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2019.06.23 公開 ツイート

もし、誰にもバレることなく今すぐにセックスがしたいと思ったら? LiLy

女性から絶大な人気を誇るLiLyさんがはじめて書いた官能小説「SEX」。

マッチングアプリでのワンナイト、泥沼化するオフィスラブ、セックスレスからの不倫、女の子との官能的な同棲生活、SMーー。

女の心情と現代をリアルに切り取った衝撃作が誕生しました。

発売を記念し、特別に全4回の試し読みを行います。

 

*   *   *

 

Lesson01 女の武器を自分の中に探せ。ーーもし、シビアなゲームに参戦するなら。

 

 もし、誰にもバレることなく今すぐにセックスがしたいと思ったら。女はこういう時、一体どうすれば……?

 男だったら風俗に行くのだろうと想像する。人知れず路地裏にある店にサラリとイン? または電話をかけて自宅で待機? とにもかくにも数時間後には、金を払って抑えきれぬ欲望をスッキリと解消できるのだろうと予想する。それどころか、店と顧客のあいだで交わされる同意書か何かで、プライバシーまで守ってもらえるの……?

 そこまで考えると、あまりの羨ましさにキレそうになった。大学受験でも入社試験でも感じたことのなかったレベルの男女不平等を感じて、ううん、そんな怒り以上に身体の奥があまりのヤリたさにウズウズしていて、私は家族が寝静まった後の真っ暗なリビング───真っ黒なカッシーナのソファの上で悶絶している。

 唯一の光を放っているのは、手の中のスマホ。いつものようにこれでエッチなサイトを見ながら一人でしたんじゃ、満たされない。誰にもバレることなく今すぐにセックスがしたい。

 あぁ、あまりにも強く願いすぎて、血迷ってツイッターに書き込んでしまいそう。

 相手が誰でも良いわけでは決してないけれど、ルックスが良くて口がかたければ……誰でも。そう、口がとてもかたくて顔と身体が素晴らしければ、もう誰でも……。

 

 

 ─────もうダメ、私、相手を探す。

 

 前々から、その選択肢は頭の中にあるにはあった。リスクはもちろんあるが、ツイッターで募集をかけるよりは遥かにマシ。本来なら比較にもならない二択の中から、私はティンダーを選んでいた。

 性欲が理性を飛ばすという話は本当なのだと痛感しながら、近くにいる相手とすぐにヤれることに定評のある出会い系アプリをダウンロード。

 そう、わけの分からないアクションを起こしている時でも頭の片隅は常に冷静。他人にここまで嫌われることは、後にも先にももうないだろうと思うほど強烈に、憎み倒されたあの事件を起こした時もそうだった。

 指がね、ついってやつ。

 だけど、そうなるかもしれないってことも分かっていてやった気もしている。でも今回は、それとは別。リスクは全力で回避しながら欲しいものだけもらう予定。

 相手をきちんと吟味さえすれば、私なら、今のところはまだ大丈夫だと思っている。春がくれば、もう手遅れだ。今なら、まだギリ、セーフと思うのだ。

 とはいえ、顔写真を出すわけにはいかない。だけどたった1枚の写真で男に───この中に潜んでいる何万という輩の中で最もまともな───ううん、素晴らしくソソる男に───「会いたい」と思ってもらわねば話にならない。実物以上に美しく写っている顔写真なら腐るほどあるが、それを使わずに男を引き寄せ、最後には必ず落とさねばならない。……。

 

 

 想像以上の難易度に、カメラロールをスクロールする指の先にまで力が入る。顔の写りなんて、生まれて初めてどうでも良い。むしろ、写りの良さ故にSNSにはアップ済みの写真には今最も用がない。

 デコルテ重視。首筋から胸にかけてのラインが美しく見える一枚を探している。カメラロールは、半年前の夏までぐんぐんと遡る。光を反射したプールの水色がスマホ画面を埋め尽くす。その青が、今の私の目には痛いほど眩しい。

 忘れられない。バリのホテル、屋上のプール。SNSにあげるわけにはいかなかった思い出の羅列に、不意に胸が苦しくなる。

 センチメンタルに負けてはならない。自分に言い聞かせるようにして、彼が撮ってくれた一枚をタップする。幸せがあふれんばかりの自分の笑顔を真顔で見つめる。……。

 ブルーになっている場合ではない。たったの半年前の自分の幸せを再利用してやろうじゃないか。親指と人さし指をひらいて、自分のデコルテのみを拡大した。

 十分に綺麗だ。もういい。これでいく。思い出が密集したカメラロールから逃げ出すようにして一枚を決めたものの、そこにかけるフィルター選びに妥協はしない。ビューティプラスで美肌加工した後で、SNOWへと飛んでコントラスト強めのカラーフィルターを追加。画像保存したところで、この一枚を持っていざ、ティンダーの登録へ。

 アプリの四角いアイコン枠に写真を当てはめる。唇、フェイスライン、首筋、胸にかけてほんのりとカーブするところでトリミングしてアップロード。

 偽名は、3秒考え、momoにした。

 丸いアイコンに映り込んだホルタートップ式のビキニが、黒だったから。

 名前の桃は、ほんの差し色ピンク。

 プロフィール文は、3分考え、1行にした。知性に自信のない男を排除する目的だ。

 嗚呼、なんてシビアなラブゲーム。愛がないからこそ、すべてはルックスとステイタス。あとは、短文から垣間見えるアティチュード? ここにくる者ならば誰だって、相手選びの基準は、自分の目的最重視。

 私の目的は、一発ヤリ目。

 そして、ヤるに値する男には2種類しかいない。

 めちゃくちゃに愛している男か、めちゃくちゃにソソる男か。

 ─────今回は、後者。 ハードルはいつだって高く掲げる。これは圧倒的にアンフェアでありながらもフェアなゲーム。何故なら、自ら掲げた高いハードルは常にブーメラン。私自身も、自分のフィルターで厳選しまくった特別な男を、めちゃくちゃに誘惑しなければならないのだ。それも、顔を晒すリスクだけはなにがあっても冒せない絶対条件の中で。────できるのか。分からない。やってみる。

関連書籍

LiLy『SEX』

『Numero Tokyo』の大人気連載、女性のための官能小説。 書き下ろしの最新話を加えてついに書籍化! 「この本が、読んでくださったあなたを少しでも、ほんの一瞬でも「ァ」って、キモチ良くできたなら幸せです。何かピンとくるものを感じて本書に腕を伸ばしてくださったあなたを、きもちよくすることに失敗した本作であったならば、期待したのに失望させられた男を捨てるような感覚で「下手クソッ! !」って床に投げ捨ててくださいね」(著者あとがきより)

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LiLy

作家。1981年、横浜生まれ。NY、フロリダでの海外生活後、上智大学卒。音楽ライターを経て2006年デビュー。女性の共感を呼び圧倒的な支持を受ける。小説『オンナ』(幻冬舎文庫)、エッセイ『目もと隠して、オトナのはなし』(宝島社)など著作多数。現在は雑誌「オトナミューズ」「VERY」「Numero TOKYO」にて連載。「フリースタイルダンジョン」(テレビ朝日)に審査員として出演中。

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