゲの気持ち(日本テレビ)、グリコポッキーCM、どうする東京(MXTV)、50ボイス(NHK)、BS笑点特大号(BS日本テレビ)、ミッドナイト寄席ゴールデン(BS12)、夕やけミッドナイト寄席(BS12)SHARP・アクオス落語(全国の家電量販店にて放映)、日曜バラエティー・レギュラー出演(NHKラジオ第一)2018年4月~2019年3月、桂竹千代のJAGARAKU(FM帯広)2018年4月~2019年3月、OH! HAPPY MORNING「Today’s Focus」(JFN)※古代史専門家としてニュースコメント、春風亭昇太のピローな噺(dtvチャンネル)、竹千代の風土記(CS寄席チャンネル)などに出演。

 

 

 

 

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